わたしはここ数日、ホームルーム終了を告げる号令と共に教室を飛び出して彼を追いかけている。帰宅部の彼は部活に直行する必要性もなく、それでもさっさと帰って行くにはやはりバイトという目的があるからこそな訳で。わたしは同じバイト先で働いているという特権をフル活用して毎日彼の隣に並ぼうと走るのである。ところでさっきここ数日、と言ったのは、最近彼がバイト先に行く速さが尋常ではないことに起因している。ちょっと前は普通に歩くぐらいの速さで追いつけていたのになあ。ぐるぐるとそんなことを巡らせながらわたしは白い彼の背中にぐんぐんと近づき、丁度校門を出たところで彼の背中をぽんぽんと叩いた。


「わあアレンくん偶然だね!」
「………」


わたしの顔を見るなりスタートダッシュを切ろうとした彼の腕をがっちりと掴んでにっこりと笑顔を零す。走った後でぜいぜい言ってるのはこころのフィルターを通して見てね。


「そうですね偶然ですねはいサヨウナラ」
「ちょっ冷たい!バイオレンス!」


掴んだ彼の腕をぶんぶんと揺らして叫べば、そろりと振り返った彼の眉間に深く皺が刻まれているのが視界に入った。やだなあ、だからツンデレって困るんだから。


「ねえねえアレン、これからバイト?」
「そうですけど何か」」
「ピッポッパッポップルルルもしもしお巡りさん?ちょっと彼氏が落とし物しちゃったみたいで捜索お願いしますう」
「とりあえず何処からつっこんだらいいんですか」
「なあに照れちゃってえこのこのお」
「うわあ心底うざいですちょっ指でつつくのやめろ!」


携帯を持っていない方の、彼の脇腹を突いていた指を押さえ込まれて引き離されたけれど、今のわたしの頭の中はアレンの掌の感触だけでいっぱい。ふわふわで、あったかい。やだなあわたしちょっと変態みたいじゃない。でもふわふわ。それでも彼の眉間には深い皺が刻まれている。やっぱり彼のわたしへのデレは行方不明みたいだ。最近あまり見なくなったと思ったらもう一ヶ月くらい会ってないからそろそろ探してあげなくちゃと思ってたんだよねえ。決意を新たにしてにっこりと彼に向かって笑えば気持ち悪いものを見るかのような目で見られた。やっぱりどこかに迷子になっているらしい。早急に探し出してあげなくては。


「とりあえず一ヶ月前の貴方の居場所から聞いていこうかしら、はいそこ座って」
「……何ですかソレ」
「事情聴取」
「………誰を探してるんですか」
「はっはあーそれ聞いちゃいますか」
「誰だあんたは」


誰って貴方の彼女だよカノジョ。まあ正しく言えば未来のだけど。でもこのご時世に細かいことなんて気にしてらんないでしょう?カコだろうとイマだろうとミライだろうと、彼女は彼女だ。オーライ。現に彼はわたしが勝手に掴んだ右腕を振り払ったりはしないし、うざったそうに眉間に皺を浮かべても表情は、わたしから見れば、少し笑っているようにも見えたりする。彼がとても優しくて、紳士で、どんなひとであっても女の子を邪険には扱えないことはわたしにだって分かっている。けれどその中に、わたしにだけ見せる何かがあるのではないかと、思い上がりもいいとこの考えをわたしはこころの隅に残してしまう。わたしがもっともっともっと、物分かりが良くて頭がいい、誰からも好かれる女の子だったら良かったのになあ。そうであったならきっと、彼に好かれるためにこんな、必死にならなくたって済むかもしれないのに。自分を安心させるために、彼を必死に追い掛けて縋らなくたって済むかもしれないのに。でもすきで、隣に居たくて、すきで、嘘でも、馬鹿みたいに見えたとしても、彼の隣で笑って居たい。学校からずっと続く商店街を抜ければ駅がぐっと近くなってきて、少しだけ歩くスピードが緩まる。彼の右腕を掴んだまま、前より少し高くなった彼の横顔をちらりと見上げれば、呆れたように首を傾けて、ふわりと彼は笑った。


その優しさがわたしを殺すのです

11/03/17
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