あたしは一つ気づいた事がある。それは、昨日の夕方に感じたほんの少しの違和感が始まりだった。その言葉を考えて考えて、そうすればたどり着いた答えはひとつだけ。あたしはこれから、それを確かめに行く。桜の花びらがまだ落ちて来る廊下を早足で通り過ぎ、古さの残る冷たいドアを一気に開けた。
ガン、という少し大きな音に教室の中で振り返ったのは、あたしのクラスメイト達。その中の一人があたしに向かっておはようさー、なんて呑気な声を飛ばして来る。そいつを視界に捕らえて、列を成して並ぶ机の間をずんずんとそいつの居る机に向かって歩いた。まだあたしの心中を察していないのか笑顔でまたオハヨー、なんて言いつつその手をヒラヒラと揺らす。かっちーん。


「おーいなまえシカトかー?」
「………お早うございますいいお天気ですねラビさん」
「え、なまえ何か怒ってない?」
「あら、さっすが生徒会長。良く気がつくのねえ」
「え、ちょ」


バン、と大きな音を立てて彼が頬杖をついている机に両手を置いた。………手が意外と痛い。気を取り直して息を大きく吸い込み深呼吸。目を女の子の様にぱちぱちとさせている目の前の男を見下ろす。


「あたくし、貴方に聞きたい事がございますの」
「え、ちょ、何こわ、」
「昨日、貴方が言った言葉、覚えてる?」


彼はあたしの言葉にぽかんと口を開けた。瞬きの数が更に増加する。何の事だかさっぱり、って顔ね。いい度胸してるじゃない。あたしは唇の端をゆっくりと引き上げた。


「お前がどんな風に委員長になったとしても、って、言ったわよね?」


彼の目が大きく見開かれる。


「それって、どういう意味かしら?」


委員長は厳正に多数決で決まったんだけどなあ、わざとニッコリと笑みを浮かべてそう呟き、彼の目を見据える。それから逃れるかの様に彼はその綺麗な目をさ迷わせた。あたしは笑顔を崩さない。おい吐け、この野郎!


「…ど、どーゆう事さ?オレには良く、」


そう言って頬杖をついていた右手を外してオレンジ色の髪の毛に手をやる。シラを切るつもりだなこいつ!


「どうでもいいから有り髪全部毟られたく無かったら吐けコラこちとらこの顔すんの疲れんだよ変態」
「てか有り髪?有り金じゃなくて?てか変態?」
「てかが多いんだよ変態」
「す、スミマセンでし「吐け」
「…………いや、ね、オレのせいじゃないから、ね?」
「何が」
「いやその、なまえが?体育委員長に?なったこと、かな?」
「はあ?!」
「いやだからホラ、根回ししたのはオレじゃないんだって」
「はあ?!だったら誰なのよ」
「ほ、ホラ、居ただろ?その日の休み時間にさ、走り回ってた奴」


その言葉の意味が良く分からず目の前の男のネクタイに手を掛ければ、ちょ、首は止めて、という悲痛な声と共に教室の前のドアがガラリと開いた。


「ラビになまえお早うございま、」


ラビの首を締め上げるあたしの姿を捕らえた友人は、目を見開いたままその唇を開いた。


「すみません教室間違えました」


言葉と共にガラララパタン、とドアが閉まる。と同時に、勢いよく風を切る白髪がドアのガラスから一瞬見えて、直ぐに消失。


「あいつかああぁあ!!」


ネクタイから手を離しドアに向かって走り出す。またガン、とドアを開けて廊下に飛び出すが、もうその後ろ姿はそこには無くて。それでもあたしは床を蹴ってまだ見えない後ろ姿を追いかけ始めた。教室を出る時、後ろの方で何かがガン、とぶつかる音がしたような気がしても、それはきっと気のせいだ。うん。



主人公は過去は振り返らない主義らしい

10/04/15
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