任務から帰って来て開けたあたしの部屋のドアの先は、あたしの予想と全く異なるものだった。

テーブルの上にはあたしがアレンの部屋に昨日置いてきた筈のチョコレートケーキがラッピングされたままで残されていた。…リボンの色は、銀色に変わっていたけれど。そこにいる筈のアレンの姿は無くて、変わりに白い紙が添えられていた。手に取って開いてみると、やっぱりというかなんというか、いつも通りのアレンの字だった。相変わらず汚いなあ。…だが本当はそんな事を考えている場合ではなかったのだ。その内容はあたしの予想を遥かに越えた凄まじさだったのである。


『こんばんは、なまえ。貴女の素晴らしさには感服致しました。拍手ものですよ本当に。素晴らしいプレゼントを有難うございます。いやあまさかプレゼントのリボンを固結びにする動物、あすみません間違えました、人間がこの世の中に存在しているとは思いもよりませんでした。ははは素晴らしい!!その上手紙をコピー用紙に書くとは!!!ふはははは笑いが止まりませんよ嘗めてんのかコラ。大体何故袋の中に手紙を入れるんですかおかしいでしょうクリームと油でべとべとですよああすみませんそれが貴女の世界の常識でしたね。それに僕チョコレートケーキ食べられないんですけど嫌がらせですかそうですか、ハッ!!一度生まれ変わって人生やり直されたら如何でしょうか。とりあえず女性に生まれないようお勧めします。あ、元々貴女は女性ではありませんでしたね、すみません。可哀相に。とりあえず、性別を否定された上、人間性までも否定されたくなければこれを読んだら直ぐに僕の部屋に来い。走って来い。マッハで来い。そうですね貴女にはやさしい蝶結びの作り方から教えて差し上げましょうかふはははは!!

そして、』



手紙を読み終えたあたしは、ラッピングにそれはまた綺麗にかけられたリボンをとって部屋を飛び出した。アレンの部屋に向かって走り出す。走っている間、自然と笑みが零れた。



どうして?手紙はあんなにも酷い内容だったのに?



………アレンは怒ってない。直ぐに分かった。だってこれが彼の、最大級の愛情表現だって、あたしは気づき始めているから。でもそう言ったら、また馬鹿ですか貴女は、とか、言われるんだろうな。でも、それでさえ嬉しいあたしは、本当に馬鹿なのかもしれない。
走って走って、やっとアレンの部屋のドアの前にたどり着いた。ドアノブを掴んで回せば鍵は開いていて、あたしは勢いよくドアを開けた。

目の前には腕を組んで仏頂面で壁に寄り掛かるアレンがいた。仏頂面のままで、アレンはゆっくりと口を開いた。

「…みたらし団子」

その言葉に笑顔を零せば、アレンもふっと、優しい顔で、笑った。





『そして、もし僕が納得する時間に僕の所へ来たなら、

……僕の好きなお菓子を、教えてあげないことも無いですよ?』



(あの頃、あたし達はこんなにも哀しい世界の中で、それでもきっと幸せだった)


10/02/14
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テーマ「人外ファンタジー」
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