童貞くんとビッチちゃん 前

*五条が童貞、未成年飲酒、夢主が夏油との肉体関係も仄めかしています。五条が酒で失敗し嘔吐する表現等々ありますのでご注意ください。閲覧後の苦情は受け付けておりません。





暑い。外は雪がちらついているほど寒いのに、掃き出し窓が曇るほどの結露が発生するくらいには室内の温度も湿度も上がりきっている。暖房器具がガンガン付いてるからとか、高専に来て初めて知った炬燵の中がすげーあったかいとか、まあ、室内温度の上昇の理由はいろいろある。今自分の足先に触れているのは誰の足だろうか。小さな炬燵の中に四人で足を入れればそんなのキャパオーバーなことは誰もがわかりきっているが、いつもこうして定番の部屋で集まるときは狭い炬燵にみんなで足入れてげしげし蹴り合うのが恒例になっていた。いつもは攻撃的なはずの触れあうその足がどれも攻撃力を失っているのは、テーブルの上や床の上に散乱する空き缶や空き瓶のせいに違いない。目の前の酔っ払いどもが発散する熱気も室温の上昇の一因となっているのだろう。


「みんな年末なのに帰んなくてい〜の〜?」
「帰らなくてもいいの?ってなまえがみんな帰んないで寂しい寂しいって言うからだろ」
「んふふ、私のために残ってくれたんだもんね、傑大好き〜っ
「傑に絡むなよ、酔っ払い」
「え〜ッ?私なんかよりー、硝子が一番飲んでるからぁ」
「私はいいんだよ、酔わないから」


四角い炬燵のコーナーごしで隣に座る、顔を真っ赤に染め上げて向かいに座る傑に投げキッスを送る馬鹿みたいにだらしなく隙だらけの姿を晒すなまえにもう何度ため息を漏らしたか覚えてすらいない。こんなの傑と二人にしてたら何か間違いが起こったかもしれない。毎年恒例になっている出席必須の伝統行事なんか行かずにぶっちしてよかった、心からそう思う。

年末年始、大祓には全国の呪術師は年末の掃討ということで関係各所の『大掃除』をするのが常だが、高専所属の学生たちはまだそれを免除されている。一般校と比較したら短いかもしれないが冬休みと呼ばれるものも存在する。その期間は寮母も休みに入ってしまうためほとんどの学生は実家に帰ってのんびりするものらしいが、傑と硝子は例にも漏れず帰省、俺は五条家の恒例行事に顔見せの予定をしていた。そんな中同級生であるなまえが帰り支度をする俺たちに連日実家に帰りたくないひとりにしないでと駄々をこねまくった。その説得に最初に折れたのが、今集まっている部屋の主人である傑だった。「仕方ないなあ、じゃあ年末年始はこっちで過ごすよ」と眉を下げる傑に「やったあ!何して遊ぶ?!年越しオールでスマブラする?!」なんてはしゃぐなまえに電撃を受けた。…もしや、俺が実家でくだんねー伝統だかなんだかの行事をこなしてる間こいつらは二人きりで冬休みを満喫するのか?実家のクソつまらない伝統行事となまえと傑が年末年始一週間程度二人きりで寮の中で仲良く過ごすのを阻止する、その二つを天秤にかけた時、もちろん後者に傾いた。結局硝子も寮に残って最早普段の日常とさほど変わらないガヤガヤした日常を過ごしていた訳だが、年越しなんだからと言って硝子が持ち込んだ酒を契機にこうして始まった酒盛り。ぽやぽやと顔を蕩けさせているなまえは正直言って目に毒だった。


「悟ほんとに帰んなくてよかったの〜?」


五条家次期当主様なのにぃ!いつもよりトーンの高い声と共にこちらに顔を寄せたなまえは頬を熱らせ、目も若干潤んでいた。全身黒の上下スウェットで身を固めているというのに、逆にそのダボっと感がまるで男の服を着ている夢のシチュエーションみたいに見えてドギマギしてしまう。だぼっとしているからか若干見え隠れする鎖骨も、赤く染まった首筋も、袖から見える細い手首も、扇情的に見えるのはなまえが酔った雰囲気で醸し出している無防備さからくるものだろうが、何はともあれ何度も言わせてもらうが視界に入る全ての情報が目に毒だ。


