帰省

※銀魂キャラが出てきます。




「君、大丈夫?」


任務帰りに補助監督の運転する車の車窓からぼーっと外を眺めていれば、近くから呪霊の気配を感じて車を停めてもらった。暗い路地の中から僅かに人の声が聞こえて舌打ちをする。補助監督に念のため帳を降ろしてもらい、声がする方へ駆けつければ珍しい和装をした男の子が木刀を携えながら呪霊に相対している。えー、それ呪具じゃないよねさすがに。明後日の方向に木刀振り回してるけど気配は感じててもちゃんと見えてない感じかな、と持っていた傘で呪霊を祓った。


声をかければメガネの奥の瞳が大きく見開いて「貴女は…」と言われたところであれ?知り合いかな?と記憶を辿るけど思い出せそうなのに思い出せない。どっかで会ったことある気がする、どこだっけ?……だめだ、全く思い出せない。


「吉原のときにいた、夜兎の人ですか?」


男の子から紡がれた言葉に思わず目を見開く。今夜兎っつった?吉原?え?なんで?え?まさか私と同じようにここに飛ばされたやついるの?嘘でしょ?
吉原ってあれだよね?鳳仙さんが運営してた遊郭、そういや任務で行ったな?あの時の関係者?つまりは地球人?


「君、だれ?」
「僕は志村新八です」
「どうやってここにきたの?」
「知り合いが作ったカラクリにぶち込まれたと思ったらこんなところに、」



新八くんが続きを紡ごうとした瞬間、暗い路地裏とは思えないほど足元がギラギラと光り始めて思わずやばい、と思った。この光に覚えがある。二年前、呪霊に飲み込まれたときに感じた光と同じだ。うそ。私もしかして元の世界に帰るの?心の中を占めたのは『やだ』だった。光に巻き込まれたくなくて本能的に飛び退くも背後に透明な壁があるかのように路地から出ることができない。うそ、まって、やだ、あいつを置いていくわけにはいかないのに!あまりの閃光に目を開けていられなくて思わずぎゅっと目を瞑る。光はやがて落ち着いてがやがやと騒がしい音が聞こえて恐る恐る目を開けた。


「うそ…」


目の前に広がっているのは、少し変わった、だけど覚えのある江戸の風景だった。やばい、帰ってきてるこれは絶対に私の知る地球だ……


「いたた…あ、戻ってこれた。ったく源外さんホント変なカラクリ作るのやめてって言ってるのに…あ、大丈夫ですか?」
「どうしよう…」
「えっと、貴女神楽ちゃんのお兄さんのところにいた人ですよね」


神楽、神楽って誰だっけ、あぁ!神威の妹か!と思い出したところでピンと閃いた。吉原に遊女のフリして潜入していた女の子と男の子のことを。全然雰囲気が違ったから気づかなかったけどずいぶん精悍な顔つきになっている。こっちの世界も私があっちにいた同じだけ時間が流れたのだろうか。


「そう、春雨の一員」
「よかった!貴方も飛ばされてたんですね…」
「……なまえ?」


聞き覚えのある声が背後から聞こえて思わず振り返れば、食堂のようなところから出てきたところなのか、お腹をぽんぽんと叩き、開き戸を開けながら驚いたように目を見開いた、昔よりがっしりした神威と呆けた様子の阿伏兎がいた。あぁ、本当に私帰ってきたんだ……



「神威、阿伏兎…」
「オマエさん、生きてたのか……」
「今まで何してたんだよ、お前いなくなってから大変だったんだよ?」
「わたし、違う世界に行ってて」
「「は??」」
「ほら変な団体あったでしょ?あいつらが呼び寄せた呪霊っていう生き物に食われて、違う世界に行ってたの、そこで生きてたんだけど、なんか突然今日ここにもどってきたの、ここ地球の江戸だよね?」
「なまえ、見ない間に頭のネジなくなった?」
「支離滅裂すぎて意味わかんねェ」


大丈夫か?と阿伏兎の大きな手で頭を撫でられてひどく安心した自分がいることに驚いた。暖かくて手の皮が厚くて硬い手。懐かしいな、私やっぱり本当に帰ってきちゃったんだ。きょろきょろと視線を彷徨わせて空を見回しても特徴的な高い建物が見つからない。あれ??



