Chapter 26 : 石と骨


少しばかり豪華なロビンとナミの部屋のソファに座ったアンジェリカは
だらりと肘をついてテーブルを見つめていた。

デスクに向かうロビンは、アンジェリカに渡された資料に目を通すと
丁寧にまとめて静かに息をついた。

「・・・で、なんて書いてあった?」

視線を動かすこともないアンジェリカの
その視界にわざと入り込むように、
ロビンは資料をテーブルに置いた。

「・・・字が汚くて読めないわ。」

アンジェリカはちらりとロビンを睨むと息をつき、
不満の隠ったため息を吐き出した。

「悪かったね!字が汚くて。」
「あら、やっぱりあなたが書いたのね。」
「ふん、あんたに頼んだわたしがバカだった!」
「・・・でも、不思議ね。あなたも古代文字が扱えるなんて。」

ロビンは不満に口をヘの字に曲げたアンジェリカを
少し宥める様に優しく語りかけるが、
当のアンジェリカは子供じみた無言を決め込んだ。

「あなたが探してるのは・・・この『暗闇』と呼ばれている場所なのね。」
「・・・ああ。」
「じゃあ、私たちと一緒に来たら?」
「え?」
「船長も、あなたのこと気に入ってるみたいだし、私たちと旅をしていたら
見つかるかもしれないわ。」
「いや、それは、無理。」
「どうして?」
「時間が・・・あまりないんだ。」
「どういうこと?」
「・・・。」

アンジェリカは視線を落とし、再び黙り始める。
言いたいこと、言えないこと、言ってはいけないこと、
抱え込むことの辛さや、その重圧を知っているロビンは
その気持ちがよく理解できた。


「ねえ、あなたみんなの胸に顔を触れて名前を言い当ててたみたいだけど
あれは、何かの能力なの?」
「唇から感情を吸うんだ。自ずとその人の情報も入ってくる。」

「どうして私にはそうしなかったのに、名前がわかったのかしら?」


「・・・クザンに会った。」

「青雉に!?」

「あんたに会うべきだと言われていた。」

「...そう。」

「空白の100年を追っているそうだな、知ってどうするんだ。」
「私は知りたいだけよ。」

穏やかな表情で返したロビンは、アンジェリカに背を向けて船室の扉を開けた。

「私は洞窟の奥へ行ってみようと思うの。あなたもどう?」

信頼できる人を見つけるまでに長い時間を費やした大人は、
自分のそれに少し似た小さな心に深い関心を寄せていた。

漆黒の瞳の奥に潜む、そのロビンの気持ちは
アンジェリカにもしっかりと伝わっていた。








フランキー、ウソップ、ブルックを船に残し
一味とアンジェリカは岩場に降り立った。

一本に続く洞窟の中、暗い道を進んでいく。

「なんか、手つかずの洞窟って感じね。お宝あるかも!」
「フフ、ナミは楽しそうね。」
「でっけー肉とか無いかなー。」
「あるわけねえだろ。」
「しっかし、ゴツゴツしたとこだなあ・・・。」
「ここここ、怖いな!暗いし!・・・。やめようよ!やっぱり!」

震えるチョッパーの手を取りアンジェリカは歩幅を合わせるように少しゆっくり歩いた。

「手をつなぐと怖くないぞ。」
「え、て・・・手ぇ繋いでくれたって・・・うれしくねえぞ!コノヤロがっ!」
「わたしが小さいとき、パパがよく手をつないで歩いてくれたんだ。怖いときね。」

