某女優一筋の某芸人はハニトラドッキリにひっかかるのか検証してみた

*夏がまだ炎上する前
*モブアイドルさんがひたすらでしゃばってる





こんにちは!モブです!アイドルやってますッ!
運良く凄腕のマネージャーさんに引っ張ってもらえて、デビューして三年、自分で言うのも何だけれど、異例の人気ぶりに社会現象起こしちゃってます表紙の雑誌は重版御礼、写真集は初版で十万部突破、インジュタフォロワー数三百万人。どこにいってもちやほやされて、これが人生イージーモードってやつを実感する日々ですそんな人気絶頂中の私ですが、芸能界入りすることを決めたのはある人に会いたいからだったんだけれど、同じ芸能界とはいえ畑違いのジャンルの方だからかなかなか会う機会に恵まれない。…これはもしや、アイドルから女優とかの転身を図ったほうが早いのかもしれない…なーんて思っていたらまさかの結婚発表しちゃって私の人生お先真っ暗!なんのために芸能界きたと思ってるの〜?!と腐っていたところに舞い込んだ吉報。マネージャーさんから告げられた言葉が衝撃すぎてもしかしてあまりに会いたすぎるが故の幻聴かと耳を疑ってしまう。
なんと今度私が大大大大好きな祓ったれ本舗の五条さんをドッキリに仕掛けるお仕事が舞い込んできました。嘘、嘘嘘。思わず胸が高鳴る。ついに会える…!ドッキリの内容を聞かされてから、気づけば口角が上がってしまうのを止められない。どうしよう、このままドッキリじゃなくて『そういう関係』が現実になっちゃったら…!念のためえっちな下着新品用意しとかなきゃ!……奥さんがみょうじなまえ?ハハッいくら美人女優と結婚したからって芸人が可愛い女の子つまみ食いしないわけないじゃん、純愛?ハッ、馬鹿じゃないの?あーどうしよう今後関係つづいちゃってフライデーとかに載ったら!みょうじなまえから五条悟寝取ったなんてめちゃくちゃ叩かれそ〜!そんなことより優越感やばそうていうかむしろバレて離婚とかひてくれないかな?はーッほんと楽しみすぎる絶対絶対五条悟モノにするんだから!!痩身エステいつもより高いコースにしよう!
─なんて、私の心は五条さんに会える楽しみでウキウキで、身体中から花でも飛び出さんばかりの浮かれっぷり。そのせいか「最近ますます可愛くなったね」と周りからも言われるようになった。…これはイケる!絶対五条悟オトす!!!







「五条さん、何飲みますか?」
「……いらない、僕下戸だから」
「えっお酒飲めないってネタじゃなかったんですね?!」
「……チッ…………傑、聞いてないんだけど」


むす、と唇をとんがらせ顔を顰めながら鼻を摘んだ悟の様子にため息をこぼしそうになって、とりあえずまあまあと宥める。いつも通り引っ詰めているとバレてしまうため下ろした髪に隠されたインカムから、先輩であるMC芸人の『ーーさん!もう少し大胆にアピールしましょう!』やら、『お酒飲めないなんて五条さん可愛いですねって上目遣いで!』という指示が飛んでくる。大きな胸を寄せてわかりやすく悟に見やすいようにアピールしてる新人アイドルさんはあの手この手で悟に接触を図っているが肝心の男は顔を思い切り引き攣らせ、前世の学生時代を彷彿とさせる表情を帯び始めていた。
─現在、とあるバラエティ番組の「奥さん大好きを公言する芸能人は本当に奥さん一筋なのか?!」というテーマでさまざまな芸能人が所謂まあハニートラップなるものに掛けられるドッキリ企画の進行中なわけだが、めでたく(?)悟も奥さん大好き芸能人の一員に選ばれたらしい。
おかげでこんな馬鹿げたハニートラップの仕事が舞い込んできた。どれだけ言い寄る相手が可愛いアイドルであろうが、胸が大きかろうが、悟の食指は小指の一本どころかささくれだって反応しない。