「あれ?ターミナルは?」
「なくなったよ今復興中」
「なくなったあ?!?!なんで!!」
「あ、ついでにいうと資金もなくなって貧乏組織になっちゃった」
「び、びんぼう?!!?!なんで?!!?」
「もうとてもじゃないが簡単に説明できないくらいのことが、お前が死んでた二年の間にあったんだよ」
「だから!私生きてたってば!!!」
「なまえが戻ってきたんなら地球いただくのも夢じゃなくなったかな」
「え?どういうこと?全然話が読めない…神威は今地球征服を狙ってるの?」
「掻い摘むとそういうことだネ」
「ナンデェェ!海賊王になるんじゃなかったの?!って、ちがう!私元の世界に、って元の世界はこっちか、じゃなくて、前いたところに戻らなきゃなの!」
「?なんで?」
「そ、れは…その、うん、いろいろあって」


どう説明していいものかわからず視線を逸らしてしまう。好きな人ができたから戻りたいなんて言えると思う?私からしたらこの二人は父親×2みたいなものなんだよ!どんな罰ゲームだ!
本当に帰ってこられる日が来るなんて思ってなくて、心のどこかで安堵している自分に驚く。一瞬、もう誰かに置いて行かれなくて済むんだ、と思った。だけどそれと同時に私はついに悟をあの世界に置き去りにしたんだと思うとドクドクと心臓が嫌な音を立て始める。私、夏油のこととやかく言えないじゃないか。ずっとそばにいるって言った数ヶ月後にいなくなるなんてさすがに酷すぎる。やっぱり、帰らなきゃ。私の居場所はもう、『こっち』じゃない。
訝しげにこちらを見つめる二人に何を言えばいいのかわからなくてぽりぽりと頬をかいて明後日の方向を見ればぽかーんと固まった志村…新一くん。


「あ、ごめん、忘れてた新一くん」
「新八じゃあボケェェェ!存在無視したように話し込みやがってェェェ!」
「ごめんごめん、だって私この二人に会うの二年以上ぶりだからさ、積もる話があってだね…」
「?!エ、もしかして貴女あの世界に二年行ってたんですか?!」
「そ、そうなの…で、帰りたいんだけど帰り方わかる?」
「え、帰るんですか?!こっちに帰ってきたかったんじゃなくて?!」
「うん、向こうで待ってくれてる人いるから」


困ったように笑えば新…八くんの眉が思いっきり顰められていて、言葉にはしないが何言ってんだこいつって表情が全力で語っている。そうだよね、だいぶおかしいこと言ってる自覚はある。でももう私の生きる、いや、生きたい世界はとっくに『こっち』じゃなくなってしまった。


「なまえ」
「…うん、」
「どういうこと?」
「ほんとに、いろいろあって、私本当に違う世界に行ってたの」
「……それで?」
「それで…、私のこと助けてくれる人がいっぱいいて、今まで行き当たりばったりでフラフラしてたけど、本当にそこで死ぬまで生きたいと思ったの」
「…ふーん。帰さないよって言ったらどうするの?」
「え」


見覚えのある人好きのする笑みを崩さない神威に冷や汗をかく。まさか神威にそんなことを言われると思ってなかったので思わず固まってしまう。夢の中では好きなとこ行けばいいって言ってたじゃん……あれまじで私の妄想だったの?恥ずっ!!!


「おい神威…」
「そもそもお前のこと拾ったの俺だし。これからやることいっぱいあるんだから仕事いっぱい溜まってるんだよ?」
「……ごめん、ここにはもういられないの。私向こうに帰りたい」


じっと神威を睨みつけるように見つめればようやく薄ら笑いを浮かべていた顔が歪んだ。目が開眼し歪な笑みを浮かべている。



「……へえ、薄情な女になったもんだね」
「…いつまでも女が自分のモンだと思わない方がいいよ。女心と秋の空って言うでしょ?」
「言うようになったね。さては男でもできた?」
「……そうだね。パパ達に紹介できないのが残念なぐらいのいい男だよ」
「ケッだぁれがパパだオメェみたいなじゃじゃ馬、娘にした覚えねーよ」
「阿伏兎」
「神威、新しい男のとこに行く女引き止める程ダセーこと無ぇぞ」
「……ほんとに戻るつもり?違う世界って言ったよね?もう会えなくなるかもしれないよ。違う星って意味じゃないんだろ?」


