春、と言ってもまだ早朝に関して言えば寒く、食堂の椅子に座った時のその革の冷たさに少し震えた。いただきます、と手を合わせてプラスチックの箸を取り、先ずは味噌汁を一口啜る。あたたかく、というより寧ろ熱く体を流れる心地良さに思わず瞼を閉じた。嗚呼。やっぱり日本食って素敵だなあ。何だか、こころまであたたかくなる。うん、やっぱり、日本食が一番すき。

「意外ですね、日本食好きなんですか?」

あたたかい気持ちが今の冬の様な空気の冷たさに急転する。ぱ、と瞼を開ければ目の前でにこにこと、絵に描いたような笑顔でスプーンを動かす白い道化師が一人。山の様な食べ物の皿に囲まれて、忙しくそのスプーンを動かし続ける。

「何だか、サンドイッチとか食べてるのかなあって思ってました」
「………何で、此処に居るの」

そう言えばその銀灰色の目を見開いて、そして直ぐに目を細めて人当たりの良さそうな笑顔を浮かべ、やだなあご飯食べる為に決まってるじゃないですか、と言って手に持ったスプーンを揺らした。

「そうじゃなくて。どうして、あたしの目の前でご飯食べてるの」

そう言えばまたその銀灰色の目を見開いて、そして同じく直ぐに目を細めて人当たりの良さそうな笑顔を浮かべ、やだなあ貴女と一緒に食べる為に決まってるじゃないですか、と言ってその手のスプーンを目の前に置かれたフォークに持ち替えた。

「………今、朝の6時よ」
「それが、何か問題が有るんですか?」
「………貴方何時もこの時間にご飯食べてた訳じゃ無いでしょ」
「まあ、そうですね」
「あたしと一緒に食べるって、何でこの時間が分かったの」

そうその銀灰色の目を見据えて言えば、彼はああ、とでも言いそうな表情を浮かべてパスタを巻き取るフォークを動かす手を止めた。

「貴女の事が好きだからに決まってるじゃないですか」

にこり、と音がするような整った笑顔を浮かべてさらりとそんな事を言ってのけた。彼のそのへばり付けたような笑顔を睨みつける。

「……馬鹿に、しないで」
「何がですか?」

白い道化師はあたしの吐いた言葉にもまたさらりと綺麗な笑顔を返す。ハッと鼻を鳴らしてもう一度その道化師の顔を睨んだ。

「………それもまた、『ゲーム』のオプションって訳?」
「面白い事を言いますね、貴女は」

最後の一皿を平らげて、唇に付いたミートソースをペロリと赤い舌で舐め取る。蛍光灯の白い光に赤い唇が濡れて光った。15歳とは思えない妖艶さに眩暈がしそうになる。

「貴女はもう『プレイヤー』の一人でしょう?『プレイヤー』が、『ゲーム』のセカイの仕組みに悪態を吐いて、どうしようというんですか?」
「…………」

黙ったままのあたしの目を不思議な色の目で見据える。あたしもその目から自分の目を逸らさない。いや、逸らせない。

「貴女はもうこの『ゲーム』の『プレイヤー』なんです。黙って、動けば良いんですよ」

笑う彼の顔を見つめて数秒、悔しいけれどあたしはば、と白い道化師から目を逸らした。耐えられ無かった。彼は、楽しんでいるんだ。この、醜い『ゲーム』を。それが、悔しい。それに乗った自分も。自分の唇を噛み締めれば、ほんの少し鉄の味がした。血の味も唇の痛みも分かる、限りなくリアルな『ゲーム』。あたしは本当に、『勝てる』の?


「精々、『勝つ』為に頑張って下さいね」


視線を彼の顔に戻せば、またさっきと同じ様に、いやそれ以上に綺麗に、にこり、と音がするような笑みを浮かべた。視線を逸らして目の前のご飯を見遣る。少しだけ冷えた味噌汁を喉まで出かかった言葉と共に飲み込んでも、粟立つ肌は元には戻らなかった。



えた空気を嘲笑う唇


10/04/07
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