企画の時点で「いや、無理だと思いますよ」と何度も止めたが番組ディレクターとの打ち合わせでは『絶対に五条をドッキリに嵌めてやる』と言わんばかりにメラメラと意気込んで、悟を嵌めるための綺麗どころを集めていた。「あれだけみょうじなまえさんの惚気漏らしまくってるのにあっさり可愛い女の子にコロコロ転がされる五条さんなんて数字絶対取れるんで!…え?絶対無理?いやいややってみないとわかんないっスよー!…まあダメでも番組の趣旨的にはまあオッケーなんで!…芸人なんだからどっちが面白いかは…ねえ?わかりますよね?」と漏らしていたが、いやだから絶対無理だから面白い映像なんて撮れないですよと言っても平行線。…硝子ではないが何故か重厚なタールの味が恋しくなって、肺たっぷりに吸い込んだ息を思い切り吐き出した。

「……お蔵入りになっても知りませんよ」
「いや絶対大丈夫ですって!いくら結婚相手が女優だからってたまには違う女の子つまみ食いしたくなるでしょ?ほら、結婚する前にも結構週刊誌載ってましたし…あれ、ガセって言ってたけど誰も信じてませんって!あ、ほらほら、夏油さん、この中でどの方が一番五条さんのタイプだと思います?」

ちら、と並べられた数ある写真に視線を落とす。まぁ、タイプ的にはなまえに似てなくはない最近よく名前を聞くアイドルを指さす。…そういえば、悟は前世では胸の大きなグラビアアイドルが好きだった時期もあったか。もしかしたら少しくらいは反応するかもね、…望み薄だと思うけど。まあがんばってねと写真の中の女の子に他人事余りあるエールを送る。
とはいえ、悟がもしハニトラに引っかかったら確かにこのディレクターの言う通りそれはそれで取れ高も高いし、多少好感度は下がるかもしれないが悟のことだしきっと新しい路線でのバズり方もするんだろう、…なまえだって今世はずっと女優として生きてきたんだし、バラエティのノリだなんだと言えば許してくれそうだ。
…とは思いつつ、もちろん悟となまえが幸せになって欲しいことが大前提。やはりどう考えてもあの悟がなまえ以外の女性に現を抜かすところなんて想像もできない。どうせ女の子を適当にあしらって面白さのかけらもない映像でお蔵入り待ったなしだろう。
散々釘を刺しているのに押し通そうとするディレクターの圧に押し負けて仕掛け人としてドッキリに参加することになったわけだ。


─という流れで開催された飲み会という名のドッキリ。居酒屋にはいくつもカメラが取り付けられていて、この飲み会を企画した、という体になっている仕掛け人の後輩芸人も、カモフラージュで呼ばれた別のアイドルの女の子も、私が先日指さしたアイドルがあの手この手で悟に言い寄ろうとしている場面を気にしないようにしつつ固唾を飲んで見守っている。話を振ってもいないのにぺちゃくちゃと話しかけてくる可愛い女の子に胸を押し付けられても、過剰なボディータッチを繰り出されても悟の眉間の皺が増えるだけの様子にやはりお蔵入りを覚悟した。…昔は私もこんな風に近づいてくる女の子を適当に受け入れていたが今思うとゾッとしてしまう。交際を始めた彼女が逆に男からこんな猛アプローチを受けたことがあるのかと考えれば鳥肌がたった。今でも私の過去のスキャンダルネタをネットなどを介してみてしまうたびに不機嫌になる彼女を思い出す。……今日は花束でも買って昔の行いを謝罪しようか、それとも思い出させて火に油を注ぐだけだろうか。
不機嫌そうに行儀悪く割り箸を皿にカンカンと打ち付けている悟に飛ばしていた意識を引き戻される。これからはこの手のドッキリNGにするよう伊地知に言いつけないとな、と悟に気づかれないくらいの苦笑を漏らした。

「五条さん、私ずっと祓本さんのファンだったんですよ…」
「…へーそうなんだ、ありがとー」
「特に五条さんの王子様みたいな見た目なのに不遜なところとかすっごいツボで…!よかったらこのあと、抜け出して二人でお話ししませんか?」

居酒屋のダウンライトが反射する艶めいた唇を寄せ、上目遣いに悟を見上げる女性は確かにあざとくて可愛い部類の女の子だ。…なかなか演技が上手い、女優転向でも狙っているのだろうか。先日見せられた台本通りインカムの向こうの先輩芸人が飛ばす指示を律儀に復唱しつつ自分の魅力をアピールする彼女の姿に、きっとその辺の芸人だったらコロッと落ちていただろうと思った。

