夜兎とさしすとプリクラ

「硝子、あれ何?」
「どれ?」
「あれ、あの四角いの。女の子いっぱい写ってるやつ」
「あ〜、プリ。」
「ぷり?」
「プリクラだよ、プリクラ。写真撮ったらシールになって出てくんの」
「へえ」
「何?興味あんの」
「いや?すごい人だかりだから何かなって」
「へー!あれプリクラっていうんだ!ゲーセン行くたび女集ってて何かと思ってたわ!」
「悟、プリクラ取ったことないのか?」
「えっ?傑あんの?」
「中学の時体育祭の後の打ち上げとか、でね」
「絶対それだけじゃないな」
「まじか。俺も撮りたい」
「きしょ」
「なんでだよ!」
「じゃみんなで撮る?」
「さっすがなまえ!話わかんね!」
「アレ並ぶの?クソダリー」
「みんなで外行くのなんて数回しかないし記念になるかもね」


乗り気になったなまえ、夏油、五条に連れられて店先の一番目立つ場所に鎮座しているプリ機に向かってずかずかと歩く3人から少し離れたところを歩いていれば、並んだりプリクラをハサミで切ったりしていた女子たちがそれに気づいたのかモーセの十戒か如く人集りがクズどもを避けながら道を開けて行く。


「…で、どこに並べばいーわけ?」
「あのっ、ど、どうぞ!」
「え?君たち並んでたんだろう?」


今にも機械の中に入ろうとしていた女の子たちが浮き足立った声で五条夏油を見上げながら声をかけていた。そしてなまえと私を一瞥してクズ二人と見比べて「どっちがどっちと付き合ってるのかな?」「なにこの四人組顔面どうなってんの」「どっかの事務所のひとたちじゃない?」ヒソヒソ言ってるつもりかもしれないけど全部聞こえてるから。ハー、毎回発生するコレほんとなんなの。うざ。


「中まっぶーーー!」
「ヤバ!なんか入ったら勝手に喋りかけてきたんだけど!怖!」


キャッキャ楽しそうにしている五条となまえにため息をついていれば夏油が幕を上げて「硝子、早くおいでよ」と言うので周りの女子がまた「黒髪同士と白髪とピンクか…」なんて言い出す始末。あいつらはともかく私とクズをくっつけようとすんな、虫唾が走る。

「自動ガイダンスだよ。ほらココに百円入れるんだ」
「はやく五条金入れてよ!」
「お前俺のこと財布かなんかだと思ってる?」

白熱灯のほとばしる小さなスペースに入り込めば丁度五条が四百円を入れ切ったところだった。


『撮影するよ♪』なんて言う自動音声に誘導されるがままなまえと五条は見本のポーズを忠実に再現しているのに思わず笑った。




「次何すんの?」
「落書きだよ。このペンでスタンプとか字とか書ける」
「俺やるやるー!!」
「私は見てるだけでいーや」
「見ろよコレ!!傑化粧してみた!!!!」
「ぶはっっっっ!なにこれ!!五条天才?!だれ?!?!」
「悟は落書きしなくても女の子みたいになってるよ」
「ほんとじゃん!!えっ?!私より可愛くない…?」
「やばいねー、さすが俺?こん中でいちばん可愛いわ」
「ちょ、待って!この全身のやつみんな脚やばいって!イカみたいになってるよ!」
「イカwwwwww」
「やばい、おもしろいねこれ。ね、硝子」
「私はあんたら見てるだけでおもろいわ」



出てきたプリクラをハサミで切って四人で分け合う。うちの一枚を携帯の裏に貼り付けていればそれを見たなまえと五条と夏油も同じようにしたせいでお揃いみたいになって気持ち悪くてすぐに剥がした。


「えー、硝子はがしちゃうの?」
「みんな貼ってたらキモいだろ」
「そうかなあ、思い出ができて嬉しいけど」


憂いのあるなまえの表情に思うところがないわけではなくて、指先についた剥がしたばかりのプリクラを携帯の電池パックの蓋の内側に貼り付けておくことにした。