狙いを定めた茶色の標的に向けて私は素早く右手を動かした。


「いただきっ」
「あーオレの唐揚げー!」
「ふん、ふはひ」
「なまえひどいさヒキョーさオーボーさ!」
「なーによ、私あーんなに距離稼いで帰ってきたのにさあ、まんまと筋肉蕎麦に抜かされちゃってさーあ!」
「それって俺の事かよ」
「他に何処の星にそんな硬ったい蕎麦があるのよ」
「それは、………オレじゃないさユウが速過ぎるんさ!」
「へーえ、あーんなに自信たっぷりに『オレに……任せとけ』とかのたまってくれちゃったくせにねえ!」
「オレそんなぶっさいくな顔してないさ!」
「え、結構似てなかった?」
「リナリーキチク!」


午前のプログラムを全て終了し、待ちに待ったお弁当タイムである。いつものメンバーで集まり、それぞれのお弁当を広げて食べている間でも皆のおかずに狙いを定める。ちなみにアレンのお弁当はアウトオブ眼中である。理由?…………私はまだ女として花開く前に死にたくはない。


「それじゃ永遠に死ねませんね可哀相に」
「読まれた!」
「隙有りです」


目線を下げればぽっかりと開いた私のグラタンスペース。やられた!


「私のグラタンがあ!」
「注意力散漫ですよそろそろ起きて下さい12時ですよ」
「しっかりぱっちり起きとるわ!」
「あすみません顔面があまりにも崩れていたので寝起きなのかと思いましたよ紛らわしいもっと引き締めろ」
「紳士お家に忘れて来たのアレン」
「隙有り」
「ぬどわあ!」


確実に底を覗かせるスペースが増殖してきた。私はちらりと横の神田の蕎麦を見遣る。ナイスなタイミングで神田はお茶を啜っていた。


「ほっ!じゅるるる」
「てめぇ!」
「蕎麦うまー」
「おま、
……忘れてたぜてめぇよくも初っ端から恥かかせてくれたなオイ」
「神田恥ずかしいなんて観念あったんだ」
「同感です」
「オイてめぇら、」
「てか忘れてたって……立ち直り早いというか阿呆というか阿呆というか」
「同感です」
「何で阿呆二度言ったんだよ」
「大事なこ「斬る」
「ちょ、なに神田竹刀もちこんでんの」
「………あ、いたいた、なまえ!そろそろ体育委員テントに集合だってさ」
「ナイス園田くん!」


神田の竹刀と死の危険な香りから逃れていそいそとお弁当箱を片付ける。やっとこさお弁当袋の紐を締めて立ち上がった私にリナリーは小さなオレンジゼリーを分けてくれた。


「いってらっしゃいなまえ」
「有難うリナリー」
「どういたしまして」


皆に手を振りビニールシートから出て靴を履く。先を歩く園田くんについて歩く私の手には、少し温くなったオレンジゼリーが握られていた。その調度良い心地良さに少し笑って、見上げれば空はもう青く光っていた。



運動会のお弁当のおかずと言えばから揚げとミニグラタンらしい

10/06/23
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