「髪、綺麗」
ユーリの髪が風になびく。それが西日にキラキラと煌めいている。
「さらっさら」
「男がそんなこと言われてもうれしくねーよ」
「でも事実だもん」
そっと髪の毛に触れると、それは見た目通りサラサラとして絹のようであった。
「いいなーいいなー」
「やめろ」
パシンッと手をはたかれてしまった。
本人を見ると心底嫌そうな顔でこちらを睨んでいる。
「けち」
「はいはいケチでいいよ」
至極面倒臭そうに話を切られた。私が話しかけるといつもこれだ、私の話って面白くないのかな?
やることがなく今度は自分の髪をいじることにするけれど、彼のを見たあとに見る自分の髪の傷み具合に目も当てられなかった。
「ぱっさぱさ」
「う、うるさいなあ!」
いつの間に見ていたのやら、私の毛先を指差して笑うユーリ。そりゃあ奴のと比べたらパサついてるし、うねうねしてるし、女の子としては誇れるものではない。さっきまではあんな面倒臭そうにしてたのに……。今のユーリはニヤニヤと楽しそうな笑みを浮かべている。
「なによ」
「拗ねんなよ」
「拗ねてねーよ」
「お前嘘つく時いつも口悪くなるよな」
……………嘘だ嘘だ。例え口が悪くなってたとしても今のは違う。嘘ではないし、拗ねては、いない。
「パサパサで悪かったわね」
「別に。悪くもねえし嫌いじゃない」
ドキンッと胸が鳴った。
別に好きと言われたわけじゃないのに。嫌いじゃないと言われただけなのに。この決して誉められるようではないこの髪がちょっと愛しく感じてくる。
「あり、がと……」
恥ずかしさを抑えた精一杯の声でお礼を言う。
髪をいじってボソボソ…とお礼を言う自分を見てユーリはニヤリと笑う。
「…そんなにオレに褒められて嬉しかった?」
ずいぶんかわいい顔して、髪をいじるからよ。そう言って、ユーリは私の髪をひと束すくう。
その髪はやはり毛先が傷んでいて、お世辞にも綺麗とは言えないのに、彼に触れられているところからその毛束がいやに特別に感じてきてしまう。
ドキドキと早まる鼓動。
未だ、くるくると指に巻いて私の髪を弄ぶ相手にどんどん恥ずかしくて顔の熱が増す。
たまらず彼から目線を外したその時、だ。
ぐっと弄んでいた髪を引かれる。
次の瞬間、視界はユーリの顔でいっぱいになっていた。
数秒間続いたそのぬくもりに目を見開いていると、しばらくしてそれは離れていった。
混乱する頭の中で整理しようとするけど考えてしまうのは先ほどのぬくもりばかり。
顔がこれ以上ないってくらい熱くて、沸騰しそうで、そんな顔で今しがた奪われた唇をただただ押さえることしかできない。
そんな私を余裕な表情で笑みを浮かべ、ユーリは耳元でささやいてきた。
「好きだ」
酸素様に提出