アレンなんて嫌い、そう口に出せば彼の表情が一瞬にして凍結した。その表情を見た時、嗚呼しまったなんて思ったけれど、此処で同情して優しい言葉をかけたりなんかしたら何時もの二の舞だ、とこころの中で繰り返して出来る限り冷たい目をして彼に背を向ける。そうした後見えた誰も居ない暗い廊下に何だか急にひとりぽっちになったような気がして少しだけ、後悔したけれど、背を向けた以上歩きださなければならないのだと自分自身に言い聞かせた。そして重たい足を一歩、前へ踏み出す。そうすれば、後ろから、少年と青年をさ迷う甘い響きの音がした。

「それで僕に背を向けたつもりですか?」

踏み出した私の足はその一歩で止まった。さっき見えた表情からは想像も出来ないような響きが私の鼓膜を揺らす。振り返りは、しない。

「#name#知ってます?地球って、丸いんですよ」
「………何が、言いたいの」
「背中を向けたって、僕の方を向いている事に変わりは無い、でしょう?」

そんなの屁理屈だと頭の中で叫ぶ声はあっても、言葉として出て来ない。振り返ってその目を非難を込めた目で睨みつければ、さらりとほら、何時もの様にあの笑顔で受け流される。だから憎いんだ。彼の気持ちが、掴めない。私はアレンの彼女である筈なのに、彼の気持ちが時々分からなくなって、そしてこんな風に知らない女の子にだって優しく笑顔を向けて慰めるアレンが時々憎くなる。その知らない女の子に向けた真っ黒いどろどろしたものが身体の中に溜まって息が上手く出来ない。その女の子はこの哀しい戦争に何の罪もないのに巻き込まれて、唯一の家族である兄を失った。アレンが彼女を慰めたのも人として当たり前の事だとも思う。思う、けれど、頭では分かったつもりでいても、どうしたって、この胸の中のどろどろは、消えない。分かっているんだ。一番きたないのは、私。一番憎いのは、こんな風にひとを憎いと思う、私だ。分かっている、けれど、私はこんな風にしか出来ない。もう一度、アレンの銀灰色の瞳を睨みつけた。

「そんなに僕が嫌いなら、そうですね、下でも向いたらどうですか?」

そうすれば僕を見ずに済みますよ、と彼は微笑む。私は唇を噛んでひとを嘲笑うような彼の視線から逃れた。違う、と言いたかった。すき、と言いたかった。でも、言いたかった、だけ。私は何時だって弱くて、何かをただただ待っているだけなんだ。白い床に映る自分自身の影を何の目的も無く見つめる。そして次の瞬間、俯く私の視界の中に白い何かが揺れるのが見えて、その隙間から紅い五芒星が微かに閃いた。

「ザンネンでした」

響いたのは小さなリップ音と、私の心臓がどくどくと揺れる音。俯いたままの私を見上げて、しゃがみ込んだ白いひとは何もかも御見通しだというのか、満足げに、挑発するように口角を吊り上げた。


round!round!round!


10/05/15

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