「…別に。家の奴らがなんとかするだろ」
「悟も残ってくれてうれし〜〜!ほら悟も飲みなよお」


そう言ってずい、と差し出されるのは今の今までなまえの右手に握られていた缶酎ハイだった。大きなレモンのイラストの下にSTRONGと印字されている缶がギラギラと光っている。酒にストロングもクソもねーだろ。じゃあウィークな酒ってなんなわけ?そもそもゼッテー俺の方がストロングだし。こんなの指先一本で捻り潰せるしな。
訳の分からない対抗意識を燃やしながらなまえの前で転がる同じ印字の缶も一緒に睨め付けた。
アルコール度数9%と強調されているそれがどんな味がするのか、興味がないわけではない。硝子がタバコと同じぐらい陶酔している酒、いつも涼しい顔している傑の頬を赤らめさせる酒、そして好きな女を無防備に晒しあげてしまう酒、俺が飲んだらどうなっちまうんだろう。実家にいた頃は行事で目の前に盃に入った酒が差し出されたことはあれど「悟様はいけません」と取り上げられてきたそれ。おずおずと手を伸ばせば缶をひょい、と持ち上げたなまえがへにゃりと笑った。


「…くれるんじゃねーのかよ」
「さとるはじめてだよね?」
「は?」
「わたしがのませたげる」


なまえはそう言って手に持っていた缶を血色が良くなった自分の唇に押し付けた。柔らかそうなそれが無機質なアルミ缶に圧されて形が変わるのがやけに淫らに映ったのは、なまえがこちらを緩く微笑みながら見つめたままだったからだろうか。
ああ、なまえの悪癖が始まった、と笑っている傑の声と、高専の近くにある神社からなのか、ゴォーンと低く轟く鐘撞の音が重なって聞こえた。自分に絡みついていた誰かの脚がすりすりと脚の輪郭をなぞりながらどこかへ移動していったと思えば、なまえが炬燵から抜け出し四つん這いになってこちらへ近づいてくる。ああ、あれだけくっついてきてたのはなまえの脚だったのかとそこで理解した。なまえの体温の上がった小さくて、少ししっとりしている手が自分の頬に添えられた。頬を少し膨らませたまま唇を寄せてきたなまえに、何をされるのかなんとなくわかってしまって雰囲気に呑まれるがまま瞼を閉じた。かけていたサングラスがゆっくり引き抜かれていく間に傑が「あ、年明けたね」なんてぼやいてるのが聞こえて、それに対して「あけおめ〜」と硝子が抑揚のない声で返していた。待って俺今それどころじゃねーんだけど?!っていうかこの状況見てオマエらよくそんなこと平然と呟けるな?!なんて思っていれば、ふに、やわらかくて、燃えそうなくらい熱い唇が触れる自分の唇に、全身の感覚神経が集中しているのかというくらい敏感に感触を感じる。や、やっべえええ…お、俺なまえとキスしてるんだけど!え?いまどういう状況?なんでこんなことなったんだっけ?グルグルとよく回らない頭でこっからどうすればいいのか考えながらゆっくり瞼を開ければ、過去最大級に至近距離にいるなまえがニィと目を細め、か細い指先で俺の鼻を摘んだ。…?!い、息出来ねえんだけど?!え?!なに?!ど、どういうこと?!俺のこと殺そうとしてる?!体内からどんどん酸素が抜けていく感覚に頭がポーッとしてきて、なまえから押し付けられた唇が俺の口の中に入り込もうとしているのかグイグイともう既にない距離をさらに詰めようとしてきていた。酸素欲しさに口を薄く開いた瞬間、待ってましたとでもいうようになまえの舌と一緒になまえの口内で温くなった苦い酒が送り込まれてきて、突然のことに思わず吐き出しそうになる。いつの間にか指が離されていた鼻でなんとか酸素を取り込めたと思いきや、口内にいっぱいになったアルコールを混ぜるようになまえの舌が口内で暴れ回る。とにかくこの水分だけでもなんとかしなければと飲み込めば喉がカーーーッと灼けるように熱くなった。尚も暴れ回る舌が大胆に己の舌を絡め取っていったと思えば、舌先が触れるだけで焦らしてきたりと、もうされたい放題で頭がクラクラする。すぐに要領を得てやり返してやりたいのに、なぜか洗濯機に入れられたみたいにグワングワンと回る脳と、心臓が飛び出そうなくらいバクバクバクと跳ねていて、明らかに状態異常を訴える体のせいでなまえにうまく反撃できない自分が情けなかった。


