先生というものは本来公明正大、あたたかく時には厳しく生徒に接するのが定石といえるだろう。ほんの僅かそれに当て嵌まらないひとが居るとしても、私はこの学校の先生達は皆そうだと思う。そしてその『ほんの僅か』にど真ん中ストレートに入るのが、そう、こいつだ。


「いくらご立派なことに生徒目線に立とうとしていらっしゃるとしても、いくらなんでも目線が下過ぎると思いませんかティキ・ミック先生」
「ハア?今の御時世生徒と先生の歩み寄りが大事なんだろが」
「『歩み寄り』には@歩いて近寄るA双方が譲り合う という意味はあってもBいやらしい目つきで短パンの女子高生ににじり寄る という意味はありません」
「別にお前の足は見てねぇからいいだろ」
「何で私の足は見ないんだよ」
「そこかよ」


午後1時半。入場門の前には千年伯爵理事長から問題のティキ・ミック保健医までこの学校の全ての先生が集まっていた。それと同じ数だけ不運にも先生と友好を深める羽目になった生徒達がばらばらと集まっている。本来ならば、私は外野からこれを観戦し神田を思いっくそ笑ってやる筈だったのだか、如何せん今日二人三脚に出る筈の吉沢さんが熱を出してしまったということだから仕方ない。


「てか、折角ピチピチのイケイケの女の子と走れると思ったのになにこの罠」
「私だってピッチピチのイッケイケですけど!」
「取り敢えず性別から違うからな」
「先生よく見て!ぼん、きゅ、ぼん!」
「お前はきゅ、ぼん、ぼんだろ」
「きゅ、って!へこんでんじゃん陥没じゃんクレーターじゃん!超ショックなんですけど傷ついちゃったんですけど!」
「…あのなあ、」
「なによ!」
「何でそんなに無理して元気出してんの?」


別に無理なんかしてない。


そう言い返す筈がぱかりと開いた口からは何の声も出てこなくて、周りの音が消えて、代わりに何故か変態保健医の顔がよく見えなくなった。


「………何で泣く訳」
「うー!」
「は?なに」
「泣い、て、ま、せ、ん!」
「泣いてんじゃん」
「泣いてない!」
「じゃこれ何」
「うー!」
「だからこれは何なの」
「さわ、る、なへ、んたいい!」
「オレは変態じゃねえ、エロいだけだ」
「うわーんティキのばかあほしねー!」
「ちょ、大声出すなよオレが泣かせてると思われんだろ!?」
「ふぐ、う、む、」


ティキに口を手の平で塞がれて、私はただでさえ不覚にも泣いているために息が苦しいのに酸欠状態にもっていかれる。脳が悲鳴を上げるのを感じて、私は力の限りこの変態保健医、もといエロ保健医の脛を蹴り上げた。


「って!」
「はあ、きゅ、急所じゃな、いだけ有り難いと、はあ、思い、やがれ!はあ、」
「あーもう何でオレ蹴られんの?こちとら可愛い生徒の心配してやってんのに」
「じゃあこの手は何なんだ!」
「えー、だから心配してんだって」
「お尻さわんなあああ!」
「あ、入場みたいよ?」


ぞろぞろと入場門から生徒と先生がグラウンドに入っていった。心なしか生徒の足取りが重そうに見えるのは私の錯覚ではないだろう。私もその後ろについて入場門をのろのろとくぐった。ちらりと隣を見れば、ゴムバンドを指先で弄びながらまた前を歩く女子高生の短パンを食い入るように見つめる変態が居たので取り敢えず足を踏んでおいた。嗚呼ちょっとすっきり。嗚呼でもやっぱり気持ち悪い。頭の中がぐるんぐるんする。ちくしょうあんなどうしようもない人間のせいで何で私がもやもやしなきゃならないの。自分が情けない。嗚呼もうなんでラビなの。なんですきなの。分からないよ、もう。照り付ける日差しが気持ち悪い。地面から立ち上る熱気に頭がぐるんぐるんする。隣の変態に促されてゴムバンドに左足を突っ込む。ふらりとよろけたら変態に腰を掴まれた。ちょ、なに勝手に女子高生の腰触ってんの。腰を触られた状態そのままでグラウンドを変態に促されて歩く。だから何でずっと女子高生の腰触ってんのよ。目線を下に落とせば腰に回った変態の浅黒い手とグラウンドの石灰の白いラインが強い日差しを反射して私の脳を刺す。位置について、という誰かの声が何故か遠くなった。おとがきこえない。嗚呼、白いラインが、歪む。


「おいなまえ、」
「なんで、」
「……は?ちょ、おい!」



なまえ。


真っ白い世界の中で、誰かが私を呼んだ。
分からない。分からないよ、
なんでなの。


ラビ。


10/07/25
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -