アレンウォーカー氏は恋という所物についてどう思われますか。わたしは自分が今までの人生で一度だってしたことの無いような、いや受験の面接のときにしたのと同じくらいに、ってそんなことはどうでもよくて、まあとにかくそのくらいわたしは真剣な顔で、目の前でコロッケパンにぱくつく彼にそう問うた。一瞬だけ、本当に一瞬だけ動きを止めた後またもぐもぐと彼はコロッケパンの咀嚼を再開して、5秒後にごくりと口の中のパンを飲み込む。やだな、何で喉からもフェロモン出すのかなこのひとは。お昼時のカフェテリアはそんな彼のフェロモンなどお構いなくざわざわと賑やかな声で包まれていて、何だか不思議な気持ちがする。

「素敵なことだと思いますけど」
「うわ出たありきたりパターン!」
「貴女は僕に何を求めてるんですか」

いやだから貴方が恋してるかどうか聞きたいんだよそのくらい察してよ。とは言える訳も無く、音に成らない言葉はもやもやと濁ってわたしの中に溜まっていくばかりだ。もうかれこれ1年ばかり、わたしはこのもやもやを身体の中に収納し続けている。いつかわたしの身体はもやもやで構成されるようになるのではないだろうかとも最近思う。そうなったら体重減っていいかもなあなんて逃避もいいとこの軽い考えは頭の隅に押しやって、わたしは右手の中の牛乳を喉に流し込んだ。

「もういいです聞いたわたしが馬鹿でした」
「やっと気づいたんですかおめでとうございます」
「うわうぜえええ」
「とりあえずその趣味の悪い白ヒゲ何とかしたら如何ですか」
「普通に牛乳付いてるって言ってよ」

手の甲でごしごしと口を擦れば思った通りの湿った感触が手の甲に触れて思わず顔をしかめる。ちらりと目の前の彼を見れば同じ様に顔をしかめる、というより唇を歪める彼が視界に入った。なによ、と言いかけて唇を開いたとき、彼は大仰に溜息をついてポケットからポケットティッシュを取り出してわたしに突き出した。本当に気が利く男だアレンウォーカー氏。

「貴女がだらし無いんですよ」
「でもさこういう時って普通ハンカチじゃないのドラマとかだとさあ」
「牛乳って臭うんですよね」
「ワーオ」

それに何でわざわざ貴女とドラマチックな展開に縺れ込まなきゃならないんですか、そう言って今日1番のめんどくさい顔を露わにし足を組む目の前の男アレンウォーカー。言っておくがこれは実際に目の当たりにすると果てしなく苛々するので注意して欲しい。まあわたしの苛々はともかく、今はっきりと分かったことは綺麗に洗濯されアイロンをかけられたハンカチーフを返しつつ有難うアレンくん、なんてほのぼのロマンチック恋愛ドラマ的展開は見込めないという何とも残念なお知らせである。切ない。

「……っ牛乳馬鹿にすんなよ!」
「馬鹿にしてませんし何の反論ですかソレ」
「分からん!ちょっと苛々したから言ってみただけだ!」
「うわあ逆ギレですか」

さーいてー、だなんて女子高生トーンで言いつつわざとらしく口に手を当てたアレンウォーカーが憎らしくて苛々して仕方がない筈なのに、呆れたような表情もやっぱりかっこいいなあなんて思うのは惚れた弱みというやつなのだろうか。次も講義が有るらしい彼はちらりと自分の腕時計に視線を送って、僕先に行きますと言い席を立った。テーブルに頬杖をついたわたしは空いている方の手でひらひらと彼を送り出す。あ、と今思い出したかのような声を上げてわたしの後ろ辺りで静止した彼は、直ぐにこちらに向かってずい、と上から顔を近づけた。

「僕をオトそうって云うんなら精々頑張って下さいね」

左の耳元でそう呟いて口角を吊り上げた彼はひらひらとその右手を振りながらトレーを持って去っていく。微かに聴こえた鼻歌のメロディが耳に遺って仕様が無くて、わたしは思わず左耳を塞いだ。左耳に熱が集まるのを感じて唇がへの字に曲がる。というより何時ばれたんだわたしの気持ちは。


午後の空気は厭に熱い

11/03/19
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