「ふっ、ん、ぁっ… なまえ…っ や、やめ…」
「ん、ちゅ、むぅ」
「ん、んん゛っ!」


いつの間にか床の上に押し倒されて、腹の上に跨ったなまえの向こうにあるアレが明らかに臨戦態勢になっていくのに慌ててなまえの肩を押せばぽやあとしたなまえがつながる銀の糸を引きながら体を起こしていくのが回る視界の中でもはっきり見えた。やばい、何、頭回ってんだけどこれ何?ぐわんぐわんする気持ちワリィ…


「お酒、おいしー?」
「なまえ、ヤんなら五条の部屋でヤれよ」
「え〜もうここでみんなですればよくない?」
「………は、ぁ?」
「…なまえ、さすがにそれは悟には刺激がきついよ」
「んむう。悟〜、えっちする?したい?悟の部屋いく?」


こんなになってるの可哀想だから慰めてあげるよ?
スウェットを押し上げるそれをなまえは後ろ手でスリスリと撫でつけてくるせいでまた質量を増してしまうのがなんとなく感覚で分かったが、さっき飲んだアルコールが頭に回って吐き気が迫り上がってくる。え、ヤバイ。酒ヤバイ。まっずい…っていうかマジで気持ち悪ぃ…っ


「はく…」
「んえ?」
「吐く………」
「ちょ!悟!大丈夫かい?!」
「むり、うぷっ…」

傑の大声にハッとしたなまえが慌てて俺の上から飛びのいて、その辺に放置されてたビニール袋を引っ掴んで体を起こしてくれた。我慢できずに目の前に迫ったビニール袋に胃の中から逆流してきたそれを吐き出そうとするけれど、喉でつっかえたみたいにうまく吐き出せなくて、うんうん唸ってはキモチワリーキモチワリーと嘆くばかりだった。


「悟、口開けて」


さっきまでの甘く痺れるような声色は何処へやら、やけに凛とした声はいつものなまえの様子でホッとして見上げればキリッとした視線で見下ろされていて、言われた通り口を開いた。「ごめんね、」謝罪の意味がわからないまま口を開けていればさっき俺のムスコを服越しに撫で上げていたなまえの指が口の中に侵入してきて、さっきまで好き放題にされた舌の上をなぞってくる。指先でもうこれ以上指が届かないというところをぐいぐいと刺激されたその瞬間、気管でつっかえていたようなものが急激に上までせり上がってくる感覚に思わずビニールに顔を突っ込む。

「じょーずじょーず、偉いね」

オエ、オエ、と嘔吐いている間もずっと背中をさすってくれていたなまえが大丈夫?ごめんね私が飲ませちゃったせいで、吐き出しちゃおうね、と優しく声をかけてくるせいで泣きそうになった。待って俺かっこ悪……


「大丈夫かい、悟、水飲む?」


心配そうにこちらを見やる傑の手に握られているのは、よくこいつの部屋の冷蔵庫にストックされているミネラルウォーターで、こくんと頷くとキャップを外した状態で渡されたそれを一気に飲み干した。喉を灼くようなアルコールと、胃の中から逆流してきたあれを通した喉と気管が一気に洗浄されたみたいで気分は幾分か落ち着いてきた。


「もう一生酒飲まない」
「悟にも弱点があったんだねえ」
「だいたい酒飲んだことないやつにストロング飲ませようとするなまえが悪い。しかも童貞にあんなやり方刺激強すぎだろ。五条、大丈夫か?」
「…硝子って俺のこと心配してくれるんだ…って待って、なんで俺が童貞って知ってんの?」
「見てたらわかるだろ」


バッと隣でまだ俺の背中を摩っていたなまえを見れば目があった瞬間困ったように笑って「悟の童貞いただけるかな〜?と思ったけど失敗しちゃった」なんて言うもんだからまだグラグラする頭から血の気が引いていった気がして起こした上体がふらりとよろめく。勝手になまえも処女だと思い込んでいたが、あんな手練手管を持っている奴が処女なわけない。っていうかさっきなんかこいつ変なこと言ってなかった?


