女の敵とは何だろうか。可愛らしくて完璧な女の子?肌が綺麗過ぎる男?プレイボーイ?はたまた日差しか冬ならば乾燥か。不詳、わたしの周りには今挙げた全てが常時が万事居るのです。因みに言えば今は大乾燥時代に突入中。お肌のダメージはかなりのものだ。そしてわたしの目の前には、わたしが思う最も側に居たくないもの、わたし的キングオブ女の敵がきらきらと笑顔を振り撒いているのである。嗚呼もうほんと帰りたい。

「僕別に貴女の敵じゃないと思いますけど」
「えわたし声に出してた?」
「丸聞こえですけど脳内」
「頼むからエスパーやめてエスパー」

はいはいと絶対に聞いちゃいない返事を返してアレンはテーブルの上のガラスコップを引き寄せストローに口を付けた。一瞬でガラスを緑色に染めていたクリームソーダが消失し中の氷がからりと音を立てる。ジュースを啜る時に音を立てないのは伊達に紳士を語っている訳じゃないんだと思い知らされて独りでに溜息が漏れた。はあ。テーブルに向かって溜息を吐いた後顔を上げればまたもや笑顔でコップを突き出すアレンの姿が目に入る。なによ。

「オレンジジュースで」
「は?」
「だーかーら、オレンジジュース」

ん、と手に持ったコップをわたしに向けて揺らすと、中の小さな氷がからりとまた音を立てた。はあ?と顔を歪めて聞き返せば笑顔のままワリカンにしますよと呟かれた。否応なしに視界に入る積み上げられた皿の山。行ってきますアレン様。

「オレンジジュースですからね」
「はいはい分かってるよ」
「そんなこと言ってこの前クリームソーダ頼んだら緑茶持ってきたくせに。若いのに耳が遠いんですかねえ可哀相に」
「きええええい!」

お昼時を少し過ぎたファミレスは人もまばらで、そのまばらな人影が皆こちらに振り返ったのを感じてわたしはガラスのコップを握り締めてマッハ5で回れ右をした。顔を背けて肩を震わせていた忌ま忌ましいやつの存在は見なかったことにする。アウトオブ眼中。くすくすという忌ま忌ましいやつのものではない笑い声に、わたしはそそくさとテーブルを離れてドリンクバーの所へと歩を進めた。


-

氷を入れてないぬるーいオレンジジュースをさらにぬるくして不味くするべくあらん限り握り締めながらテーブルに戻れば、新たなお皿が彼の目の前に置かれておりスプーンで一口目を口に運んだ所だった。まだほかほかと白い湯気を立てるドリアにまた溜息を吐き出しながらその横に生暖かいオレンジジュースをコトリと置けば、あひはほうほひゃいはふと口をハフハフさせながら言われた。くっそ口の中目一杯火傷しちまえこのやろう。

「はあほんとまじ意味わかんない」
「ひゃひはですか」
「いや前半わかんないから」
「何がですか」
「いやだから前半がね」
「だーかーら、さっき『何がですか』ってそう言ったんです早急に理解しろ」
「すいませんでしたナイフ向けないで下さい」

相変わらずハフハフとドリアを口に運び続ける目の前の男を半目で見ながらテーブルに頬杖をつく。嗚呼もうほんと意味が分からない。どうしてこの男はこうも胃袋が宇宙クオリティなのだろう。いや、胃袋がアレなのはまあいいとして、これだけのエネルギーを一体どうしたら消費できるのだろうか。彼が車とかだったら絶対に環境破壊の第一要因ブラックリスト筆頭に並ぶことは間違いないと思う。燃費が悪すぎる。言っておくが時は21世紀、世の中はエコエコライフに染まっているんだぞアレン・ウォーカー氏よ。

「ねえアレン家ってもしかしてさ、廊下がランニングマシーンだったりすんの?」
「はあ?昨日貴女は一体何処を見てたんですか。ふっつーに肉まん馬鹿みたいにむしゃぶりつきながら廊下歩いてたじゃないですか」
「いや床がぐるんってなって登場したりすんのかなって」
「忍者屋敷か」

てか馬鹿みたいにって何だよ失礼な。相変わらずチーズを伸ばしながらハフハフしている目の前の男を睨みつける。大体女の子の前でこんだけご飯食べてそのひょろっちい身体とかそれこそ馬鹿みたいにおかしいだろう不条理だ。女の敵め!わたしのお腹の肉とか肉とか肉とか一体どうしてくれるんだよ!こころの中で目の前の男を罵って睨みつければ、ドリアをごくりと飲み込んだ彼はスプーンでわたしのお腹の辺りをゆらゆらと指して言う。

「そのお肉別のところに付けば良かったですね」
「なっわたしのシークレットゾーン何時見たんだよ!」
「昨日も存分に見ましたけど」

あ、と思ってもバケツ、じゃなかった墓穴を掘った事実は変えられない。昨日あったもろもろのことを思い出してかあっとあつくなった体中の血液という血液が顔に集まるのを感じる。思わずなんでだよと叫ぼうとしたけれど、ぱかりと開いた口からは何の音もこぼれ落ちない。ぱくぱくと魚のように口を動かすわたしをにやにやとした顔つきで見つめる彼は本当に女の敵、いやわたしの最大の敵に違いなかった。


ティータイムラバーと回遊魚


11/02/27

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