日差しは真夏のように真上から彼達の頭に降り注いでいる。眩しそうに目を細める仕草や時折体操着の袖で顔を拭う様子からその日差しの強さを思い知るが、わたしのこころの中にはアレン日差しでガングロになっちまえとか、乙女として、そして友人として道に外れた考えしか思い浮かばないのは少し問題かもしれない。直すつもりもあまり、というより全く無いのだが。こちらに気づいたアレンや変態生徒会長さまさまににこやかに手を振る。


「ちょっとなまえなに自分だけテントでうちわ扇いでんですか」
「ちょっと書記さんあなた生徒会の仕事中でしょう集中しなさい」
「うっざ」
「ほらちびっこ来たよ賞品賞品」
「ちっ」
「神田か」


25Mを走りきってかけ寄るちびっこ達に賞品の鉛筆とノートを渡すアレンと生徒会長。般若のような表情をくるりと一変させてちびっこ達の頭を撫でるアレンって、ちょっときみ何か人生の修羅場を幾度となくくぐり抜けて来ましたみたいな感じが高校生としてどうなの。一方隣の変態生徒会長は相変わらず人当たりの良いふにゃりとした笑顔をちびっこ達に振り撒いている。あれはうん、相手がちびっこだという事実を頭の中で繰り返さないとうわってなる。ちらりと横目で隣の体育委員の後輩の女の子を覗き見れば、その視線の先を辿らずとも頭の中の様子がまるっとお見通しというやつである。厄介だ。本当に。苛立たしいわラビのくせに変態のくせにラビのくせに変態のくせに変態のくせに変態のく「おーい」
「…………うっわ近!」
「はあ?」
「いやいや近づく時は一声賭けて下さい会長頼んます」
「はあ?なに、近づいてるさーって言いながら忍び寄れって言ってんの?どんな宣言だよ変態かオレは」
「………やっと、気づいたのね。」
「いやいや」


そこの鉛筆のストックとって、とラビに指さされた方をぶつくさ言いながら振り返ってもそこに鉛筆など見あたらず、ないじゃんよと言おうと開かれた唇は用を無くした。前に向き直ったそこには鉛筆のカゴがきちんとあった。私のでも、ラビのでもない手に抱えられたそれは笑顔と共にラビに渡される。さっきと同じ胸の中をずぐりと刺す音が人事の様に聞こえた。ラビのふにゃりとした笑顔は今は隣の女の子、名前が思い出せないけれど、にだけ向けられていた。ふにゃり。ひとをどこか安心させるような笑顔。だけど、あたしは初めてそれを馬鹿みたいだと思った。さっきまで私だってそれを一人占めしたかったのにね。なんて都合の良い女だろう。そんなことを聞いたらアレンに女だったんですかとか言われそうだとか、そんなことで頭の中を埋め尽くす。けれど、隣から可愛らしい高い声が勝手に鼓膜を震わせてそれを邪魔した。やめてよ勝手に私の中に入って来ないで。入って来ないでよ。こころの中が、いや、身体の中が、黒くて重い何かに侵食されて、満たされていくのを感じた。ぐちゃぐちゃぐらぐら。ぐちゃぐちゃぐちゃぐらぐらぐら、


「なまえ?」
「……………へ?」
「……どうした?顔色、悪くないか?」
「…あ、園田く、そ、そう?そんなことないよ大丈夫、」
「……そう、か?」
「えっと、それよりどしたの、園田くんゴムバンドなんか持っちゃって」
「なまえ次二人三脚だって忘れてるだろ」
「え、私二人三脚出ないよ………ってああああ!今日吉沢さん休みだったああああ!」
「やっぱり忘れてたのな」
「ごめん、ありがとう!私んじゃ行くわ!」


出来る限りの速さで本部のパイプ椅子から立ち上がりテントを離れる。こちらを見つめるあの人の視線には気づかない振り。テントから外に出ると日差しの強さに眩暈がした。嗚呼、走ろう、走らなきゃ。嗚呼、眩暈が、する。



「………ラビ先輩?」
「……あ、ごめん、ぼーっとしてた」
「アレン先輩、待ってますよ?」


振り向けばアレンは一人でちびっこ軍団と格闘していた。ここから見ても分かる眉間の皺と恨みを込めた目に思わず唾を飲み込む。やばい、まずい。けれど。応援している保護者たちを掻き分けて消えていったあいつの、張り付けたような笑顔がこころの何処かに引っ掛かってオレの足を地面に縫い止める。そして目の前の男の存在もだ。ちらり、とそいつの顔に視線を合わせれば、向こうもこちらを見ていたようでばちん、と視線がぶつかった。その目は何処か挑発的で、でも微かに、ほんの微かにだが違う色を帯びているようだった。悲、しみ?分からない。オレにはそれが何なのか、理解出来なかった。あの色を、何処かで見た事が有る気がするのに。あの目をしていたのは、誰だっけ。


「おい、サボるな働けこのクソが」


ふいに後ろから轟いた重低音に思考は遮られ、そしてオレは振り返る事が出来なかった。見たら、オレ天に召される絶対。申し訳ございませんとぺらぺらの言葉を吐いても後ろからのいかがわしいオーラと肩を捻り潰すかのような手の圧力は消えない。


「アレン様すみません可及的速やかに仕事に戻ります」
「可及的速やかにというのは出来る限り速くという意味ですよ生徒会長。しょうがない人ですねえ出来なくてもマッハ10で戻るんだよこのクソが」
「……アレンマッハ1って何の速さか知ってる?」
「え、何でしたっけ」



音速=マッハ1らしい

10/07/19
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