「『みんなですればよくない?』ってなんだよ」
「え?あー、うん?」
「…もしかして傑とヤった?」
「え?あー、うん。任務の後とか何回か」
「…は?付き合ってるとか?」
「え?そんなわけないじゃん。ねえ、傑」
「うん、なんとなく流れでそうなっただけだよ。…最近はしてないしね」


あっけらかんと肯定するなまえと傑に今度は全身の血液が沸騰するみたいに腹が立った。スクっと立ち上がれば、頭に上った血が急に下半身に降りていったみたいで貧血のようにくらっと体がよろめきかける。まだ体の中にさっきの微量のアルコールが回っているのか、静止しているはずの目の前のものが全部揺れて見えた。…STRONGという異名は本当だったらしい。この最強の俺を初めて前後不覚に追い込んだのがまさかこんな非術師が生み出した俗物の塊だなんて誰が想像した?くだらないことを考えている自覚がある。そんなどうでもいいことでも考えていないと、うまく思考の回らない頭では単細胞のままに傑に殴りかかってしまいそうだった。
突然立ち上がった俺を驚いて見上げるなまえの細い手首を掴んで立ち上がらせ、有無を言わせず引っ張れば「悟、乱暴はするなよ」という傑の声が背後から飛んできた。うっせえ、マウント取ってきてんじゃねーよ。なんだか負け犬の遠吠えみたいに思えて口にするのが憚られるくらいには理性が残っている自分に安堵する。傑の言葉に返事することなく、なまえを引っ張って熱気のこもった部屋を出た。


「さと、…いたっ」

力任せに自室の部屋のドアを開いて適当な壁になまえの体を雑に押し付けた。後ろ手にドアノブを引っ掴んで閉めたら、バタン、と思ったより大きな音が凍えるほどの冷気で冷やされた暗い部屋に響いた。依然目が少し回っていて、六眼に映るなまえの呪力の情報や隣の部屋の傑と硝子の呪力の動きが混ざり合って情報の取捨選択がうまくいかない。なんとかなまえの顔に焦点を合わすために眉間に皺を寄せてこれでもかと神経を尖らせれば漸くピントが合う。まだ少し赤らんでいる頬を指でなぞれば「悟の手、あついね」と目を細めて指に頬を擦り寄せてくるなまえの姿にまた背筋がぶわっと総毛立つ。少しくらい威圧感をもって見下ろせばその余裕そうにふにゃふにゃした顔が強ばるかとでも思ったのに、まるで撫でられている猫のようににゃあんと笑うなまえと、ほっぺって思ったより柔らけええなんて思いながら必死に指先が震えないように耐えている俺とではどう考えてもレベル差が歴然だった。いつものなまえと姿形は同じなのに、別人格の人間と入れ替わってしまったかのようななまえの姿にまざまざと自分の知らない一面を傑が知っていると思い知らされて、むくむくと嫉妬心が湧き上がる。…ムカつく、ムカつく、ムカつく。なんで、いつからだよ、いつ傑とヤったんだよ…!お前ら二人とも全然そんな素振りなかったじゃねーかよ。「年越しオールでスマブラ」ぁあ?!ゼッテー今頃ヤリ納めとヤリ初めとかいってオールナイトセックスに励んでたんじゃねーの?!…もし、今日俺が実家に帰っていれば今頃…?そんなところまで思考を飛ばしてしまったせいで、また苦い炭酸の味を思い出して吐き気が迫り上がってくる。そもそもこの柔らかい頬も、小さな手も、あの柔らかくて熱くてすげー気持ちいい唇にも傑が先に触れたのかと思うと悔しさと怒りのあまり今にも呪力コントロールを乱して寮を全壊させてしまいそうだった。自分の知らないなまえがいることが許せない。全部知りたい。全部把握したい。こんなえっちなこと平然とするお前が本当なんだったら俺にも全部見せろよ。

