こうやって5人で並んで帰るのは久しぶりだった。皆それぞれ部活があるし、アレンとリナリーとラビは生徒会の仕事もある。だから、皆で帰る、ただそれだけの事なのに、何だかとてもふわふわした気持ちになってしまう。やっぱりこういうのっていいな。あたしは、横に並んだ友人たちを見回してそっと微笑んだ。いつものところで曲がって、いつものように見えてきたコンビニを指してあたしはいつものように言う。


「レモンスカッシュとから揚げ串とアイスが私を呼んでいる」
「普通に喉が渇いたお腹すいたって言えよ」
「喉が渇いたお腹すいた」
「耐えろ」
「神田まだですてぃにーの件根に持ってんの?ねちこいなあとろろ蕎麦か」
「とろろ蕎麦はねちこくねぇ、ネバネバしてるだけだ」
「あっあんなところにコンビニが!」
「聞けよ」
「ねえーコンビニ寄ってこうよー」
「なんだかんだ言って奢らされそうなので嫌です」
「いっつも財布をわざと忘れる不届き者だしなー」
「わざとじゃないですうー」
「大体前も財布持ってないのにコンビニ寄ろうとか言い出して僕達が恥かいたんですよ、ほんと大概にして下さい生きるのを」
「おいこら」
「ごめん私コンビニで買いたい物が有るんだけど」
「さあリナリーコンビニ寄りましょう」
「レッツ買い物さー」
「おいこら」


コンビニに入ればピンポンピンポン、といつもの音がして、眩しい蛍光灯の光に包まれたお菓子やら何やらが所狭しと並んでいる。リナリーはカゴを一つ取って、おにぎりやサンドイッチの棚の方へ歩いて行った。よし。


「……何あなたはちゃっかりカゴ持ってんですか」
「え、アレンカゴ持ちたかったの?ごめんね気が利かなくて!はいどーぞ」
「はは、有難うございますウルトラ級にうざいですね」
「ちょ、カゴ戻さないでよ」


貴女が持つべきカゴはこっちです、とアレンはそう言ってリナリーからカゴを預かってあたしに手渡す。お、重!何買う気だリナリー!なんでコンビニでわざわざ烏龍茶買うのさ、ってしかも2リットルかい!部活後のあたしだってそんなカピカピじゃないぞ!


「…リナリーそんなに私生活が潤ってなかったの?」
「馬鹿ねそんな訳ないでしょ。兄さんに頼まれたのよ、烏龍茶帰りに買ってきてって」
「…リナリーに2リットルペットボトル持たせるなんてコムイ熱でもあるんさ?」
「え、私が持つなんて言ってないわよ」
「ぷっ」
「何ですかそれどういう事ですかつまり僕に持てって事ですかそうですよね」


リナリーと最後まで同じ方向なのはアレンだ。へっざまあみろ!もう一度ぷっ、と笑うとアレンはローキックを繰り出してきたのでカゴをアレンのお尻めがけて振った。クリーンヒット!ぐ、と変な音が聞こえたような気がするけど気のせいだ、うん。


「ひ、人のお尻狙うなんて変態ですかあなたは訴えますよ」
「アレンのお尻なんて3つに割れてしまえ」
「貴女の頭が3つに割れれば良いのに」
「はいはいケンカはやめるさ、」


そう言ってラビは抱えていたおやつをカゴにバサバサと落とした。ちょ、重いんだけ…ん?…こ、これは、


「焼肉さん次郎!!」
「お、何さ、なまえも好きなんか?うまいよなー」
「おうよ次郎バリうまよ!」
「まだ残ってたからなまえも次郎買ってこいよー」
「………」
「…まさか、本当に財布持ってないんか?」
「…財布はある、」
「なら「中身が無い」
「…10円くらい持ってないんか?」
「…アルミニウムが4グラムほど」
「………」
「………」
「…諦める事さね」
「うー!!」
「駄々こねない!」
「うわぁんラビのケチエロへんたい!」
「エロ関係ないさ!」


ラビはあたしからカゴを取り上げるとさっさとレジに向かって行ってしまった。じゃあオレが奢ってやるよ、みたいなやさしさはないんかい。ふんだ。ラビのばーかラビのお尻滑って転んで4つに割れろ!!



財布が無い(正しくは中身が無い)あたしは外で皆のお会計を待つ。春なのに風が冷たい気がするのはあたしだけ?そうかあたしだけか。ぴゅうう。なんだか惨めになってきた。すず、と降りてきた鼻水をすすった。あれ、目の前がぼやけて見えるようなそうでないような、
その時、しゃがんで待っていたあたしの背中に圧力が加わった。


「…おっも!何すんのさ!」
「出入口に何か邪魔な椅子が有るから座ってみた」
「よく見て!美少女戦士なまえだよなまえ!」
「とりあえず何処からつっこめばいいんさ?」
「つっこむ前に早く美少女戦士を解放して!」
「オレプリキュア世代だからよくわかんないさー」
「何歳だあんたは」


華の18歳、と漫画なら星マークが付きそうなテンションでVサインを出す自称プリキュア世代。メガトン級にうざい。あたしの上で鼻歌なんて歌いやがってちくしょう!…っていうか早く降りてあああたし腰が砕けそう。降りろっつの。おーりーろ!……い、今から5秒以内でどかないと本当に後でまじで痛い目に遭わせてやるかんな!よし、いくわよ、ご、よん、さん、


「ほい、」
「……………」
「ん、」
「………へ?」
「…だから、ほれ、」
「………くれるの?」


そう言うとラビはまたん、と言って手に持ったものを揺らした。あたしの目の前で揺れる金色と焼肉さん次郎の文字。膝を抱えていた手をほどいてまだ少し揺れるそれを受けとった。

「………あり、がとう」

ラビはまたん、としか返事をしなくて、ラビに上に乗られているあたしはラビの表情も読み取れない。もう一度手の中の焼肉さん次郎を見つめると、今日手伝ってくれたお礼、という声が小さく上から聞こえた。ラビの表情は、今でもよくわからない。ううん、あたしの方が顔を上げられなかったんだ。いま、ラビの瞳を真っ直ぐに見られる気がしない、から。



あたしは下を向いたまま、えい、と焼肉さん次郎の封を切った。



染まった頬は、夕暮れの光のせいではないらしい

10/02/05

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