Act 2-6

「ハイッ始まりましたーッ第一回笑ってはいけないin呪術高専〜!!どんどんぱふぱふ〜!!」
「は???」
「突然何なんだ」
「高菜ァ」
「???」
「ノリ悪〜〜みんな大丈夫?華のJKでしょ?もっとアゲてこ〜〜!!」

教室内に響き渡るアホみたいなテンションの悟の声としれ〜っとした生徒たちにどっちが大人なんだかと失笑を漏らしそうになるが悟のことだ、ここで笑えば「なまえ、アウト〜〜」なんて言いかねないので無表情で待機する。


「高校生じゃねェし。そもそも女子私だけだし」
「ブッブ〜!君たちは『呪術高専生』なのでJKで合ってますぅ」
「うっっっぜぇ……」


こめかみに青筋を立てた真希。わかるわかるよ。でもね悟の悪ノリは付き合うだけ無駄なんだよ。君たちはこれから無視するのが一番だって知っていくことになるだろうね。


「あはは、五条先生は面白いですね」
「あ、憂太、アウト〜〜〜!」
「えええ!!始まってたんですか?!?!」
「負けた憂太くんは〜〜、京都姉妹校交流会に行ってもらいヤス!!」


ここで言うのかよ!とさすがにズッコケた。ジト目を送るも気づいていないのか無視しているのか悟は知らないふりだった。


「交流会?」
「京都にも高専があるんだよ。そこと模擬戦みたいなことするの」
「へー、そうなんですか…って何で僕?!」


驚愕する憂太に「やってこい憂太さん」と悪ノリするみんな。京都行くのめんどくさいんだろうなあ、真希は実家もあることだし。


「呪術を向上させるには実戦が一番!ちょうどいい機会だと思って!ね!」
「私と稽古してても呪術は教えてあげられないしね」


私の言葉に合点がいっていなさそうな憂太に苦笑する。そういえば呪術が使えないこと、言ってなかったようだ。
真希が視界の端でぎゅっと呪具の入ったケースを強く握る気配がする。そんなに引け目感じなくても十分強いのに。


「私呪力ないから」
「呪力、ない…?え?」
「そ。呪力コントロールについては教えてあげられないの。呪力探知しても私の気配ないでしょ?私が教えられるのは身体の使い方と呪具の扱い方くらいなものだから。京都行って勉強しておいで」
「そういうこと!二年との交流にもなるしね!」
「二年生…ですか」
「体術は十分身に付いてきてるから頑張ってきな、憂太」
「え、ええ〜なまえ先生は行かないんですか??」
「悟が行くだろうし、二年の担任の先生が引率するよ。私は留守番かな?みんなの訓練もあるしね」
「…ん?憂太?僕がいれば問題ないでしょ?なまえは僕のだからね??」
「へ…?!え?!いや、そんなつもりじゃないです…!」
「悟の冗談だからいちいち本気にしてたら大変だよ憂太」
「あっ、冗談…」


ホッとしたように胸を撫で下ろした憂太が気の毒だ。しょうもない悪ノリをする悟に、もう!と背中をバシンと叩いておく。「痛いな〜」なんて言ってるけど知るか。


「あ、なまえこのあと任務だよね?恵呼んどいたから連れてって」
「……まあ、悟と行かせるよりマシか」
「どういう意味??」
「恵から前聞いたよ、呪霊焚き付けるだけ焚き付けてそのままどっか行ったと思ったら饅頭片手に帰ってきたって!」
「え?そんなことしたかなあ?なんならなまえも恵に全部やらせていーよ」
「……私はそんな雑なことしない」
「荒療治も必要でしょ」
「まあ、そうだけど」


それで死んだら元も子もないじゃん、心の中だけで呟いておいた。





△▼


悟と違って私は恵に任務丸投げしたりなんてしないーそう思っていたのに、玉犬の索敵能力の高さと恵の式神たちの有用さに私の出る幕はなかったと言ってもいい。油断もしないし驕りもしない、慎重な恵の性格のおかげか私ならもういいや、やっちゃおー☆みたいなことにもならず、しっかり補助監督の用意した資料を読み込んで背景の理解を深めていたし、周辺の聞き込みなんかもちゃっかりやっちゃってて、周囲に影響がでないように祓う時も細心の注意を払っていて、なんなら私より遥かに立派な呪術師と言っても過言ではなかった。ーアレ?私いる意味あった?まぁ恵はまだ等級があるわけじゃないので任務に単独で招集されることもないから任務に一人で行くことはまだできないのだが。
…津美紀のことも自分の中で折り合いをつけているのか特に表立ってしょんぼりした様子もない。なんなら私の方がまだショック受けてるくらいだった。


「玉犬よしよししていい?」
「はぁ、あんまり強くしないでくださいよ」
「敬語じゃなくていいのに」
「…来年には高専に入学するんだ、このままじゃアンタも示しつかないだろ」
「ええ〜そんなの気にするー?!真希だって悟のこと悟って呼んでるしずっとタメだよ?」
「…まぁ、入学するまでなら」


わしゃわしゃわしゃ、と力の加減のわかってきた強さで玉犬の黒と白の喉を撫でれば尻尾がブンブンと揺れるのが可愛い。


「あ、そうだ。五条さんと結婚するって聞いたけど」
「ーーは?」


思わず玉犬を撫でていた手が止まり、玉犬が私に向かってはっはっとまるでもっと撫でろと言わんばかりの態度でこちらを見上げてくるが、ごめん今は構っていられない。自分の耳を疑った。今なんて???


「けっ……こん…?って言った……?」
「?違うのか?この前五条さんが『ハネムーンどこがいいかな〜なまえは温泉がいいって言ってたんだけどね』とかなんとか言ってたけど」
「は??なに?それ本当に私の生きてる世界線の話?」
「何言ってんだ???」


温泉という言葉に先日の悟の休暇申請の話を思い出して思わず頭を抱えた。嘘でしょ?アレってそういう意味だったの?結婚なんてワード一言も出てなくない?


「信じられない…結婚なんて最近話題にも上がってないよ」
「?出会った頃からアンタのこと奥さんだなんだ言ってただろ」
「いやっ…あれは、ノリじゃん、多分」
「もういい歳だろなまえも五条さんも」
「えっ…恵にババア扱いされてる…?」
「そんなこと一言も言ってないだろ。ーなんで結婚なんて大事な話でそんな齟齬が生じるんだよ…帰ったらちゃんと話せよ。そろそろ帰るぞ」
「あれ?恵って悟より大人…?」
「昔から『違う男に乗り換えた方がいい』って言ってたのに聞かなかったのアンタだろ」


……ぐうの音も出ない…玉犬が影の中に消えていくのを見届けて立ち上がるも、私を見下ろす恵の表情が呆れ全開と言った感じで情けない。とりあえず、今日悟は帰ってくるのだろうか…話してみないことにはわからないな…、…え??


「なまえ?急に立ち止まるなよ…、…」


恵が何か話しているけれど、頭に入ってこない。私の意識は完全に今すれ違った女性に持っていかれていた。色濃く残るある人物の残り香のような気配。気のせいかと思ったけれど、間違うわけない。目が、離せない。明らかに非術師のオーラでしかない女性にまとわりついていたのは夏油の気配だった。



「なまえ!聞いてんのか!」
「…ー恵、一人で帰ってくれる?」
「……え?」
「ちょっと野暮用」
「えっ、ちょっ…なまえ!」


手を掴もうとしてくる恵をふわりと躱して、静止の声を聞くことなく目が捉えて離さない女性を追いかけた。この時にはもう恵から聞いた話のことなんてすっかり頭から抜け落ちていた。




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