ずっと薄いグレーで塗り潰されていた空は、いつの間にかパステルブルーに彩られ始めていた。グラウンドの地面にお尻を付けて座る私の頭にそのパステルブルーから差し込む光が突き刺さる。座っているだけでじんわりと肌は湿り気を帯び、伸びた前髪は額に少し張り付いた。

トラックのコース内には白い鉢巻きを着けずとも白い髪をした男子と、そしてそれぞれ赤と青の鉢巻きを着けた男子が立ち、やってくる自分のクラスメートを待ち構えている。そして3人の胸には、100、50、150と数字の書かれたゼッケンが揺れていた。


「アレンがむばー」
「そのやる気の無い応援やめてくださいよ」
「アレンが・む・ば」
「うざいですね」
「ちょ、こんなに応援してるのにー」
「その顔やめてください環境汚染です」
「えー」


走ってくる女の子の掛け声でアレンはスタートした。バトンを受け取り持ち替えるまでの動作は流れるようで、リードの仕方も女の子に気を配った走りをするアレンに、伊達に紳士を名乗ってる訳じゃないんだなあと感心してしまう。なかなか走り方も様になっている。そして意外なことに、アレンは足が速かった。そういえば、私から逃げる逃げ足も相当なものだったと今思い出した。何だかアレンが足が速い理由が朧げに見えてきて少し背筋が寒くなる。あれ、晴れてきたんじゃなかったっけ。


「アレン意外と足速いよなー」
「シッ!ラビ、それはトップシークレットよ!」
「はあ?」
「あ、次園田くんとリナリーだ」


バトンをリナリーより50M手前で受け取った園田くんはリナリーがバトンパスをしている間に距離を詰めていく。二人とも300M走るため、100M程のスピードは無いがそれにしても恐ろしく速い。特に園田くんは、あのリナリーにひけをとらないなんてやっぱり野球部エースピッチャーは伊達じゃない。


「やば、園田くん速っ」
「リナリーに負けてねえさ……」
「来た!園田くんガンバ!」
「……………」


走りながらトラックの中の私達に親指を立ててくれる園田くん。余裕だな君。


「園田氏何とも爽やかっすねラビ殿」
「………そーか?」
「おうよ」



_

何人が私達の目の前を駆け抜けていっただろうか。もう私の前に走るのは1人しか居ない。そして私の後ろには、一人だけ。その私の前の子がバトンを受け取ってスタートした。今、私達白組はは1位の青組から5Mほど離れた位置につけているからまだ、逆転のチャンスはある。


「ラビ、アンカーの勝負になるよ多分」
「そうっぽいな」
「私出来る限り差を付けて帰ってくるから、…………神田に抜かされないでよ」
「オレを誰だと思ってんさ?」


不敵にアンカーの襷をはためかせて笑うラビに親指を立てて、私はコースの中に入る。こちらに走って来る先頭は相変わらず青組の選手で、その直ぐ後ろにまで前のジャスデビくんは距離を詰めてくれていた。ジャスデビくんの合図で私はリードを始める。


「はい!」


バトンが渡され、素早く私はそれを持ち替えた。目の前直ぐに前に走る青組の子の背中が見える。私の中でカチリとスイッチが入った。…………負けないよ、私。

200Mならば全速力で走り切れる距離だから、直ぐにギアをトッブにまで持っていく。私はこれでも現役バスケ部員だ。短距離と長距離に関してなら、女の子には負けたくない。50Mを過ぎたところで青組の女の子をやり過ごし、先頭に立つ。これからどれだけ距離を稼げるかが勝負だ。青組のアンカーはあの神田である。いくらラビとはいえ、まともに同じ距離を走れば負ける。それほど、あの神田という男は手強い。だから私が出来る限り差を広げてラビに繋がなくてはならない。気がつけば空からは強い日差しが降り注ぐようになっていた。自分の荒い息遣いだけが鼓膜を揺らす。少し頭がくらくらした。最後のコーナーを曲がる。降り注ぐ日差しの中であの鮮やかなオレンジ色が揺れた。


「なまえ!」


前に立つラビがぐんぐんと大きくなる。はっきりと読み取れるようになった表情にはやっぱり、何処かひとを安心させる何かかがあって。ふっ、と呼吸の音が消え去った。GO、とリードの合図を出す。それと共にラビはゆっくりと走り始めた。あと5メートル。2メートル、1メートル、


「はい、」


私の手からラビへとバトンが渡る。その時、少しだけ振り向いたラビの唇から零れ出た言葉に私は、荒くなった息遣いを整えるのさえ忘れて駆けていくラビの背中を見つめて笑った。


「っなーにが、任せろ、よ」



上から降り注ぐ日差しの強さを忘れるなんてこともあるらしい

10/06/22
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