01
その瞬間、誰かが息を飲む音が聞こえた。
わたしだったのかもしれない。分からない。覚えていないのだ。微かに思い出せるのはあの時の断片。そして気が遠くなるような、冷たい空気。
予感は、あった。彼が方舟から帰って来てから、少しずつ少しずつ何かが違っていった。奏者の資格、レベル4の襲撃、そして引っ越し。彼は教団本部の引っ越しのためのゲートを作るために、私達より一足早く現地に入った。そこでどんなことが起こったのか、詳しい事はわたしは知らない。知りたくても、知ることは出来ない。もうわたしはそのすべを、資格を、持たないから。多分、もう二度と。
「その時は僕を殺して下さい」
気が遠くなるような冷たさの中で彼はあの時確かに、そう言ったのだ。
10/01/05
10/10/01加筆修正