じっと真顔で見つめてくる神威はどこか吹っ切れたような顔をしていて、昔のような刺々しい鋭さがなくなっている。彼にも、二年の間でいろんな心境の変化があったのかもしれない。そばでそれが見れなかったのが少しだけ残念に思えたけど、不思議と寂しくはなかった。



「………うん。もう会えないと思ってたから、言っとく。私神威に拾ってもらえなかったら、あんなにご飯が美味しいことも知らなかったし、名前を呼んでもらえることの嬉しさも知らないままだった。『なまえ』って名前つけてくれてありがとう、とっても気に入ってるし、好きな人から呼ばれると幸せな気持ちになれる。あのまま生きてたらずっと知らないことだったよ。
阿伏兎、根気強く色んなこと教えてくれてありがとう、阿伏兎のおかげでちょっとは真っ当になれたと思う。阿伏兎の教えてくれたブローのおかげで髪も綺麗になったよ。いつも手当てしてくれてありがとうね阿伏兎がいなかったら死んでたね、私」
「おーいよせよせ、本当に結婚式の両親への手紙みてぇじゃねえか」
「順番的に俺がパパで阿伏兎がママだね」
「オイイイイイ俺をママだっていうのやめろって何回言やわかんだよこのすっとこどっこい」
「ふふ、ふっ、は、アハハハハ!!」
「でもやっぱりその男ムカつくなあ」
「ふふ、神威でも勝てないよ」
「なんだって?」
「私が選んだの、最強の男だから」


ニッコリそういえば神威のお綺麗な顔に青筋が浮かぶ。ふふ、まだ喧嘩っ早いところは変わってないんだね。



「あ、の〜〜〜」
「あ、忘れてた新…二くん?」
「新八だっつってんだろボケエエエエ!あのね!アンタらすぐこの人帰せると思ってるかもしんないけどわっかんないからね!!?あのじいさんのカラクリたまにポンコツだから無事に帰れる保証ないですよ!!」
「まじかよめっちゃ恥ずいじゃん。今生の別れのような挨拶しちゃったよ……」
「フフ、帰れなくてももうお前の帰るとこないからネ。出てったやつのことなんて知らないや。じゃーねなまえ」
「二度と帰ってくんじゃねぇぞ、なまえ」


そう言って神威と阿伏兎はさっきまでの押し問答がなんだったんだろうというぐらいあっさりどこかへ去って行った。帰るとこないよなんていうの、行っていいよって素直に言えなかったからかな。本当にありがとうね、神威、阿伏兎。だいすきだよ。ばいばい。



「…、ごめんね、新八くん。そのカラクリ作った人のところ、連れて行ってくれる?」
「………はい。もちろんです」


眉根を下げて優しそうに笑った新八くんにありがとう、と告げるといえ、と微笑んでくれた。





「もうびっくりしちゃいましたよ、変な化け物に襲われるし」
「ふふ、そうだよね。新八くんあれ見えてなかった?」
「気配は感じたんですけど存在までは…でも、存在感がヤバすぎて…あ、死んだなって思いました本当に助かりました」


ありがとうございました、と微笑む新八くんはなんだかわんこみたいで可愛かった。
道中なぜあの路地裏にいたのかまでを説明してくれた新八くんの話を掻い摘むとこうだった。
久しぶりに集まった仲間達とどんちゃん騒ぎしてたら新しいカラクリを作ったと披露しにきた発明家の平賀源外さんが怪しげなカラクリを持ってきて、酔っ払った仲間にその中に新八くんだけぶち込まれて気付いたらあの路地裏だったとのこと。暫くあそこで気を失っていたらしい。目が覚めたら変な化け物の声が聞こえて死んだと思ったって。
ふむ。あちらの世界に一度干渉できたなら、もう一度干渉できるといいのだけれど。
どうやら、私が消えた日から本当に約二年が経過していたらしい。その間に神威たちは春雨から狙われるわ、地球はメチャクチャになるわ、本当に大変なこと続きだったらしい。神威が『やらなきゃいけないこといっぱいある』って言ってたのにも納得できた。私がこの世界にいたままだったら毎日ドタバタだったんだろうなあと安易に想像できた。
そんな騒動も漸く全て丸く収まって、平和な日常が戻ってきたのだとホッとした表情で新八くんは笑っている。良かったねえ。


