任務から帰って来て開けた僕の部屋のドアの先は、僕が予想していたものとは少し異なっていた。いや、半分正解で半分大ハズレというのが正しい。

テーブルの上には透明なラッピングの中に入ったチョコレートケーキ。そしてそこに居るはずのなまえの姿は無く、代わりに白いリボンでラッピングは閉じられていた。

「…どういう事ですかこれは」

そう口に出してはみたものの、心の中では8割方納得していた。あの優しいマリにまでオッサン女子と言われる人間だ。なまえは。そんな奴がどうしてお色気に走るものか。そんな筈は無い。一週間前そんな事にも気づかなかった自分が馬鹿みたいだ。バレンタインという甘い響きにのぼせていた自分に吐き気がする。恐ろしいですね、バレンタインというものは。

そこまで考えると今自分が究極に寂しい人間みたいに思える。騙されて僕の嫌いなチョコレートケーキを作って来たなまえを散々いたぶって鳴かせてやろうと思っていたのに、目の前には食べる事の出来ないチョコレートケーキのみ。本当に、やってくれますね、貴女という人は。

とりあえずテーブルの上のチョコレートケーキに添えられた手紙が目に入ったのでラッピングを解こ…けない。…何リボンを固結びしているんですか貴女は。しっかりと結ばれた固結びは解ける気配を微塵も見せず、仕方無しに僕は鋏を手に取った。本当に本当に、やってくれますね、貴女という人は。

袋の中から手紙を取り出す。真っ白い紙に(…コピー用紙ですか、これは)ハッピーバレンタイン、チョコレートケーキと白というアレンのご期待に沿ってみせましたよ、明日の任務早いからここらで私は寝ます、とご丁寧にハートマークまで書いて寄越して来た、あの馬鹿は。

もう一度ラッピングに包まれたチョコレートケーキを、零れる溜息を止める事無く見つめた。



さて、明日任務から帰って来たら、どうしてくれましょうかね、あの馬鹿を。


10/02/13
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -