Act2-2

「なまえは今年一年の副担ね」

夜蛾学長自慢のパンダに大きくなったねえなんて言いながらもふもふと抱きつきながら戯れていれば後ろからべり、と引き剥がされた。その元凶に睨みを効かせれば飄々とそんなことを言われてはたと止まる。

「え?二年生は?」
「引き継ぎしといて。今年禪院家のフィジカルギフテッドの子が入学するからお前いた方が勉強になるでしょ。パンダもフィジカル強化しなきゃだし」
「なるほど、じゃあ別に担任やるけど?悟忙しいでしょ?かわいーパンダもいるし!」
「えーヤダ。なまえとちょっとぐらい仕事一緒にしたい。あとパンダにベタベタすんな」
「え?まってまって、仕事一緒みたいなもんじゃん。あとパンダにベタベタしてるんじゃなくてもふもふしてるのコレは」
「パンダって雄だよね」
「オレに性別あるのか?正道に聞けよ」
「オレって言ってるしダメーもふもふ禁止!」
「は?!絶対やだ!!私の癒し!!!!」
「僕に抱きつけばいいじゃん」
「やだよ硬いじゃん癒されない」
「きゃっ硬いだって!まだお昼だよ?なまえのえっち!」
「………イラつくなー…」
「オマエらほんとに大人なの?」
「私はどう見てもまともな大人でしょ」
「僕だってどう見たってまともでしょ」
「似たもの同士だな」


パンダのつぶらな瞳が私と悟を交互に見やってヘッと笑った。
そのあとも話の通じないおちゃらけた悟にイライラしていればどんどん手が出始めて久しぶりの校舎破壊級の喧嘩に発展しかけていた。騒ぎを聞きつけたのかすぐに学長がやってきてパンダを回収ついでに悟がヘッドロックかまされてた。ザマーミロ!!と笑っていれば「お前らはいつまで子供気分なんだ!いい加減にしろ!!」とガチで怒られた…へこむ……。



「あ〜ぁ、なまえが暴れるから僕まで怒られたじゃーん」
「絶対私悪くないもん」
「いくら生徒でも距離近いのダメ!条例違反!」
「え、そっち…?私犯罪者級な態度取ってた…?」
「生徒に抱きつくなんてぜ〜〜ったい条例違反!」
「パンダだよ……いやでも、生徒か……えー…そうか…じゃあ私が悪かったの、かな…?」
「あーわかってくれて何より!なまえがしょっ引かれなくてヨカッター!」


だから抱きつきたい時には僕に抱きつけばいいよ!なんて両手を広げている悟はもう無視することにした。
「そういうことは家でね」
とだけ言えば口を少し開けてぽかんとしていたと思えばニヤニヤと目から下の見えてる部分が厭らしく笑い出して嫌な予感がする。
「今日はいっぱいイチャイチャしよーね」
「今日はパーティだからダメ」
まさか忘れてた訳じゃないだろうな?という気持ちを込めて視線を送ればハッと今思い出したかのような態度を取る悟にむっと顔を顰める。


「津美紀の進学祝いか」
「もう、忘れてたの?プレゼント用意した?」
「硝子おすすめの通学用のリュック用意したよ」
「硝子のおすすめなら大丈夫か…」
「僕の信用度低すぎない?そういうお前は何にしたわけ?」
「悟のファッションセンスってちょっと斜めじゃん。目に包帯しだすし。私は一緒に買いに行ったからもう渡しちゃった」
「えー!聞いてないよ!何で僕連れてってくんないの?!
って、お前だって顔面包帯とかたまにやってたじゃん」
「………あれは日除けで仕方なくだもん」
「万年チャイナ服着てたお前に言われたくない」
「だってそれがデフォだったし、今はこっちの服着るようになったよ」


くるり、と回ってみせればチャイナ服着てるお前も可愛かったけどねと言われてちょっと照れた。
その夜急遽任務の入った悟は不貞腐れながら任務に向かい、悟の選んだプレゼントもとい硝子セレクトのリュックは私の手で無事津美紀の元へ渡った。喜んでたよ、と伝えれば悟は嬉しそうだった。









___________



「入学おめでとう!」


何度か見かけたことのある男女が教壇の上に立ち、男の方が昔から変わらず軽薄を全面に押し出した表情で口を開く。
おめでとうもクソも、これから学ぶのは呪いでありめでたくも何ともない。左右にいるのはおにぎりの具しか語彙のない男と、人間ですらないパンダだ。同級生がコレってこれからの生活大丈夫か?と一瞬心配になる。


「君たちの担任の五条悟だ。って自己紹介しなくてもすでに知ってるね!こっちも知ってると思うけど僕の婚約者のなまえ!僕忙しくってつきっきりになれないからね!副担任してもらうよ!!」
「婚約してないけどなまえです。よろしくね」
「あっまた〜そんなこと言って〜」
「こいつの言うことは半分適当だから流してね」


ケッ、公私混同もいいとこだな、こんなとこでイチャついてんじゃねーよ、さすが五条家のご当主様はやることがちげーななんて思いながらそっぽを向けば、ニコニコと笑う女ーなまえと言っていたかーがこちらを見ているのに気づき仕方なしに視線を合わせた。



「あなたが真希だね。私呪力ゼロなの。頑張ろうね」
「ーは?ゼロ?全く?」
「そう、全く。真希よりナイ。ウケるでしょ?禪院家なんてクソの掃き溜めでそれって大変だったでしょ。頑張ったね」
「ゼロで…見えるのか?」
「呪霊?視えるよ呪力はわかんないけどね、呪力で探知してるんじゃなくて…なんて言ったらいいのかな…」
「なまえの場合はね、五感が僕らとは違うんだ。気配捉える力がずば抜けてるんだよね」
「呪具なけりゃ戦えないのは真希と一緒」