「………何回だよ」
「え?」
「すぐると、何回、ヤった」

今にも壁になまえをめり込ませたくなるほどイライラする気持ちをなんとかなんとか堪えてグツグツ煮えたぎるハラワタから絞り出したみたいな声と一緒に見下ろせばなまえがそんな俺にビビった様子もなくえー何回だろう?なんて言いながら唇を突き出した。

「三回、いや、四回…?」
「…ふざ、けんな………」
「…悟?」

きょとんと不思議そうな、『そんなこと』知りません、みたいな純粋無垢を前面に押し出した顔で見上げられて、そのくせこいつはやることやってるという事実にカァァァと下肢から頭のてっぺんにまで上ってくる怒りや羞恥心や裏切られたみたいなショックに頭がプチパニックを起こす。しかもこいつの相手が唯一無二に信用する親友だ。好きな女をいつの間にか掻っ攫われてたどころかその上脱童貞オメデト楽しんでおいでね、ま、私はなまえの具合はよーく知ってるけど?なんて感じの表情で上から目線で見送られてキレずにいられるか?いられるわけがない。やっぱ一発ぶん殴ってくればよかったいや今からでも遅くない、よくわかんねー酒入ってた小瓶でぶん殴ろう。ご自慢そうな鬱陶しい長髪酒まみれにして、ぐっちゃぐちゃに噛みしがんだガムかなんかベッタベタに絡み付けてあの変な前髪もオールバックにしてやる。─きまり。そうと決まれば傑の部屋戻ろ、こんな寒ィ部屋あったまんの待ってらんねー。…ていうかなんで俺自分の部屋になまえ連れてきたんだっけ?なんか頭グルグル回ってきた…?

「悟」
「…なに、おれ、よーじできたんらけど」
「…目ぇ据わってるよ、大丈夫。何もしないからもう寝よ?」

壁に何故か押さえつけていたなまえが、心配そうに俺を見上げている。あー、かわいい。ぼーっとする頭には俺の両腕に囲われてるなまえがかわいいって情報しか入ってこなくて、ほら、こっちおいで、と手を引かれるがままについていくことしかできない。さっきまでなんかめちゃくちゃ怒ってた気がするんだけど何に怒ってたんだっけ。あーなまえの手ちっせえ〜握り潰しそ〜。

「ベッドで一緒に寝ていい?」
「…あ?、ん…」
「今日、寒いからくっついて寝る?」
「くっつく……」
「ふふ、かわいい」
「かわいいの、おまえのほーだろ…」
「え、ええ〜悟が超素直だ、すごおい。よしよししてあげようか?」
「ん…して……」
「ん、おいで。今日は酷いことしちゃったから特別におっぱいも貸してあげるね、ごめんね」

むに、と柔らかい何かに顔が押し付けられた。ふんわり香るなまえの柔らかい匂いと感触に加えて優しく優しく頭を撫でられて、さっきまで最悪だった気がする気分がどんどん浄化されていく気がした。何食ってどう生きてたらこんな柔らかい身体になんの?すげー…あったけえ……きもちいいー……ねみーー……


「ん、さとる、服の中はだめ、…ぁっ…」
「…スーー、」
「………もう、明日の朝覚えてなよ…あ、悟、あけましておめでとう、今年もよろしくね」


童貞らしくキスひとつで目を白黒とさせていたと思えば遠慮なく胸を弄ってきた男は、さっきまで全身全霊をもって激昂を滾らせていた男と同一人物なのかと思うほどあどけない表情で穏やかに眠ってしまった。普段は不遜な態度でつっけんどんとしている彼の子供みたいな寝顔に、なまえは不覚にもきゅんと胸の奥が柔らかく疼く。すーすーと規則正しい寝息と、人肌の暖かさ、柔らかくて細い髪をふわふわと撫で続けている心地よさに誘われるように眠りについた。





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