私達に素敵な時間を与えてくれた男子は、厄介なものまで置いて行ったみたいだ。ピストルが鳴り一人また一人と歓声の中を駆け抜けて行く。私はその度に、堪え難い衝動と戦わなければならなくなっていた。


「………ぷ、っく………ぶへ」
「…………ぷ、」
「「ぶははははは!!」」
「あーもうやばいどうしようもうピストルが鳴る前の静寂に堪えられないんだけど」
「本当ですよねどうしてくれるんですかね神田ぶひゃは」
「もうアレン喋ってる途中で笑わないでぶふふ」
「ラビ残念でしたね、来賓の方に挨拶まわりしてたんでしょう?あーあこれで人生半分損しましたよラビ可哀相に」
「うわぁんオレも見たかったさー!!バカー!!」
「ちょっとラビ早く前詰めてよ」
「なまえ何か冷たいさー!!」
「ほら早く、前の人が足押さえするひといなくて困ってるじゃん早く逝きなよ」
「ちょっとそれ言葉の暴力反対!」

早くいけい、と言いつつラビの背中をどつけば、ふらりとよろめいて暴力反対、と叫びながら前の女の子の足押さえに(100M走はクラウチングスタートである)向かった。何なんだあのなよなよ具合は。シャッキリしろシャッキリ。茹でたほうれん草だってもっとシャッキリしてるぞ。何回目か分からないピストルの音が鳴って、ラビの前の女の子がスタートした。ということは、私は次の次。しゃがみ込んでいた所から立ち上がって、ジャージに付いた砂を払う。と共に、くらり、と立ちくらみが起きた。直ぐに瞼を閉じて治まるのを待つ。嗚呼、いかん。やっぱり昨日早く寝れば良かった。でもプログラムチェック終わってなかったからなぁ。今更ながら自分の計画性の無さに悲しみを覚える。というより、ラビが色々と渋って色々と遅れたからこんな直前までてんやわんやだったんだ。瞼を開いてみれば前でスタート合図を待つ背中が憎らしくなった。くそ、このやろう。


「おい、なまえ……?」


どうした、という後ろに並んだ園田くんの声に大丈夫、と返事を返して、ラビの方へ歩き出す。


「おーいなまえーもう少しでスタートだから早く頼むさー」
「分かってますよ奥さん」
「何だそりゃ」


おっしゃぶっちぎっちゃるさーなんて手首をプラプラさせて言うラビ。私は何も言わずに足をセットする。審判の位置について、という声で、ラビは私の爪先に足を合わせて体重をかけた。


「用意、」


パン、とピストルが鳴る一瞬前、私はラビの足の下から自分の爪先を引き抜いた。


「パンッ」
「どわっ」


敵は様々なシチュエーションで現れるらしい


10/06/17
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -