「え、室長が言ったんですか」
「…っなまえちゃん!ボクを室長って読んでくれるのキミだけだよ!」

あこの人相変わらずひとの話聞かないな、と思いつつわたしは息を微かに吐いた。4月初旬の夕暮れ、室長室には紅い光が差し込んで空気を染めている。教団の本部は移転して場所が変わっている筈なのに、何故かここは前と同じ気がしてならないのは、このひとの性格に因るところがあるのだろう。現に、前より少し綺麗になっているけれど、前と同じでここは心地好かった。自然と笑みが零れるような、そんな場所だ。


「別に他に呼んでくれているひとはいるでしょ?」
「いないの!今の子供はほんとにませてるの!」

わざとらしくハンカチーフを噛む室長に思わず溜息を漏らした。この人は本当に変わらないのだと分かって、呆れた気持ちとほんの少しの安堵の気持ちを込めて。ここに来て自分の知らない教団の姿にばかり触れていたから、昔と変わらぬ彼の姿は少なからずわたしをほっとさせた。

「室長、わたしは別に子供じゃありませんよもう26なんですから」
「あ、そうだったね」

ごめんごめん、なんて謝っているけれど、彼は昔からわたしを子供のように見ている節がある。このやり取りも何度となく繰り返されてきたものだ。わたしは昔から大人びた顔だと自分でも分かっていたしコンプレックスでもあったが、逆に言えばわたしが子供の頃からあまり姿形を変えていない為に、彼はずっとわたしを子供であるかのように扱ってくる。初めはそれが妙に癪に障ってつっかかるような態度をとっていたが、時とはそういうものなのか、段々と彼の思うところも分かってくるようになって、年の話題は今や会う度の挨拶のようにもなっていた。

「それで、もう一度聞きますけどあい、つじゃなくてウォーカーくんにわたしのこと喋ったのは、室長なんですね?」
「え?うんああそうだね」
「はああああ」

なにその溜息!とまたハンカチーフをくわえて叫ぶコムイ室長に、溜息じゃないですと弁解してわたしはぼふんとソファに沈んだ。今まで頭の中でもやもやしていたものが綺麗さっぱり消えて、思わず笑みさえ零れてくる。うわあなにこのソファ、超絶ふわふわだ。ゆらゆらと体を揺らしてその感触を確かめるのと同時にまた笑みが零れ出す。なあんだ、やっぱりうそじゃない。すきだからどうだとか、昨日の彼の言葉がぺらぺらになって吹き飛んでいくのを感じた。いや、別に信じていた訳ではないけれど。


「なんか、嬉しそうだねなまえちゃん」
「え、そうですか?」
「なんか、新しい悪戯を考えついた子供みたいな感じ」
「……それあんまり嬉しくないです」

まあ当たらずも遠からず、ということか。



溶けた矛盾微笑む


11/06/06
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -