がしゃり、と金属のような何かが地面を叩く音が響いて、止まった。ぎゅっと閉じていた瞼をそっと開けば、土煙の中で黒い背中とその足元に散らばる嫌な光沢の物体が目に入る。嗚呼、やはり何度見ても、その臭いを嗅いでも慣れることはない。喉に詰まっていた息をゆるりと吐き出した時、黒い背中の彼はその鮮やかな色の髪を揺らして振り返った。あ。ばちんと合った視線に思わず申し訳なくなって俯くと、彼は優しい声でおつかれさん、と言った。同時にぽんと肩に乗った手におずおずと顔を上げる。

「すみません、わたし全然役に立てなくて」
「いいんさ、まだ戦うの2回めとかだろ?これでガシガシアクマ倒せる方がおかしいさー」

頑張ろうなー、と言ってにぱ、と笑った顔にはところどころ火傷や擦り傷が浮かんでいて、申し訳なさが込み上げて再び頭を下げた。ただ握り締めていたばかりのイノセンスが目に入って、腑甲斐無くて苦しくて、少し視界がじわりと歪んだ。噛み締めた唇を離して謝罪の言葉を吐き出す。顔を上げて見えた彼は、とても優しい顔をしていた。

「ごめんなさい、ありがとう」
「うんにゃ、女の子なのに悲鳴ひとつ上げなかっただけでも凄いさー」
「…いやいや女の子じゃないですから」
「え?うそ!?」

素っ頓狂な声を出したラビさんは、ちらちらとわたしの胸辺りに視線を走らせた。やだこれってちょっとしたチカンかしらなんて頭の隅で思いながら本物ですと胸を叩く。自前じゃなかったらもう少し大きくしてますから。何で好き好んできゅっぼんぼんにならなきゃならんのだ。さっき感じたあたたかい気持ちが波のように引いてゆく。あれ、少し苛々してきた。

「違いますよ、女の"子"のほうです」
「あっなあんだやっぱりそうさね!………って、え!?」

やっぱりって何だやっぱりって。やっぱりにせ乳ならもっと大きいだろってことかい兎さんよ。きみ絶対巨乳好きでしょ。何よりも胸でしょ。1に胸2に胸3に胸でしょ。もうこれだから思春期の男子ってのはいかん。乳はでかければでかいほどいいと思ってやがるのだちくしょうめ!修行が足りん修行が!って何でわたしこんな胸の話ばっかりしてんのかしら。

「でも、オレと同い年ぐらいだろ?子でも十分いけるさ!」
「あら、ラビさん嬉しいこと言ってくれますね」
「いやいやそれほどでもないさー」
「照れてるとこ悪いんだけど、わたし26だからね」
「あー26、…ってえええ!?」

うんうん、嬉しいこの反応。誰かさんとは大違いだ。きゅっと三日月の形に吊り上がった誰かさんの憎たらしい笑みが思い浮かんでこころの中で舌打ちをする。まだあんぐりと口を開けてこちらを見ているラビさんににっこりと笑顔を向ける。

「戦闘に関しては素人に近いので、指導よろしくお願いします、先輩」

急にやりづらくなった感が否めないと言いた気な表情で、彼はどもりながらおうと返事を返した。ああ、可愛いなあ。10代の男子は年上の女の人に対して常にこうあるべきだと思う。余裕しゃくしゃくに見せようとしても、どこか欠けてしまうような感じ。あどけない笑顔。一体あいつはどこに硝子の10代を置き忘れて来たのだろうか。

「…ん?」

何かに気がついたかのように疑問符の混じった声を出したラビさんに、なに、という表情を浮かべて少し首を傾けると、ラビさんはこちらへ視線を動かして言った。

「…素人に"近い"って、どういう意味さ?」

こちらをじっと見つめる彼に微笑みだけ返して、帰りましょうか、とわたしは彼にそう告げた。


忘れ物何処かしら

11/07/07

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -