お願い、お天気お姉さん。わたしは祈るようにしてテレビの中のお姉さんを見つめた。ちらりとカーテンの開いた窓を見遣ると、外は薄暗く、灰色なのか白なのか分からない空が広がっている。それでは今日の予報です、というお姉さんの可愛らしい声に視線をテレビに戻すと、日本地図の中には雲と、それを上回る数の傘がちりばめられていた。


「今日は全国的に、午前中から夕方にかけて雨模様となるでしょう」


わたしは、菜箸を手に持ったままテーブルに突っ伏した。ああ、最低。



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行ってきます、と母親に手を振ってドアを閉めると、わたしは溜息をおさえられずに空気に向かって息を吐き出した。ちらりと、通学かばんを持つ手と反対の手に持った、トートバッグに視線を移す。せっかく、今日はわたしが自力で(母親のアドバイスは受けつつだが)お弁当を作ったのに、今日は屋上で食べるのは難しそうだ。ああ。自分で作ったというのはこの際どうでもよくて、重要なのは、今日はお弁当に昨日の晩御飯の残りの手作りハンバーグが入っているということだ。一昨日、いや一昨昨日?に屋上でお弁当を食べているとき、何の気無しに聞いた質問に、雲雀さんはこちらとしては驚きを隠せない返答を返してきた。


『あのう、その、雲雀さんって、』
『…なに』
『すっ、すきな食べ物って、ななんですか?』
『……………』
『…………あ、その、すみませ』
『ハンバーグ』
『…え』


なんてかわいらしい好みなんだとわたしが胸をときめかせたのはその時のことだ。よくよく考えてみると確かに初めて話したときもわたしのハンバーグを食べていたような気がする。しかも一回落ちたやつを。雲雀さんが食卓についてご飯を食べている姿なんて想像もつかないけれど、確かに彼はハンバーグがだいすきらしい。今日はわたしのお弁当にハンバーグが入っているから、屋上で食べていたら雲雀さんにもおすそ分けできると思ったのに、生憎のこの雨である。ああ、最低。それにきっとこの様子だと、教室しか食べる場所がない気がする。今日は、ひとりかあ。わたしはまた深い溜息を吐き出して、傘立てから水色の傘を取り出した。目を凝らさなくとも、雨の線が視界にはっきりと映っていた。


淡水魚の呼吸

12/01/25
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