「ここです」


そう言って勝手知ったる様子で『からくり堂』と古い板に書き殴られた看板のかかるお店に入っていく新八くんに続き中へ入ると、いつか見たことがお侍さんの姿をこの目に認めてああ、そういや神威の妹ちゃんの上司だったっけ、と思い出してペコリと挨拶する。へー、平賀源外って名前だったんだ、カラクリも作れるなんてすごいなあ、知らなかったなあ。
きょろきょろと屋内を見回せば目立つ場所に鎮座する大きなカラクリ、これが例のやつかな?と目星をつける。


「!なんだァ?帰ってくんのはえーじゃねえの。
新八ナンパか?異世界行ってナンパ成功してきたのか?童貞卒業も夢じゃねえな!」
「ちっげーよ!!もっと心配してろよこちとら死にかけてたんだぞ!!!!」
「エェウッソオ。異世界なんてそんなのあるわけないでしょ?どうだった慰安旅行は?楽しかったか?」
「楽しくもクソもねーわ!!ただの心臓ヒュンってなるだけの事案旅行だわ!!」
「で?その姉ちゃん誰」
「あ、こちらはその転移した先でお世話になったなまえさんです。帰ってくる時に僕に巻き込まれてしまってこっちに…あれ、いやでももともと神楽ちゃんのお兄さんの下で働いてた方ですよ」
「どういうこと????」
「ははは、実は私二年前にこの世界から新八くんが飛ばされてた世界に飛ばされちゃって…」
「……ねえ、その異世界ネタ本気で言ってんの二人とも?あるわけねーでしょ異世界なんて!あるなら俺が行きてーわ!ドラゴンボールの世界行ってスーパーサイヤ人になりてーわ!」


画風が急に変わったお侍さんに苦笑いを浮かべる。そういや悟にサイヤ人かよって言われたことあったっけ、と思い出してすぐにあっちの世界のことを思い出している自分に少し呆れた。



「…新八くんが飛ばされたところ危ないところだからそのカラクリ私が使った後は使わないようにしてね」
「え!じゃあよかったじゃん帰ってこれて!…て、姉ちゃんひょっとして戻ろうしてんの?」
「いやあ、実はもうあっちの世界に戻らないとちょっとおっかない人がもうそれはそれは怒っちゃうというか。早く帰らないと心配しちゃうから。ということで源外さん、よろしくおねがいします。」
「ちっげーーーーよ!誰と間違えてんだ誰と!俺は銀さん!坂田銀時!」
「えっっっ違うの」


どうやら目の前のお侍さんはこのカラクリを作った本人ではないらしい。平賀源外という人はちっちゃいおじいちゃんだそうだ。困った。早くこれ動かして欲しいんだけど。


「そのちっちゃいおじいちゃんどこ行ったの?」
「そういやいねェな。どこ行ったあのジジィ」
「もう勝手に動かしちゃダメですよ、銀さん。僕ホント危ない目にあったんですからね?!」
「あ゛ぁん?!こんなもん適当に弄りゃ動くだろ!おいアンタ!ここの中入っとけ!」
「え、ええ〜ほんとにそれ大丈夫?」


ガチャガチャとスイッチやらなんやらをいじり始めたお侍さんー、銀さんは私をカラクリの中に誘導し、中へ押し込める。まーじで帰れなかったらどうしよ。今頃怒ってるかな、怒ってくれてたらいいな。ふーん、とか言って諦められてたらどうしよう、…ないか。ちゃんと帰るから、悲しんでないといいな。



