はいちゅーもく、と教壇の上に立ち大声を上げるものの、ガヤガヤと個々の話で盛り上がっているらしく、こちらに視線を送ってくる人は誰も居ない。ぐるりと教室を見回してはあ、と溜息をつく直前、ちらりと見えたたった一人こちらを見てくれている女の子。笑うのでもなく、困ったような表情を浮かべるのでもなく、ただただこちらを真っ直ぐにむいてくれている事に何だか少しだけ安心して、あたしは吉沢さんにちょっとだけ微笑んだ。その時パンパン、と手を叩く音がして、黒板を書き終わった園田くんが声を上げた。


「皆、ちょっと聞いてくれるか?」


さっきまでざわざわとしていた教室は園田くんの一声で静まり返る。何なんだこの差は!ちょっとあたし結構傷ついたぞ!


「それは人間性の問題じゃないですか」
「ちょっとそこのモヤシ炒め五月蝿いわよ」
「はははすみません本音がはははこの野郎」
「レディに向かってヤローとはなんだヤローとは」
「はははすみません本音がははは出直して来い細胞レベルから」
「なん「はいはい細胞はちょっくら置いといて、ほらなまえ、説明すんだろ?ほらプリント」
「………へーい」


気を取り直して(白い頭は視界から外して)ぐるりと教室を見回す。皆があたしの次の言葉を待ってあたしを見つめているのが何だか恥ずかしいようなそうでないような。まあ皆っていうのは、クラスメイトただ一人を除いて皆、だけれど。あたしは、少し深呼吸して声を出した。


「……こほん、えー、皆さまご存知の通りですね、体育大会の仕組みを今年は変えてやることになりました」
「オレは許可してない」
「えー、まず紅白分けについてですが、今まではクラスを二分してそれぞれ赤、白としていましたが、諸々の事情を考慮した結果今年はクラス対抗で体育大会を行うことに決定しました」


ここでぱちぱちとまばらな拍手が起こる。うん、いい調子。何か途中雑音が入ったが気にしない。


「そして厳正なるくじ引きの結果、今年のB組、つまり私たちは白組として戦います」
「ちょっとどういう事ですか!」


何だかそこらへんでモヤシ炒めがぶうぶう喚いているがこれも気にしない。


「そして大事なのがここから。競技についてね。各学年の伝統競技についてはそのまま受け継いで、私達は高三なのでスウェーデンリレーと棒引き、そして100m走は全員参加です。100m走以外の個人種目については、黒板にも書いたけど自由参加です。自由参加っていっても、このクラスから黒板に書いた人数だけ参加者は出さなきゃいけないので、あしからず」


ここで園田くんが後を引き継いだ。


「まあやりたい人が玉入れとか、障害物競争とか出るってことだ。やる気があれば全部出てもいいし、自信がないって人はとりあえずスウェーデンリレーと棒引きと100m走だけでも構わない。出来れば皆個人種目に一個でも参加してほしいんだけどな」


少しざわついた教室をぐるりと見回して園田くんが口を開く。


「何か聞きたい事とかあるか?」
「なあ園田、……その先生と二人三脚☆って末恐ろしい種目は何だ」
「え、そこつっこんじゃう?」
「いやいや」
「あー、うん、言葉の通りの種目だ」


種目じゃなくて拷問だろ、という声が後ろの方から聞こえた。


「今年のテーマは生徒と先生の友愛です」


ハートマークを飛ばして言ったものの直ぐさまブーイングが沸き起こる教室。ちょ、あたしの考えに考え抜いたナイスアイデアをコノヤロウ!


「さあ皆体育大会でれっつ愛を育み隊!」


更にブーイングが酷くなる教室内。ちょ、あたしが考えに考え抜いたナイスネーミングをコノヤロウ!ええい!


「文句いうやつはクロス先生様とペアにしてやるかんな!!」


ぴたりと、静寂に包まれる。ざまあみろ!……実は、クロスは高二A組の担任だから一緒に走ることは無いんだけどねフハハハハ


「なまえ、頭ん中の声漏れてるぞ」
「え、まじで」
「いや本当」
「ちょっとなまえ「どどどどこらへんから!?」
「無いんだけどねフハハハハって言ってたぞ」
「ちょっとなまえ、しつも「うっわあぶないあぶない機密情報漏らすとこだったわ」
「ふは、機密情報って何だよ」
「質問があるんですけ「流石に園田くんでも教えられないわー」
「うわ、何だよそれ」
「ちょっとなまえ「ふっふっふ」
「うわその笑い方ウザいななまえ」
「ふっふっ「いい加減話聞けや」
「すみませんでしたアレンさん」
「………はあ。質問なんですけど、その障害物競争の括弧の中のコスプレって何事ですか」
「おっ!アレンくん冴えてるねぇー」