「ねーぇこの店メロンソーダないとかどうなってんのー?僕何飲んだらいいのーねえねえねえ」

─そんな彼女に一瞥もくれずにそう言って後輩を詰める悟。語気が強くそろそろ機嫌が火山の噴火よろしく最高潮に達しそうな様子を見て、別室から状況を見守っている先輩芸人にネタバラシを誘導する合図を送ろうとした時だった。悟の鋭い碧眼がこちらを射抜く。仕掛けられていたカメラのある位置をどうやって悟ったのかは知らないがサングラスの向こうの瞳が一、二、三、四、とゆっくり動いたのがわかった。
その視線の動きに参りましたと一応前のめりだった上体から緊張が解ける。どうやら六眼がなくなってもその辺の人間が考えた小賢しい策略なんてハードルにもならない程度にポケットに手を突っ込みながらひょいと飛び越えてしまうらしい。私の表情や態度を伺うような蒼の眼差しに表面上の笑みを返せば大きなため息をついて悟はずっと無視をしていたアイドルに上半身を向ける。

「さっきからさー、君すごいやらしい触り方してくるね?何、僕とそういうことしたいの?」


─あれ?このまま続行するつもり?…悟の意図がわからず思わず眉間に皺を寄せそうになった。
なぜならまるで男が女を誘うときのようなねっとりとした視線を悟がわざとらしく若々しいアイドルへ送ったからだ。今まで全くの無反応だった悟の、頭の天辺から、指の爪先までじっとり値踏みするような視線に活路でも見出したのか、彼女はもとより高かった声をワントーンあげてまるでモスキート音のような発声をし始める。耳にはめ込んだインカムのイヤフォンが、興奮気味に音量の上がった声を乗せる。『よっしゃ!五条やっと反応した!畳み掛けて!『五条さんのことが好きなんです』、行こう!』本当に恋する乙女のように瞳を潤ませた彼女は悟の膝に手を置いて胸をグッと寄せる。……あれ?この子まさか『本当に』悟のこと好きとかじゃないよね?


「実は私、五条さんのことがずっと─」
「好きなんです?」
「……え?」
「それって芸人として?それとも男として?」
「え、や、そんな、恥ずかし……わかり、ますよね?」
「はは─ずっと、ねえ?ねえ、ずっとっていつから?何年何月何日?地球が何回回ったとき?」


ケラケラと笑いながらもじっとりとアイドルを見下ろす悟の視線は相変わらず値踏みするようなそれ。…あ、悟キレてる。表情はにこやかなのに全く笑っていない目が、薄ら笑いを浮かべている口が静かに怒っているときのそれだった。

「ふふ!なんか小学生みたい五条さんって可愛いですね」
『指示してないのに演技上手ですね〜!五条も反応し始めたし。これは大変なことなるんじゃないの〜?!』
「(……あ、この子馬鹿なんだ……)」

悟の意地の悪い質問に戸惑いつつも、笑顔を浮かべていることに安堵したのか、この場に流れる空気を全く読めていないその子にも、インカムの向こう側で盛り上がっている芸人達の騒がしい声にもただただ馬鹿だなあ…という感想しか湧いてこず、さっきまで一応ドッキリがうまくいくようフォローしようと思っていた気持ちが一気に霧散する。…それこそ高専時代の時から変わらない人を煽る腹の立つ表情を浮かべる悟に鼻を鳴らす。
半分嘲笑のような、わざとらしく微笑みを浮かべる男と、そんな男をキラキラと見つめるおバカアイドル。一見すると今から悟が女の子を口説き始めそうな一幕にまあ、撮れ高に一応なっているかも…なんて思いつつ数日は悟からグチグチと小言を言われそうな展開に目の前のビールに手を伸ばした。目にハートを浮かべたアイドルはこれからきっと地獄を見ることになる。私が指さしたばかりに悪いことしたね、と心にもない謝罪を内心漏らしながら枝豆を口の中に放り込んだ。

「わたし、五条さんの綺麗な瞳、生で見たいです…
「はは、いいこと教えてあげようか」
「……は、い
「僕のコレねー、映す人間って限られてんの

コンコンとサングラスを指の関節で叩く様子にごくり、アイドルの小さな喉仏がゆっくり動いたのがわかった。期待するような眼差し。何を勘違いしているのか「うれしい…」と震える唇、悟のサングラスへ伸びる華奢な白魚のような手。とっくにインカムの向こうの指示なんて聞こえなくなっているのか、今にも何かがおっ始まりそうな雰囲気だ。…今更この子下手したら炎上しないかなと思ったけど、まぁ、この子が炎上しようがどうでもいいなと思い直して悟の目の前で放置されているたこわさの器をこちらへ手繰り寄せた。


