悟とキス

キスする前の、悟と目があって視線がお互いに泳ぐ瞬間が好きだ。お互いの視線を追いかけるみたいに見つめあって、愛おしいって顔に書いてあるその表情に見つめられるとドキドキして、たまらなくなって、これ以上見つめ合ったら瞳が焦げてしまうんじゃないかと思う。そんな灼けそうな熱い視線を恣にして、お互いの視線に吸い込まれるみたいに顔が近づいていく。優しく私を見つめる悟の頬に手を寄せれば、ベッドに頭を沈められた。大きな体に隠れんぼされるように閉じ込められたと思えば、耳と髪に触れながら優しくキスを落としてくれる。最初はふに、と触れるだけ。お互いの唇が吸い付いて、すぐに離れる。離れていって欲しくなくて、唇を中央に寄せて、離れゆく悟の唇を追いかけるように顎を突き上げれば、悟が嬉しそうに笑う。すき、すき、すごいすき。だいすき。キスをするたびに悟への愛がどんどん溢れて私の口から口移しするみたいに悟へ渡っていく。その愛が、悟の体を一巡して戻ってくるみたいに悟からのキスで私に返ってくる。どんどんお互いの愛が口から溢れて沼ができていくみたいにハマっていく。ちゅ、ちゅ、とリップ音を立てて唇の形も感触も確かめ合って、お互いに薄目を開けて近すぎる距離で見つめ合った。

「なまえ」

キスとキスの短い狭間に名前を呼ばれると悟のこと以外何も考えられなくなって、もっと、もっと、と深く唇を重ねたくなる。悟とのキスが好き。もうこれ以上ないってくらいの幸せを感じられるから。生きててよかったって思えるから。気持ちいいことしか考えられなくなってしがみつくみたいに悟の広い背中に手を回して服がぐしゃぐしゃになるくらい握りしめた。

それが合図みたいに、悟のあったかくて優しい舌が口の中に入り込んできて、もう唇の感触なんて感じられないぐらいに押し付けられて、多分幸せのドーパミンみたいなのが脳内からすごい勢いで全身に向かってどぱどぱと溢れていく。それがたまらなくしあわせで、ちょっと怖い。

「こおら、逃げないの」

枕に無理に後頭部沈み込ませて悟から距離を取ろうとすれば首の後ろに差し込まれた悟の手によってまた深いキスに落とされていく。だってやばい、やばいの。このままだと、本当に、溺れちゃいそうなんだもん。ちょっとだけまって、厚い胸板を服越しに押し返せば、待たないよ、と手を攫われてそのままベッドに縛り付けられる。指と指が絡まり合って、腕までぎゅうって隙間のないくらい重ね合って身動きが取れない。重なる口から私の酸素も奪ってるんじゃないのってくらい苦しくて、鼻から吸う呼吸じゃ間に合わないくらい息もうまく吸えない。まって、さとる、あ、まって。きもちよすぎるから、しあわせすぎるから、まって。おねがい。


「うそつき。顔はもっとしてって言ってる」


鬱陶しそうに上着を脱いだ悟はそう言って青すぎる瞳に私を映した。そこにはその青とは対照的に真っ赤に染まった私が映っていて、悟の言う通り早く触ってとでも言いたげな表情を浮かべていた。


「キスだけでこんなにとろとろになるなんてなまえはほんとに僕のこと好きだね」


僕も好きだよ、とまた啄むようなキスを落とされた。肯定の代わりにお互いの隔たりのなくなった素肌に手を回して、目を閉じて今度は私からその唇を迎えにいった。