「、恋人でも残してきたのか?」
「へ?」


おちゃらけた様子とは一転、死んだ目をしてた赤い瞳がこちらを少し真剣な様子で射抜いてきたことに驚いた。ぽりぽりと頬をかいて少し申し訳なさそうな顔をしている。



「さっきぱっつぁんに巻き込まれたっつってたろ?俺が昨日の夜酔っ払っちまって適当にコイツいじったら新八がどっか行っちまってよ、仲間で手分けして探してたところだったんだ。俺はこいつ作ったジジィといろいろいじって原因探ってたんだ」


カラクリを弄る手を止めて視線を落とす銀さんの様子に思ったより反省の色が見えて「アンタにゃ悪いことしたな」なんて言う銀さん。
軽薄そうな最初の第一印象と違ってどうやら随分仲間思いな様子が伝わってきて思わず微笑んだ。


「ふふ、これに懲りたらもう変なことしちゃダメだよ」


特に彼がカラクリを弄っていたわけではないのに、急に足元が覚えのある発光をし始めてよかった、と安堵する。
ブー、ブー、とカラクリがアラート音を鳴らしながら動き始めるのが聞こえて少し不安になったが、まだ帰れたわけじゃないのに、私はあの世界に戻れるんだという確信があった。
そして、きっともうこちらに帰ってくることはないのだという確信も。



「ありがとう、さようなら」



そう微笑めば再び目を開けてられない閃光に包まれて目を閉じた。






「ーい、なまえ!」



ガクガクと肩を揺さぶられて沈んでいた思考が急浮上する。何度目だ、この感覚。頭がぼうっとする。ゆっくり瞼を開けて合わない焦点を左右にゆらめかせれば、見覚えのある顔が焦りを孕んだ顔でこちらを見つめているのがわかった。



「、さとる」
「おい!大丈夫か?!」


サングラス越しの蒼い瞳は少し血走っていて、隠しきれない焦りが滲んでいる。焦ると口調が戻るところが可愛い。よかった、帰ってこられた。あまりに焦っている悟の様子に、私そんなに長い時間あちらの世界に行っていたのだろうか、と考えて柔らかい白髪をよしよし、と撫でた。



「ただいま、悟。私ちゃんとかえってきたよ」
「〜〜っ、心配かけやがって!どこ行ってたんだよ!!」


矯正中の口調はすっかり元の柄の悪い悟に戻ってて少し笑ってしまう。相当焦ったんだなと思うと妙に嬉しくて思わずにやけてしまった。ここはどこだろう、と辺りを見渡せば、新八くんと遭遇した例の路地裏だった。



「里帰り」
「ーはっ?」
「なんかね、一瞬元の世界戻ってた」
「は??」
「でもちゃんと帰ってきたよ、お世話になってた人にもバイバイできたし行ってよか、ったっぶ!」


私の話を聞き終わる前に凄まじい勢いで抱きしめられて鼻を悟の硬い胸板にぶつけてしまう。
ぎゅうううとこれでもかと強く抱きしめられて悟の背中をぽんぽんと優しく摩った。



「ごめんね」
「絶対許さねえ」
「ええ、不可抗力だったんだもん」
「だめ、お前は絶対俺の隣にいるの」


尚も不機嫌そうな声色で拗ねたような態度を取る悟の態度に思わず笑ってしまう。



「はは、実はさ、神威と阿伏兎から勘当されちゃったから私本当に帰るとこなくなっちゃった」
「…カムイは知ってるけどアブトって誰」
「二人とも私のパパだよ。好きな人できたって言ったら快く送り出してくれたよ」
「……」
「帰ってくんなだって。だから、面倒見てね、最後まで」



拗ねていたはずの悟は私の言葉に気分を良くしたのか少し機嫌を取り戻している。
一瞬あっちの世界に帰れて安堵したことは言わないでおいた。自分の命のために。



「今度帰ろうとしたら監禁かな」
「何言ってんのマジで」



大きな体にすっぽり隠されるようにぎゅう、と抱きしめられて優しく抱きしめ返す。心に少しひっかかってた心残りのようなものは今回の帰郷でなくなってしまったらしい、笑顔の神威と阿伏兎の顔を思い出してなんだか心が軽くなっていたことに気づいた。







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