その質問を待ってましたとばかりに言葉を返す。そう、これが、今年の体育大会の勝敗を左右するのは間違いない。自信、というより確信に近かった。だから、ナイスな質問に免じてアレンが心底うざそうな表情をしたのは見逃すことにしよう。


「……さて、今年の体育大会、クラス対抗となった今我々の優勝を脅かすものは何でしょう」
「………なまえの阿h「三年A組筋肉蕎麦でしょうが」
「神田ユウでしょう名前が蕎麦とか何事ですか…………じゃなくて、それがコスプレと何の関係が有るんですか」


アレンの訝しげな顔を見て私はちっちっちっと指を振る。アレンの親指が光速で下を向いたが気にしない。


「分かってないなあ、ウォーカー君。いーい?A組は絶対に神田をどの競技にもひっぱりだこにして出すわ」
「………まあ、体力だけは尋常じゃないですからね」
「A組には麗しのリナリーも居るわ。この学園の2強を有するA組は優勝候補の筆頭と言っても過言じゃない」
「………まあそうですね」
「そこでよ。我々B組が優勝する為には、どちらか一方でも再起不能にすれば道は開けるわ。B組は団結力あるしね。それで、どちらをぶん倒すって言ったら?」
「両手を上げて神田ですね」
「でしょう?そして、神田のやる気を削ぐには?」
「…………それでコスプレですか」


そう、と答えてにっこりと笑えば大袈裟に溜息をつかれた。文句あんのかコノヤロウ!


「…………建前は分かりました。で、本音は?」


アレンの言葉に私はゆっくりと口角を吊り上げる。もう一度、にっこりと微笑んで、口を開いた。


「だって、神田のメイド服、」



「「「「見たいんだもーん☆」」」」


ここでも遺憾無く発揮されるB組のウルトラ級の団結力。これがあれば神田がメイド服でなんやかんやすればB組は優勝間違い無しだ。絶対。うむ。


「絶対優勝するぞー!!」
「おー「なあ、オイ」
「ちょっとジャスデビくんいまいいとこだったのにいー」
「いいとこも何も、さっきからなんかそこのそいつがお前に呪詛かなんかかけてるんだけど」


そこのそいつ、にクラス中の視線が集まる。そこのそいつは人間が出来るあらん限りの恨みを込めた目でこちらをみてぶつぶつと何か呟いている。ちょっと目はイッチャッてるがそれは我らが生徒会長に間違いは無かった。


「…ちょっとラビくん文句があるならはっきりいいんしゃい!」
「うわあその口調とてつもなくうざいですね」
「ちょっとウォーカー君邪魔しないでくれる」
「オレは体育大会の新体制を許可してないさ」
「あーもうねちこいわねえ!何でダメなのよ意味わかんない変態ー」
「ダメったらダメなの!変態違う!」
「あーもうあー!準備はもう進んじゃってるんだから今更遅いもんね!ふんだ!」
「何でオレの許可無しで進んでるんさ!」
「フハハハハちゃーんと許可は貰いましたあー」
「何時の話さ!」
「フハハハハちゃあんと証拠もあるんだからね」


ばっ、とファイルの中から一枚のコピー用紙を見せる。一番上には承諾書の文字。


「オレはそんなんにサインしてない!」


あたしはぶすっとした表情でこちらを見るラビを視界に捕らえて先程の様に口角を吊り上げた。


「何言ってるのよ。ちゃーんと此処にアナタのボインが押してあるじゃない」
「拇印な拇印。オレにボインはねぇよてか押してねぇよ」
「ボインだなんてそんな変態!」
「話逸らすな!てかオレは押してねぇよ」
「押してくれたじゃない昨日の昼休みに!」
「昨日の昼休みはオレ寝てたさ!押してねぇよ!」
「だから寝ながら押してくれたんだってば」
「んな事できるか!……ってお前まさか眠るオレの指を………!」
「大丈夫よラビなら寝ながらだってボインくらい押せるわ生徒会長だもの」
「拇印だろ!押せねぇよ!これで分かったさ、どうして昨日の5限にオレの指が何でか湿ってたかが!寝首かくなんてヒキョーさオーボーさ!」
「さあて皆、絶対優勝するぞ!」
「「「「おー!!」」」」
「シカトすんなさ!」



生徒会長がおいてけぼりにされることもあるらしい

10/05/22
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