友人A

ただの友達だった。だから夜通しウノをしたりプレステでRPGをやってるとこをダラダラ喋りながら見続けることができたし、何も気にせずそのまま部屋で眠れた。さすがに毎回ブラはつけてたけど。
別に今回もいつもと違うことはなくて、ただ任務が昼間で終わって、ちょっと仮眠して起きたら同じようにぼーっとしてる友人Aがいたから声をかけてなんか映画みようぜ、って言うからレンタルビデオ屋に行った。なぜか普段見ないホラービデオを手に取った友人Aは夏ってこういうの見たくなんの不思議だよなーっていうけれど、毎日ホラービデオ目に焼き付けてる自分的にはもうお腹いっぱいだし違うのにしようよ、って言ったのに何ビビってんの?なんて言われてじゃあそれでいいよ!って若干キレながら自分も何か借りさせようと、普段あまり見ないめちゃくちゃ純愛そうな洋画モノを友人Aの持つプラスチックのかごの中にぶちこんだ。


「ひぃっ」
「まじでびびってら」
「ちがう、BGMとか、なんかそういうので相乗効果で、やだあっ!」
「うおっ、おまっ、急にこっち来んなよ」
「だっだだだって、さだこが…っ」
「何が怖いんだよこれの」

ははっと笑う声が頭上から聞こえて思わず頭を上げれば友人Aの整った顔が思ったより近くにあって自分が友人Aにしがみついていたことにようやく気づいた。
慌てて離れようとしたのに、しがみつく私ごと目の前に置いてあるローテーブルのリモコンに手を伸ばしたせいでより密着させられて戸惑った。今まで感じたことのない緊張感が走る。自分の心臓の音なのか、はたまた友人Aのものなのか、爆音で凄まじいスピードのバクンバクンバクンという音のせいで、映画の内容が全く頭に入ってこない。さっきまで恐ろしく感じていた這い出る髪の長い女がそこらにいる呪霊にしか見えなくなってきて、ちっとも怖くなくなった。ちら、と斜め上を見上げれば普段とちっとも変わらない顔色で映画を見ている五条にやっぱりこういうことになれてるのかな、なんて胸がちくりと痛んだ。


「ん!終わったぞお前の選んだのみる?」
「み、みる…」


DVDをがさごそと漁り始めたおかげでようやくこれで解放されるとホッと一息ついて、少し離れた私の定位置に戻った。飲みかけの麦茶は少しぬるくなっていた。


「新しいの入れてやろうか?」


DVDを入れ終わって、他の映画の宣伝が始まった。特に早送りすることなくつけたままになっている。結露のたくさんついたなぜか友人Aの部屋に置きっぱなしになっている私のマグカップをひょいと拾い、水滴をぽたりと私の頭に垂らしながら冷蔵庫のキンキンに冷えた麦茶を注いで戻ってくる友人Aを視線が追いかける。水滴の残った場所にマグカップを戻し、友人Aは私の真横に居座った。なんで?あんたの定位置ここじゃないでしょ?テレビが真っ正面から見えるとこでしょ?


映画が始まる。主人公とヒロインが恋に落ちる。どんどん距離を縮める二人、映画の内容とリンクするように友人Aと私の距離が近づいていく。なんで、今日はいったいいつもと何が違ったんだろう。
映画の中の二人がキスをした。ちら、と真横の男を見れば私をただ見つめていて、気づけば唇が重なっていた。

「お前隙だらけすぎ」
「なんで」
「わかんない?」
「わか、んない…だって、さっきも慣れてる感じだった」
「……心臓、四散しそうなんだけど」


そう言う友人Aが私の手を取って自分の胸元へ誘導する。少し前に聞こえたスピードでバクンバクンと派手な音を立てている心臓にびっくりして顔を上げれば、顔色はいつもと変わらなかったけれど、やけに耳元が赤くなっている友人Aが「オマエがくる時いつもこんなんなんだけどどーしてくれんの」なんて言っている。
いつの間にか向かい合った姿勢で、いつも涼しげな男の瞳に熱が灯っているのがわかった。
友人だと思っていたのはどうやら私だけだったらしい。何度もちゅ、ちゅ、と啄むようなキスをされれば、私も気づいたら映画の中のヒロインと同じような視線で目の前の男を見つめていた。