「あけましておめでとうございます」
「ねえところでアレンはゆくとしくるとし派?それともアイドr」
「電話切りました」

切りましたって何よ!とひび割れたノイズが携帯電話の穴から漏れ出して思わず本当に携帯電話のあのボタンを押しそうになったのをどうにかして新年を迎えためでたさで押さえ付ける。もしもしアレン、と変わらぬ音量でノイズを撒き散らす携帯電話を人差し指と親指だけで持ち、聴こえてますよと声を送る。

「聴こえてんのかーい」
「ああもううっさいな聴こえてますよ」
「もーしもーし」
「だから聴こえてますって、てか後ろ五月蝿いんですけど」
「え?…ああ、いま家の近所の神社に来てんの、…あっおばーちゃん甘酒!」

遠くではいよーという返事が返って来たのが携帯電話を通じて右耳に届く。さっきからやけに声が大きいと思えば彼女はいま初詣に外に出ているらしい。多分家族と一緒なんだろう。外で寒さに凍えてるざまあみろなんて気持ちは不思議と起こらなくて、部屋の床暖房でぬくぬくおこたにあたっている僕は何故か寧ろ彼女が少し羨ましくもあったりして。そんなこと口が裂けても携帯電話が裂けても声にしたりはしないのだけれど。身体からずり下がったおこたの布団を携帯電話を持っていない方の手で引き上げながら声を発する。

「大体何なんですか新年早々何で貴女の声を聴かなきゃならないんですかもう今年の僕が思いやられますよまだ御神籤も引いてないのにてか引いたら間違いなく末吉ですよああ最悪」
「ちょっと新年早々何なの、てか末吉とかなんて中途半端なんだよせつなすぎるじゃんか」
「今の僕プラスティック・ブロークン・ガラスハートなんで」
「いやガラスなんだかプラスチックなんだかわかんないよどっちかにしてよ」
「ガラスです」
「プラスチックでしょ、てかそのプラスティックって言い方きもい」
「いやブロークン・ガラスハートなんで」
「…っはあ、もう本当疲れる」
「お前が言うな」

いやほんと、と途切れ途切れに荒れた息が鼓膜を震わせて僕は思わず顔をしかめた。携帯電話の前でわざとゼエハア言っている彼女の阿呆面(想像図)が頭に張り付いて苛々を募らせる。ぐい、と力任せにおこたの布団を引けば天板がずれて上に乗っていたみかんがころりと床を転がっていった。嗚呼。おこたに身体を入れたまま何とか身体を伸ばしてみかんを取ろうと試みたけれど案の定指先は届かなくて、足を伸ばしてみても爪先でどうにも届かない。くそう。仕様がないので大晦日恒例の新聞ほどの厚さの広告を掴んでみかんを手繰り寄せる。漸く手元に転がって来たみかんに親指をかけて剥きはじめたとき、肩と頭で挟んだ携帯電話から何も音が聴こえないことに気がついてもしもし、と声を発すればあっごめんなんて声が遠くから耳に届く。

「ごめんちょっとアレンと電話してる場合じゃなかった甘酒でいっぱいいっぱいゼエハア」
「電話切りました」

ちょっとまってあとちょっとだから!とあのボタンにかけた指が見えているかのように叫ぶ彼女の声が途切れ途切れに聴こえて思わず溜息をゆるりと吐き出す。携帯電話の画面は31分05秒、06秒、と通話時間をゆっくりと増やしていく。よくまあ新年早々電波スクランブルの時間帯に繋がったものだと思う。そんなことを言ったららぶなのだよとかそんなことを言い出しそうなので敢えて突っ込みはしないけれど。

「てか、わたしよく携帯繋がった、よね!これが愛!でぃすいずらぶ!」
「息切れてんじゃないですか自分で言うな」
「息切れも、愛!」

何言ってんだこいつは、と脳内に言葉が巡って口をついて出そうになりかけたとき、ピンポンと真夜中に不釣り合いな電子音が部屋の空気を震わせた。

「…………不審者に襲われそうです助けろ」
「大丈夫!ちょうかわいい不審者だから!間違いない!ゼエハア」
「うわあほんとまじ僕襲われるヘルプ」
「おっしゃわたしが助けちゃる!ゼエハア」
「怖くておこたから出られませんヘルプ」
「ちょっとまじ寒い!凍える!ドア開けろ!」

1番最後の台詞はインターホンから流れ出していた。ドアあけろおおおなんて五月蝿くて真夜中に近所迷惑だからしぶしぶこのあったかいおこたから出るのであって、決して他意はない。ほら、余りにも五月蝿いし面倒臭いから、それだけだ。甘酒だって呑めるし、ね。久しぶりにおこたから出した足は靴下を履いていないために少し寒かったけれど、何故かその足取りは軽く、ゆるやかなあたたかさが胸を満たした。ほんとに、新年早々やってくれますね。貴女は。


11/01/01
2011年もなんだかんだで甘いアレン
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