「じゃあおれもナミさんと手ーつなー」
「近よらないでよサンジ君!」

洞窟を真っすぐにしばらく歩くと、洞窟は3方向に分岐していた。

「分かれ道・・・か。」

「おーれこっち!」

ルフィは考えもなしに左の道へと走って行った。

「まあ、何も無いとは言い切れん。ナミさん、おれとこっち行こう!」

「じゃあわたしはルフィの行った方に・・・。」

「私も。」

ロビンとアンジェリカはじっとルフィの行った先を見つめた。

「じゃ、おれはチョッパーとまっすぐの道を行くぞ。」

「おう!」

「はぁ、私はサンジ君と右ね。」

アンジェリカはみんながそれぞれの方向へ歩いて行くのを確認すると
左の道へと歩き出した。

「・・・どうして左だと思った?」
「人間だからかしら?迷ったときって、左を選ぶじゃない。」
「・・・人間・・・か。」

アンジェリカが左を選んだのは、『呼ばれた』気がしたからだ。
どこか不安や怖さを感じながら、アンジェリカはどこまでも続くような洞窟をロビンと進む。

いまだルフィの姿が見えなかった。

「どこまで走って行ったんだよ・・・ルフィー!!」
「まさか、本当にお肉見つけたのかしら?」
「ロビン・・・あんた本気で?」

しばらく歩いて行くと、洞窟の道が広がりやがて広い場所に出た。
ルフィはそこで大の字に寝転がり、ぜえぜえと呼吸していた。

「は・・・走りすぎた・・・。」
「バカか、おまえは。」


そんなやり取りには目もくれず、見開いた目の先に
微かに見えるものに向かって歩き続けた。


「・・・まさか、こんなところに!」

「ロビン?どうした?」

ロビンはランプダイヤルを取り出すと、足下を照らし
岩の隆起を膝をついて湛然に調べ始めた。

「アンジー!ルフィ!手伝ってくれる?」

突然のロビンの呼びかけに、
ルフィとアンジェリカは顔を見合わせるとランプに
照らされたところまで走った。


そこには黒い大きな鉱石がゴロゴロと転がっていた。

「・・・なんだこりゃ?」

「私も信じられない・・・これはポーネグリフだわ。しかも、切断されてる。」

「あー、あのアラバスタにあったやつか。」
「・・・ポーネグリフが、破壊されることがあるなんて・・・。
とにかく、文字が刻まれてるのは確かだわ。復元しましょう。」

ルフィとアンジェリカはロビンの言う「復元」の意味もよくわからずに
言われるがままに切断された鉱石をひとつひとつ拾い上げ始めた。

「・・・重い石だなあ、これ食えるのか?」
「食うな!」
「うえ、にげっ・・・」


「・・・だいたい、こんな感じだったのかしら。」


出来上がったいびつな立方体を照らし、ロビンはその周りを歩きながら
ぐっと目を凝らして解読を始めた。

初めて見る鉱石の立方体に、何か不吉な予感を感じながらも、
アンジェリカはその様子をじっと見つめた。

「なあロビン、何かわかったのか?」

ルフィは退屈そうに鼻に指を突っ込みながら、
まるで気のない言葉を投げかける。

「・・・これは、残念ながら。空白の百年の歴史には何の関係もなさそう。」

「でも、ポーネグリフなんだろ?」

「形も文字も・・・そう、歴史の本文とまったく一緒なんだけど。」

「なんて書いてあるんだ?」

「・・・。」

「なんだよ!教えろよ!」

「・・・わ、笑わないで・・・くれる?」

「はあ?」

理由もわからないロビンの恥ずかしそうな態度に
ルフィとアンジェリカは首を90度かしげた。

「・・・わたしが読む限り、だれかのイタズラとしか思えないんだけど・・・。」

「もったいぶらないで、教えろよ!」

「じゃあ・・・読むわね。」





『お馬さんはパカポコ走る。

雨の日もかぜの日も、戦士をのせて
わるいやつをみつけるんだこれから戦いにいくんだ、

お馬さんと戦士は、火の中も水の中も
ずーっとずーっと走ってく

雷と風と太陽が戦士にかたりかける
勇敢な戦士さん、ぼくたちをたすけてくれてありがとう
お礼のキスをさせてください

戦士とお馬さんは
わらってまた、走り続けた

わるものはいないかな
ほんとうにいないのかな
戦士はぐっと力をいれて
真っ暗闇にさけんだ

「神の意志は受け継がれた」』

最後の一言を被せるように、アンジェリカが発言した。


「アンジー!?あなた、これを知ってて・・・?」

「いや・・・フっ、ここまでコケにされてたとは・・・あのバカ親父。」

アンジェリカはポーネグリフに歩みよると、そっと手を触れた。


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