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「話って何ですか、ラビ」

彼はそう言ってオレの部屋のドアを閉めて、こちらに顔を向けた。その顔には好意的な表情というものを一切浮かべていない。まあそこら辺に座ってさー、と言うと足元の紙の山をご丁寧に見回して顔を歪めた。おい、紳士はどうした紳士は。

「あ、その山の上に座っちゃっていいから、アレン」

そう言うと白髪の紳士もどきは、またさらに顔を歪めた。



話って何ですか、とアレンは立ったまま繰り返して言った。その顔からは何の表情も読み取れない。…ダメだ。今のところ、好意的でないことぐらいしかオレには分からない。アイツだったらもっと違う様に見たかもしれないけれど。彼は何時もこちらまで笑いたくなるような屈託のない笑顔を見せたり、怒りを全面にあらわにしたり、子供らしいと言われたらそれまでだが、オレには彼の根底にある素直さが見えていたように思う。そりゃ、腹黒いという意見も有るだろうけれど、彼はそれでも15歳の少年だ。だからこそ、無表情でただ唇を引き結んでいると、どう思っているのか全く分からなくなってしまう。やっぱり、ちゃんと声に出して聞かなきゃならない、か。少しの間黙ったままのオレに、アレンは少し口を歪ませた。

「…ラビ?無いなら、帰りますよ」
「……………」
「ラビ、」
「…アレン、オレの言いたい事ぐらい、お前には分かるだろ?」
「………は?…」
「……とぼけんな。みんな分かってんだよ、お前が嘘をついてる事ぐらい」
「…意味が分かり「分かんねえなら教えてやるよ。……お前、どうして、オレらに、なまえに、嘘をついた?」



「どうして、なまえを嫌いになったから別れるなんて言った?」



オレの言葉に、アレンは少しだけ開いていた唇を閉じた。オレの事を少しの間睨んだ後、その銀灰色は俯いた顔に掛かる白髪で見えなくなった。

「…本当の事を言ったまでです。嫌いになったんですよ、あの人の事が」
「嘘つくな」
「嘘じゃありません」
「じゃあ何でオレの目を見ないんさ」
「…別に」
「本当の事を突かれたからだろ?」
「…違います」
「嘘つくな」
「違います」
「嘘つくなって言ってんだろ!」
「違う!!!」

アレンの白髪が勢い良く跳ね上がった。びりびりとした空気が体を包んでびくりと少しだけオレは震える。額に掛かる白髪の隙間から僅かに見える銀灰色は、突き刺さるような光を放っていた。

「…ぼくだって、」
「…………」
「……僕だって、なまえと別れたくて別れたんじゃありません、」
「…アレ、ン」
「だけど、…だけど僕はどうしたら良かったんだ!!」
「落ち着くさ、」
「…っ僕は、僕はなまえと別れる以外に、一体どんな方法があったって言うんだ!!どうすれば、どうしたら…っ、」
「落ち着け、アレン」




「いったい、どうしたらそばにいられたっていうんだ………っ!!」




零れ落ちたのは、前髪の隙間から僅かに、それでもはっきりと見えた涙と、こころの奥に閉じ込めていた、ずっと変わらない彼女への想い。絞り出すような声に、また少しだけ体が震えた。


10/03/07
11/06/02加筆修正
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