私と一緒に強くなろうね、とニコニコしている目の前の女ー、なまえに呪力ゼロの人間が教師なんてできるのかと思うと同時に、過去の忌々しい記憶を『クソの掃き溜め』と形容し笑い飛ばす存在に、暗かった自分の世界に少し光が差した気がした。



「今日はこれから稽古ね。僕野暮用があるからなまえに任すよ」
「よーし、ペアになって余った方私とね。誰がやる?」


同じフィジカルギフテッドのなまえに興味があった。真っ先に手を挙げたらニコリと笑って「よし、じゃあまずは真希とね」と言うなまえと、顔の半分白帯を巻いた悟はふふふと笑っていた。



「真希は呪具使っていいよ。私動かしたら勝ちね」
「は?舐めすぎじゃね?」
「んーん、舐めてない。一年で私動かせたやつ悟とー、うん、同級生以外いないから」
「お前ら同級生かよ」
「ふふ、さ、かかってきな」


余裕そうに片手で傘をさしながらくいくいと手で挑発してくる女にイラついて間合いを利用して思い切り振り回せば呪いが込められた刃先を片手で止めた女に冷や汗をかく。


「おー、さすが天与呪縛。今までの一年の誰より呪具の使い方わかってる」
「私にはコレしかなかったからな」
「呪具で呪霊祓えるならそれで充分じゃん祓い方なんてどうでもいいでしょ」
「…アンタ、上から嫌われてるだろ」
「うん、でもどうでもいいし」

ゲラゲラ笑うなまえに呪具に力を入れて投げ飛ばそうとするがびくともしない。その身体のどこにそんな力あるんだよこいつ…!


「ふふふ、いいよ。頑張れ頑張れ」
「クッソ」
「お、そこで得物捨てるか」


埒のあかない呪具を捨て、身ひとつで殴りかかるがやはり片手で払われる。足元を狙って体勢を下げて回し蹴りを食らわすも足を払えない。マジで何だこの身体…!


「うーん、呪具すぐ捨てる判断は間違ってないけど、複数持ってないと意味ないね、身体の使い方はイイ。」
「っ…アンタの体どうなって…!」
「んー遅い遅い。止まって見えるよ、トレーニング頑張ろうね、よっと」


今まで片手でこちらの攻撃を払うだけだったなまえからヒュッと風を切るように突然眼前に襲ってきた拳にぎゅっと目を瞑ったが、想像した衝撃が来ない、恐る恐る瞼を開ければニコリと笑ったなまえに「残念でした」と言われたと思ったら額に衝撃を受けそのまま後方に吹っ飛んだ。何だ今の?何された?慌てて起き上がってなまえを見てまさかと瞠目する。デコピンのポーズでニコニコと笑っていたからだ。まさかこの私がデコピンで吹っ飛んだのか?


「だいたいわかった。複数の呪具同時に使う訓練しよっか。
棘とパンダも同時にかかっておいで。片手以外使わせたら三人の勝ちね〜アイス奢ったげる」


舐めてんのか!他の二人と胸中で抱いた感想は多分同じだった。視線だけで通じ合い、捨てた呪具を拾ってパンダと棘の動きに合わせて攻撃を繰り出す。どちらも空気を読むのがうまい。動き合わせんのうまいなこいつら。おにぎりの具の語彙とパンダだけどなんだかうまくやっていけそうだなんて思った。


「ふふっいいね!初対面の割に連携上手いじゃん!」
「舐めすぎだ!」
「どっちがあ?ほいほいほい!」
「あがっ!」
「っっっ!」
「ばふっ」
「ふふん、まだまだ弱っちいねえ」


こちらの攻撃を全て見切って都度返されるカウンターがクソ痛い。骨折れそう。信じらんねえ。飛び出した私のせいでズレた連携のせいで三人まとめて地面に沈められた。クッソ痛ぇ。なんだこいつまじで。人間じゃない絶対。
相変わらずニコニコと笑ったなまえーいや、なまえさんは沈む私たちを「大丈夫?ぼろぼろだねえ、」としゃがみ込んで見つめている。
強い。同じ天与呪縛と思えないぐらい完成された強さ。私の目指す先はここなのかと思わされた。


「なまえさん」


ニコニコしていた蒼い双眸がこちらに向けられる。呪力ゼロで呪術界に身を置くなんて絶対大変なことしかなかっただろうにずっと楽しそうに笑ってる変な先生。あの五条悟の隣に立ってるクレイジーな先生なら、私の夢も笑わずに聞いてくれるかもしれない。


「なあに?真希」
「私禪院家ぶっ潰したい」
「!ふふ。最高じゃん!いいね、そういうの大好き」
「だろ?だからいろいろ教えて」
「もちろん!容赦しないからね」


ムカつくやつはぶっ飛ばせばいいよなんてニコニコ笑顔で言うなまえさんに本当にできそうな気がして、思わずつられて笑ってしまった。





「そういやなまえさんってマジで悟と付き合ってんのか?」

気になっていたことを口にすれば困ったように笑って肯定した。

「脅されてんのか?」
「ウッソ悟ってそんなに思われるほどナシ?」
「ナシ一択」
「え〜いい男だよ」
「嘘だろ趣味悪」

ゲェと嘔吐く真似をしてやれば「私強い男にしか興味ないの。私より強い男ってあんまりいないじゃん?真希だって自分より強い男のがいいでしょ?」と言った顔が幸せそうだったので、なるほどこれはどっちもどっち、奇跡のマッチングだなと嘆息した。



prev next