Act1-12



等級の高い五条と夏油、反転術式を使える硝子はとっても多忙だ。任務任務授業、任務任務授業、てな感じで休む暇もあんまりなさそう。というか暇さえあればみんな鍛えたりしてるし、一日中休んでるところなんて見たことない。
かくいう私も、知識不足解消のために時間のある時は苦手な座学にも最近は自分から取り組んでいるし、いろんな戦闘パターンを自分なりに考えて呪具を調整したりしている。つい勢い余って呪具を破壊してしまう私は、なかには高額な呪具もあるからお前は絶対に勝手に触るなとお触れが出てしまった。
なんだかんだで、この丈夫な唐傘とよばれる傘が1番しっくり来ている。

勉強にしっかり取り組み始めたおかげか、任務の時に一緒になる術師たちとのコミュニケーションが、最近は円滑になってきている、気がする。
よく浮かんでいた疑問符が最近は浮かばないのだ。
勉強するって、素晴らしい…!!



そんなこんなで、同期のみんなとは違って適度な頻度で入る任務を適当にこなしつつ、硝子の誕生日をお祝いしたり、みんなとたまに集まってゲームで遊んだりしてればあっという間に時間は過ぎて、冷たい風吹く季節に移っていた。



「体ダル…」


地球の冬さんっっむ!!震え止まんない…今日寒すぎる!明け方に任務から帰ってきて寝て起きて、今はもう間も無く時計の針が二つとも天辺を指す時間だ。帰った時間よりは凍てつく空気は和らいでいるが寒いもんは寒い。
布団から出たくなくて芋虫みたいになっている。しばらくそうしていると隣の部屋にまで聞こえるのでは?と思うほどの腹の虫の合唱が始まるので渋々起き上がる。
仕方なしに適当に準備をして食堂へ向かおうとするけど、なんだかいつものようにうまくいかなかった。







もぐもぐと寮母さんが作ってくれていたサンドウィッチを平らげて一息。今日はなんだかオカワリする気分にならなくてご馳走様といえば奥で寮母さんが目を見開いているのが見えた。いつもたくさん準備してくれて、大変だろうなあ…なんて春雨にいた頃だったら考えもしないようなことを考える。
…そうだ、春雨。最近あんまり考えてなかったな。
団長も、阿伏兎も、元気かなあ。海賊王にはなれたかな?さすがにまだ無理か……星海坊主サンや神楽ちゃんとは仲直りできたんだろうか。本当の家族がいるなら、仲良くすればいいのに、団長ってホント拗らせてるよなあ。そういえば団長と五条が戦ったらどうなるんだろ。無限ある時点で誰も勝てないか、でも自信満々な団長が負けるとこってあんまり想像できないなあ、いや、五条が負けるとこも想像つかないな。



「会いたいなあ…」



ぽつりと口から出た言葉に、自分で言っといてびっくりした。なんかおセンチになってる気がする。やめやめ!考えたって仕方がないことは考えないようにしよ。頭を左右に揺らして雑念を飛ばす。頭を揺らしすぎたのかくらくらした。



「はぁ、仕方がないな悟は…」
「傑は細かいことばっかうるせーなあ」


遠くで五条と夏油の声が聞こえる。そう、今の私の現実は『こっち』だ。
キイ、と扉の開く音がしてワイワイ話しながらやってくる二人がこちらを見る。「やっほー」といえば五条がヒクと肩を揺らし、今の今まで夏油と笑い合ってたのに真顔になってそっぽむいてしまった。それを見た夏油が肩をすくめる。はぁ、またか。なんだか五条は最近おかしい。私の前ではえらく大人しいというか、口数が減る。そして最近『ゴリラ』と言われなくなった。別に気にしてなかったし愛称みたいな感じで受け入れてたから会話が減ったことも相まって少しだけ寂しい。


「…なまえ、どうかしたかい?」
「へ?」


夏油が眉を下げて心配そうに私に問う。どうかしたかって…何が?どうかしてるのは五条の方では??



