The Gypsy (フィオナのとある一日)03


その夜はルフィとチョッパーのテントに寝かせてもらったけど
寝てる間も動き回る彼らに蹴られ殴られ、安眠はできなかった。

早朝のまだ寒さの残る時間に、そっとテントを抜け出し出発の準備をした。

日の昇る東に身体を向けると、どこまでも歩いていけるような気がした。


「おい、フィオナ。」
「あっ?」


早朝にも関わらず、半裸のエースに驚き飛び上がった。


「お、送ってくよ。」
「いや、結構です。」
「また歩くのか?脚、痛そうだったぞ。」
「いいって、みんなによろしく伝えといてください、さようなら。」

「あのな、昨日みたいに危ない目にあうぞ。悪いことは言わねえから乗ってけ。」
「あんたがいなけりゃ安全よ!変態!いろんな意味で変態!」
「オレより強引なのがいたらどうすんだよ!」

急に掴まれた腕を即座に振りほどき、振り返らずに歩こうと決意した。


「・・・フィオナ。気をつけろよ。」

その言葉と共にまた、テンガロンハットが足下に落ちて来た。



どうにも彼のことが理解できず、振り返ることはできなかったけど。
そのハットはありがたく頂戴した。



とはいえ、その6時間後にはこの行動を激しく後悔する羽目になった。

やはり、テキサス。
どんなに歩けど、何も見えてきやしない。
退屈な代わり映えのしない風景にも嫌気がさし、またあの強い日差しが降り注ぐ。



「・・・送ってもらえばよかった・・・。」

だが、昨日の教訓でヒッチハイクする気にもなれず
ひたすら歩くしかないと、頭の中では何がしのファンファーレを鳴らして
少しずつ近づいてくる山を目指した。


相変わらず砂埃をあげて通り過ぎる車、昨日よりも通る回数が少ない気がした。

イヤでも目立つテンガロンハットを被っているせいか、ドライバーたちの視線が痛い。

通る車も、汚いトラック、汚いアイスクリームワゴン、汚いSUV、キレイなBMV・・・

今の車、やけに綺麗だった。


通り過ぎた車をみようと背筋を伸ばすと、その車は音を立てて停まって少しバックしてきた。
黒光りするその車は明らかにこの辺の車ではない。
立ち止まって見つめていると、車はどんどんと私の方へと近寄ってくる。

やがて、ピタリと私の真横についてウィンドウが機械的に下がっていく。

中からは甘い香りのする煙が流れ出て、その奥には白髪の紳士。

その男はぎろりと私を睨むと、無言で車のドアを開けた。

「・・・乗せてくれるの?私、お金ないけど。むしろ欲しいけど。」
「・・・。」

何も言うこと無く、私をじろじろと見つめているが
車から漏れ出すエアコンの冷気が心地よくて、私はそのままで立ち尽くしていた。


身なりからしても金持ちで間違いない。
身を売るなんてことはサラサラごめんだけど、
この人なら送ってくれて、なおかつお小遣いくらいくれそうだ。

「脚フェチなんだ、脚見せろ。」
「は?」
「あ し 。」
「へ?」


時が止まった。

まさかそんな、こんな、どんな?
紳士の口から煙の他にそんな言葉が飛び出すとは夢にも思わなかった。

「脚見せたら、乗せてってくれる?」
「いい脚だったらな。」
「・・・、脚ね。半分でいい?」
「いいから見せろ。」

脚の為だけにずいぶん凄みのある声、その重圧に私はあわててジーンズを膝まで上げた。
私は太ってはいない。むしろクスリのせいで今は細い方だし、楽勝だろうとタカをくくっていた。
しかし、自分でもその脚を見たときには泣きそうになった。
ずっと掻きむしっていた血の跡、ただれた皮膚。
とうてい「いい脚」とは言えなかった。


「・・・残念だったな。」

冷酷にもドアはバタンと閉まり、今度はエンジンの熱気が肺に入り込んでくるようだった。

その場に座り込んだ私は動くことができず、その男の気持ちも分かる気はするけど
なんのフォローもないその言い方に無性に腹が立った。

高級車は私を置いて制限速度を越すこともないであろうスピードで走り去る。
それが猛スピードならなんとなく許せるけど、あああ、腹立つ。

しかし、本当に痛々しい脚をしているもんだと
他人事のように思いながら、私はまた立ち上がり、山に向かって歩き出した。

エースの言った通りだった
やっぱり送ってもらえば良かった
警戒心を持たないことも危険だけど
持ちすぎても、こうなる。


ため息しか出ない、心無しかまた歩くスピードが落ちた。
歩いても歩いても荒野、
歩いても歩いても太陽、

いっそこのまま、あの木のように枯れてしまおうか

そんな胎内回帰願望みたいな、もう地球に回帰願望みたいな
そんな気持ちになった。



「おい、ねーちゃん。いくらだ?」

背後からエンジンの音と共にかけられた声に、私の頭の中の何かが切れた。
いくらか?だと。どいつもこいつも、そればっかり。
もう許さない、もう殺してやる。
お前を地球に回帰させてやるっ!!



「ひゃ・・・150万ドルだコラぁ!!!!!!」


勢い良く振り返ったその先には、見知った顔が。

でもこの時ばかりは、嬉しかった。

イタズラににやにやとするその顔がただただ嬉しかった。


「・・・ゾロ!」

「150万ドルかぁ・・・きびしーな、兄弟。」
「うむ、無益。」

無益って・・・。
いやしかし、二人は見たこともないキャデラックのオープンカーでふんぞり返って
口元をゆるめ、ふざけ合っている。信じられない・・・

「乗れよ、フィオナ。」

私は、ゾロの仲間のままでいいの?
また、一緒に旅していいの?

そんなことを口走る前に
私を見つけてくれたことが嬉しくて

私は思いっきり車に飛び乗って、ゾロの首を折る勢いで抱きついてしまった。

ここはアメリカ

キャデラックに乗ったサムライがいたっていいじゃないか
ゾロと一緒にいられたら、それだけでいい気がした。

最終目的地はマイアミ

それまでは何があっても離れない
そう誓った。

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