Act1-4


「オマエゴリラの生まれ変わりか何かか?」



広大なグラウンドにできた大量のクレーター、そのうちの一つに五条となまえは仲良く共倒れていた。



「だから言ってんじゃん夜兎だって。」
「ヤトってなんだよ」
「戦闘民族だよ」
「オマエサイヤ人だったの」
「夜兎だっつってんだろ」


サイヤ人ならこの馬鹿力も納得だなと五条は独言て、笑った。
目の前の女はあくまで呪力がないし煽られて腹は立ったが殺すつもりなどなかったので小手調のつもりで無下限術式は使わずに相手にするつもりだったが軽く死にかけた。まず力は強すぎるし攻撃を繰り出してくる手数とスピードが半端じゃない。呪力がないせいでどんな攻撃を仕掛けてくるのか直前まで判断することもできない。なんだこの女。ゴリラの間違いだろ。



「お腹減ったあ〜もう動けないよお」



日差しが眩しいからと奪われた自身のサングラスをかけて喚くなまえの腹からはカエルの合唱もビックリなアンサンブルが聞こえてきた。今までに見てきたどんな女性たちとも違うなまえの奇行ともとれる言動に五条は笑わずにはいられなかった。



「オマエさー、もといたとこ此処と違う世界なんじゃねーの」
「ーーーは?」
「ヤトなんて聞いたことねーし。そもそも宇宙なんかに海賊いねーし。てか宇宙の海賊って何?春雨ってオマエチャイナ服みたいなん着てたからキャラ付け必死かって感じだし。」
「なっ…」
「てことはオマエ宇宙人てこと?やべー宇宙人なんて初めてあったわ。ウケんね」
「……ここには天人いないわけ?ターミナルもないの?私が未来に来たわけじゃなくて?」
「アマントが何か知らねーけど歴史の本が嘘ついてなかったら間違いなくいねーよ」
「………もしかして、あなたたちの言うジュレイのせいでジュレイのいる世界につれてこられた、的な?」
「なくはないかもしれねーけど聞いたことねーしわかんねー」
「うそでしょ?私帰るとこなくなったってこと?」


がばり、と起き上がったなまえは未だ地面に転がる五条の顔に自身の顔を近づけた。真っ黒のサングラスは何も映さない。五条はおもむろに彼女の鼻にひっかかる自分のサングラスをぐい、と引き下げた。先ほどまで隠されていたなまえの瞳を至近距離で見つめる。そういえばちゃんと顔を見るのは初めてかもしれない。彼女の眼は、今まで自信を持って歯向かってきた者と同一人物かと疑うほどにゆらゆらと自信なさげに揺れていた。


「オマエの眼も、蒼いんだなー」
「別に、こんなのフツーでしょ」
「ハハッ!そうだな。フツーだよな、なまえ」


帰り方見つかるまで、ここにいろよ。オマエおもしれーからさ。五条が呟くとなまえの不安げに揺れる眼は驚愕に見開かれた。



「こんな得体の知れない女引き入れちゃっていいわけ」
「おれさー結構いいとこのボンなんだよね。仕方ねーから拾った猫くらいちゃんと面倒見てやるよ」



しばし逡巡した後、なまえはじゃあ、よろしく。ペコリと軽く頭を下げた。その瞬間ふわりと風が吹き、なまえの柔らかそうな長い髪が軽く舞う。
この髪色も地毛なんだろうか。小さな興味がぽんぽんと湧き、なまえの存在は幼少期から漠然と感じる退屈を覆してくれるような予感がすると五条は思った。



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