「今の僕のこの瞳は結婚したってのに会う時間少ないなまえをくまなく観察するためについてんのね。僕の体はなまえを悦ばせるためのもんだし、君は何勝手に人のモン触ろうとしてんの?って話だよ」
「………え?」
「あ、僕の奥さん知ってる?そうあの女優のみょうじなまえ!びっくりするでしょ?僕さー、むかーしからずーっと彼女のこと好きでね?まぁ少なくとも、君たちがみょうじなまえを認識する前から僕はなまえのことが好きなわけ。
もちろん女優になったことはすごいなーと思ってるし仕事も応援してる。なまえが出てたドラマはセリフ覚えるくらい見尽くしたんだけど最近悪女役がやけに増えてさ?もうこっちは普段見慣れないなまえの姿にテレビ見ながら毎回ドキドキさせられてて!たまに僕を手玉に取ってもらうイメプしてもらうんだけど最初の方はすんげえ頑張って悪い女やってくれてんのに、結局セックスの最後はぐずぐずになって大好き大好きになってんのマジで可愛すぎて溶けそうなんだよね〜もちろんなまえの方が溶けてるんだけど
やっと僕の奥さんになってくれたなまえは毎日毎分毎秒可愛すぎるし、ほんともう毎日幸せで死にそうなんだよね〜〜!だから仕事じゃない飲み会とかマジでだり〜〜〜っ早く抱きて〜〜〜〜って感じなんだけど、この気持ち独身の君に伝わるかなあ?
あ、そうだ。この前結婚式の写真が出来上がってさ〜!なまえ本当に可愛すぎて、この世のものじゃないんじゃないかってマジで思ったんだけど…あ、見る?見て!僕の可愛い花嫁さん全世界に自慢したいから!あ゛〜〜マッッッッジで可愛いな?!?!?!何?!可愛すぎてイライラしてきた…あ、ごめんね?写真だよねー、あ、そうそう写真で思い出したんだけど家に飾る写真選びきれなくて結局全部現像してもらっちゃった〜!僕の部屋ストーカーみたいになまえの写真飾られてんの。ウケるでしょ?まあ、部屋って言っても同じ寝室で寝てるからベッドも置いてないし、基本はリビングで二人で過ごしてるからなまえ記念館みたいになってるんだけどさ、部屋の写真見る?ほら見て。僕の奥さんマジで綺麗でしょ?…あれ?どうしたの顔真っ青。酒飲みすぎた?」

……飲酒しすぎで顔が青くなったらそれは病院案件だよと普段ならツッコミを入れるそれもビールに混ぜて飲み干す。悟の写真を見せつけられたアイドルだけじゃなくて様子を見守っていた後輩芸人たちも顔を引き攣らせていてイカレた悟の暴露映像はある意味取れ高あるな〜なんて思いながら今度は軟骨の唐揚げを口に放り込む。んー、美味しい。

「別にこんなの他人に晒すつもりなんてさらさら無かったんだけどさー、なまえとやっと結婚できたのに相変わらずめんどくさい女の子の絡みいちいち付き合ってらんないんだよね。…仕事でもヤなのにプライベートとかなおさら!だから丁度見せしめにいいなと思って君もオトモダチとかいるなら僕はやめときなーって言っといてくれる?てか新婚ホヤホヤの男によく手ェ出そうと思うよね?…あ、もしかしてあれ?みょうじなまえから僕寝取ってやった的な感じで燃えちゃう系?はぁーやだなー、なまえと結婚した僕ってもしかして寝取り相手としてめちゃくちゃ市場価格上がってる感じじゃない?ッハーうっぜーーー。君みたいなのって触れようとした手跳ね除けられたら乱暴されたー!とか言って喚きそうだなーどうしたもんかなーって思ってされるがままにしてたけどさ……もし君が僕にへばりついてる写真撮られてなまえが機嫌損ねて離婚とか言い出したら君どうしてくれんの?
はー…もうまじで…先輩が飲みの場に女の子呼ぶ分には仕方ないけどさー…後輩オマエも僕らに気ー使ってこういう子呼ばなくていいって何回言ったら覚えんの?僕のことはほっといてくれる?
っていうか君自分の顔面ちゃんと見た?奥さんみょうじなまえって知ってるくせに近づいてくるってすっげーチャレンジャー…あ、もしかして自分の方が可愛いとか思っちゃってる?鏡変えた方がいいんじゃない?ウケる