「顔色が悪いよ。食事も今日はいつもより少ないね」
「え?あ…今日はもうオカワリいいかなって…」
「…任務が辛いか?」
「んえ?いや全く??」


そう返せば少しほっとしたように夏油は息をついた。


「なまえは術師になるのが強制されてたようなものだったから、無理してないか心配だったんだ」



優しげな顔をして頭を撫でてくる夏油に、ホームシックのようなものに陥ってモヤモヤしてた気持ちがどんどん晴れていくような気がした。


「ありがと…夏油」
「いいや。大事な仲間だからね」
「ウン…嬉しい」


幼い子供にするような優しい手つきで撫でられる頭に照れ臭くなってへへへ、と笑えば夏油は「少しは元気が出たかい?」といって笑ってくれた。…いいやつすぎる…心がぽかぽかしてきて、あったかい気持ちが溢れてきた。兄弟とか、家族がいたらこんな感じなのかな…。



「好きだなあ……」


ぽろり、と心の中で呟くはずの言葉がでてきて、またまた自分で言ってびっくりした。そっか、これが好きって気持ちなんだ。硝子のことが大好き。夏油もお兄ちゃんみたいで好き。五条は…悪友みたいな…もちろん好き。



「あ゛??」



すごいどすの利いた声が聞こえてきたのでちらと見れば五条がすごい形相でこちらを睨みつけてた。エ?何?さっきまですんとしてたのに…感情の振り幅がでかすぎるよ。


「…何怒ってるの?」
「は?誰が怒ってるって?」
「五条以外にいないでしょ」
「なんで俺がお前にキレるんだよ」
「私が知るわけないでしょ」
「…悟、落ち着こうか。なまえも」
「は?私は落ち着いてるよ?五条が勝手に興奮してるだけ」
「あ゛?」
「そうやってすぐ威嚇するとこどうかと思う。全然怖くないし周りに迷惑かかるだけだからやめた方がいいよ。夏油を少しは見習えば?」
「喧嘩売ってんのか?オモテでろよなまえ」
「はッ!そんな気分じゃない。」




ムカつく。なんなの。いきなりキレてきて。だいたい最近態度冷たすぎない?もしかして、私五条に嫌われてるの?…そうだよね、夜兎とか意味わかんないよね!五条たちからしたらただの天人なんだから!あ、こっちじゃ宇宙人か…
そこまで考えて、無性に胸が締め付けられるように痛み始めた。何故かこれ以上ここにいたくなくて、部屋に戻るべく思わず立ち上がる。やばい…、立ち眩み。



「傑はお前のこと好きでもなんでもねーよ!」
「悟!!!!」
「…っ!なんで五条にそこまで言われなきゃなんないの!」


気づいたら、手を振り上げていた。無限で阻まれるとばかり思ってたのに、全速力で繰り出した全身全霊の平手打ちがクリティカルヒットして五条は吹っ飛んでいった。五条が打ち付けられた壁は勢いを殺しきれず爆音を立てながら壊れて、勢いよく五条と一緒に外へ飛び出していく。瓦礫と共に地面に叩きつけられた五条が倒れ込んでいるのが見えた。ピクピク動いてるからたぶん生きてる、よかった、殺しちゃったかと思った。部屋は半壊、半分屋外にむき出しになってしまっている。やってしまったと思うも、珍しくセンチメンタルになってしまってた私は先ほど五条に言われた一言を思い出して、五条にも、夏油にも嫌われてるかもしれないなんて可能性を考えてしまってじわりと目が潤んでしまった。茹だるように体も熱い。視界も涙のせいかよくわからないけど霞み始める。



「やば、どうしよ…」
「悟の自業自得だよ」
「………、」
「なまえ、悟の言うことは気にしないでいい」
「ごめん、わたし気づいたら…夏油のこと、みんなのこと…勝手に家族みたいに思っちゃってた。…家族なんて、いたことないのに…宇宙人にそんなこと思われても困るよね。ごめんね」
「困らないよ。私も硝子も、夜蛾先生も…悟も。それぞれ少しずつ違う気持ちかもしれないけどなまえのこと大切に思ってる」
「ほんと…?」
「私もなまえのことが好きだよ」
「うう…ごめん、なんか今日は…『前』のこと、思い出して…はぁ…」
「なまえ?大丈夫か?」


夏油が心配してる声が聞こえるけど、頭がガンガンしてきて、立ってるのも辛い。ガクン、と膝が崩れ落ちてしまい、なかなか立ち上がれない。「なまえ!しっかりしろ!…熱がある。医務室に、」夏油の焦る声が聞こえるけど、目の前がぐるぐるぐるぐる廻り始めて吐きそう、意識を保てない。



「五条の、ばか」
視界がブラックアウトした。




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