19

ごめんね、アレン。わたしって馬鹿だね。

手の平の中の銀色を見つめる。それは酷く軽くて、軽くて、細かった。分かってた。これが、只の貴方との記憶のかけらであることぐらい。こんなにも、こんなにも小さな繋がりにわたしがすがっていたことぐらい。分かってた。これが手の平の中にあっても、貴方は隣に居ないことを、わたしは、分かってた。馬鹿だよね。ごめんね、アレン。ごめん。

目を閉じれば、留まりきらなかった涙が頬を伝うのを感じた。そしてぷつりと、意識は途切れた。





目を開ければ、蛍光灯の眩しい光が脳に届くのを感じた。さっきまでの白とはまた違う、無機質だけど、あたたかい光。視線をそっと横にずらせば、いつもの顔がよく見えた。



「…リナリー?…ラ、ビ……」
「…なまえ……!」

リナリー、ラビ、そしてコムイさん、婦長たちが、わたしの傍に寄った。皆、息をするのがためらわれるぐらいに顔を近づけてくる。え、ちょ、

「……近、くない?」
「あっ、やだ、ごめんね、なまえ」

わたしの一言にリナリー達は慌ててそう言って、わたしの横になっているベッドから少し離れた。それきりこちらに背を向けたままのリナリーに、声をそっと、かける。



「……泣いてるの?リナリー…?」

「え、あ、馬鹿ね、泣いてないわよ、」

「…そ、う……」

ぱっと振り返ったリナリーの頬に向かって左手を伸ばす。指先が肌に触れると、リナリーはわたしの手の平をそっとその手で包んだ。その手は微かに、震えていた。そしてゆっくりと、リナリーは口を開いた。

「……ごめんね、私、あの時、と、止めて、止めていたらって、一人で大丈夫だとなまえが言った時、引き止めていたらって、
…ごめん、ごめんね。ごめ、」

「…リナリーは悪くないよ。わたしほら、こうやってリナリーとまた、しゃべってるでしょ?ね、…なかないで。リナリー」

リナリーはあたしの言葉に、こくこくとしゃくり上げながら小さく頷いた。反対側に視線をずらせば、変な顔で仁王立ちする神田。

「…いたんだ、神田。びっくり」

チッとまたお決まりの舌打ち。それに、

「変なカオ」
「うるせェよ」
「なまえいつも通り過ぎるさー」
「…いたんだ、ラビ。びっくり」
「ちょ、オレずっとリナリーの隣にいたんだけど」
「リナリーが麗しすぎて見えなかったごめんなさいね」
「もうちょい気持ちこめろさ…」

ラビの呟きに皆が笑いに包まれた。変わらないな。皆。本当に、

「…なまえは寝ても覚めても変わらないさね…」
「ちょっとはしおらしくなってほしいけどな」
「そんなこと言っても、ほら、今日って何日?………まだわたしが任務に出てから一週間しか経ってないじゃないの。当たり前ですう。皆だって変わってないじゃ、」



気づいてしまった。言葉を途中で止めたわたしに、皆の表情も、空気も、止まった。



分かってた、ことじゃない。わたしはもう、アレンの隣で居る資格なんて持っていないこと。アレンが此処に居ないことに、かなしい、かなしいと思うことは、傲慢であること。わたしがあの風の中で掴んだのは、記憶であって、本物の、アレンじゃない。


「………なまえ……」

…駄目。わたしにはそんな資格は無い。だから泣いたら、駄目。駄目なのに。

「…あはは、わたしなんか最近泣いてばっかだよねー、美人が台なしだわよ、」
「………なまえ」
「…何、ラビ?」

「聞いてほしい話があるんさ」



10/02/25
11/05/31加筆修正
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