─さすがに人生二回目ともなると人に向かって「ブス!」とは言わないらしい。…ほぼ同義の言葉を吐いているが。ゲラゲラと腹を抱えて笑い出した悟とは対照的にぷるぷると肩を震わせ出した女の子をビールを煽りながら眺めているとイヤフォンから飛んでくる『夏油!フォロー!!』の声。まあ確かに、さすがに可哀想になって水滴が滴るジョッキを一度置くことにした。

「……悟、言い過ぎだよ」
「はぁ?嫁がいる男にベタベタしてくる女に言い過ぎもクソもねーから」
「正論嫌いなんじゃなかったっけ」
「んァ?そんなこと『今の僕』は言った記憶ありませーん」

ベロベロバァと腹の立つ顔でこちらをおちょくってくる悟に思わず拳をお見舞いしそうになったがぐうと堪える。表情ではにこやかに笑っていても目の前の男はおそらく内心キレ散らかしている。ようやくこちらの状況をモニター越しに楽しんでいた番組MCやスタッフ達は状況が芳しくないことを理解したのかインカムの向こうが『やばいやばいって!あいつら喧嘩しそう!なんで?!祓本解散?!』と慌て出す。…こんなことで解散してたらもう千回くらいは解散してるよ全く。ついにアイドルは泣き出したのかぽろぽろと大粒の涙を目から溢れさせた。悟は「…いや何泣いてんの?インガオーホーでしょ」と耳を小指でほじりながら更に畳み掛けていて現場はカオスである。漸くこちらに近づいてくるドッキリ大成功(成功してないけど)のプラカードにやっと地獄の終わりを見た。

「そもそもさ、僕はきっとこの世に生まれ落ちた瞬間からなまえのことが好きだったし、なんなら生まれ落ちる前から好きだったし愛してるんだよね。…これ記者会見で言った気ぃするんだけど…言ってなかったっけ?まあいいや、…君はさ、『ずっと好きなんです』の重みわかって言ってんのかな?…ま、別に知らなくていいけど。とにかく君も既婚者の男にそうやって気安く触れたりしない方がいいよ」

ニッコリ、笑ってそう悟が締めくくったところで、お決まりのSE付きのプラカードが登場した。









『なんだぁドッキリ〜?!僕ガチ説教しちゃったしヤバイ性癖もバレちゃったじゃん〜!え、もしかして傑も後輩オマエも仕掛け人?!僕のことちゃんと止めてよ〜!君もごめんねえお仕事で『仕方なく』だったのにひどいこと言って〜!』
『惚気始まったあたりからあーもうだめだと思っていろいろ突っ込む気も失せたよ』


テレビの向こう側で起こった前代未聞のハニトラドッキリの一部始終に背筋が凍った。昔から祓本の二人はチャラいで有名だったし(五条の方は全部ガセネタだったらしいけど、それも本当のところはわからないでしょなんて思ってた)今をときめく人気アイドルに迫られたら新婚ホヤホヤ祓本五条はどうなる…?!なんて煽り文句の番宣を見た時からあんだけ嫁大好きアピールしてる五条があっさりハニトラに引っかかったら面白そ〜〜なんて軽い気持ちで見ていたバラエティでこんなにヤベエ嫁トークを繰り広げるなんて思ってなかったし、しかもそのほとんどにピー音がかけられている始末。有名なアイドルも、ドッキリかける仕事であんなに説教されるわ、貶されるわ私も絶対泣くな…カワイソウ。五条悟のVTRが終わって、スタジオでやいやい言ってる芸能人達が騒ぐバラエティを横目にSNSを流し見すれば荒れに荒れていて思わず笑ってしまう。バラエティの放送が終了しても、アイドル同情票アンチ票五条悟アンチ票擁護票やらで炎上しまくっていた。
渦中の五条悟は、といえば私たちがどれだけ騒いでいようが気にしていないのか『奥さんに女の子にひどいこと言っちゃダメって怒られちゃった。ぴえん。』なんて泣き顔(全然泣いてない)の写真と一緒に火事に向かって勢いよくガソリン撒くような投稿をしていて流石に草が生えてしまう。


「五条悟、怖〜〜〜〜〜〜〜!!」


いくら顔がいいって言っても、あれはないわ。ナイ。
ドアップで五条悟の顔が映ったスマホをスクロールして、そういやもうすぐJuu10のメガ割セールの時間だったことを思い出して、頭の中から五条悟を追い出して買わなきゃいけない化粧品をリストアップさせながらアプリを切り替えた。









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