焼き芋に救われる傑

いつの間にか残暑が遠のき、頬を掠める風が冷たくなってきた。夏には青々と茂っていた木々は赤黄茶と色づき、風が吹くたびにひらひらと葉を落としていく。
地面に積もった落ち葉を見てなまえは子供の頃を思い出していた。


「あー焼き芋食べたい」
「いいね」
「あ、傑くんも作ったことある?落ち葉で焼き芋」
「いや、作ったことはないかな。母親が電子レンジか何かで作ってくれたことはあるよ」
「そうなんだ。私はね、実家が田舎だから秋は家の前に落ちてる落ち葉を掃除するたんびにご褒美で焼き芋焼いて食べてたよ」
「へえ、いいね」
「うん、焼きたてすんごい熱くてね、でも食べたくて無理して食べていつも舌火傷すんの。めっちゃ甘くて美味しいのに、熱すぎて味わかんないの」
「ふふ、すぐ想像できるよ」


アルミホイルに包まれたさつま芋を軍手で割るとふかふかのお芋からふわあと湯気が出るそれに思い切りかぶりついてーあちい!と涙目になるなまえ。普段からお転婆でせっかちなところがある彼女のその姿を夏油は容易に想像がついた。


「傑くんもいつか私のお家おいでよ。美味しいものいっぱいあるよ。海が近いからお魚も美味しいし、うちの家はお米も作ってるし秋は本当に美味しいものいっぱいなんだよ」
「…そっか、それはいいね」
「傑くん、約束だよ」
「…うん」





悍ましい非術師の醜悪な顔に吐き気がする。目の前の惨状が理解できない。非術師が術師を迫害?お前たちがいなければ呪霊だって生まれないのに、呪霊がいなければ術師が傷つくことはないのに。非術師さえいなければーー「傑くん、だめ、すぐるくん、」
頭を抑えながら振り返れば、真っ青な顔で首を振る彼女の姿。いつの間にか呪力を練っていた自分に気づいた。今、私は何をするつもりだったんだろう。
ここでこいつらを殺せば、彼女にはもう会えない。約束を破ることになる。彼女の言っていた焼き芋だって食べられない。おいしいものを作っているという彼女の家族は非術師だ。彼女の家族も殺すのか?非術師だからといって。


「なまえ…、」
「傑くん、ちょっとお休みしよう。ここ、片付けて、この子達保護して、少し、ゆっくりしよう。疲れたよね」


自分よりずっと背の低い彼女に抱きしめられ、頭をゆっくり撫でられて少しクリアになった思考で頭によぎった一つの未来を霧散させた。
どうしてこんなにこの世界は生きにくいんだろう。


「焼き芋、食べたいな」
「……うん、すぐ作ってあげるからね」


落ち葉まだないからオーブンで作ったやつでいい?と泣きながら笑う彼女にこくりと頷いた。