涼一(24歳)
リナ(5歳)

初カレから貰ったリボンの行方──


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とある平日の昼下がり。
リナはソファーの上で膝を抱えてうずくまっている。涼一は2人分のアイスココアをテーブルの上に置き、リナの横に腰かけた。傍らに置いてある雑誌を読み始める。

「何ふてくされてるの」
「……。朝、ママとケンカした」
「ふぅん」

ペラっとページをめくる。

「……。なんでか聞かないの?」
「んー。なんでケンカしたの」
「…ママが新しいお洋服買ってきてくれたの」
「うん」
「水色だったの」
「うん」
「……」
「……」
「それだけ」
「……。水色はキライ?」

涼一はテーブルのココアを手に取り、口をつける。リナは顔を上げ眉をひそめる。

「キライじゃないけど」
「うん」
「あきた」
「……」
「リナはピンク色がいいのに、ママがピンクはブリッコだからイヤって言うの。リナには水色が似合うって」

リナは唇を噛みしめる。

「リナ女の子なのに。お友だちはみんなピンクのお洋服もってるのに。リナはいつも青か水色。男の子みたい」
「リナ可愛いからちゃんと女の子にみえるよ」
「そういう問題じゃないもん」

リナは再び顔をうずめる。

「リナはピンクがいいの。もう水色はイヤなの」

涼一は隣でうずくまるリナを見つめる。頭には水色のリボンが長い金髪と一緒にひらひら流れている。
涼一は雑誌を脇に置いて立ち上がり、小さな戸棚の引き出しを漁りだす。ガサガサという音が部屋に響く。リナはゆっくりと顔を上げる。

「…なにしてるの?」
「あった」

小さな箱を手に取り、ソファーに戻る。そっと蓋をあけると、ピンク色のリボンが入っていた。

「リボンだ」
「後ろ向いて」

涼一はリナの頭に結ってある水色のリボンをほどき、箱の中のリボンを取り出した。

「それ、涼ちゃんの?」
「うん」
「朔ちゃんからもらったやつ?」

ピンク色のリボンを器用に結い始める。

「あー。朔はリボンくれたことないかも」
「そうなの?」
「うん。朔からはピアスとか指輪とか口紅とか……そういうやつ」
「口紅?」
「うん」
「涼ちゃん口紅するの?」
「しないよ」
「じゃあ朔ちゃんなんでくれたの?」
「さぁ。馬鹿なんじゃない」
「口紅つけてあげた?」
「一度だけね」
「朔ちゃん喜んでた?」
「怖がってた」
「えぇっ、なんで?」
「口真っ赤でオバケみたいって」
「えー!朔ちゃんヒドイ!」
「ね。ハイできた」

涼一は手鏡を持ってきてリナに渡す。

「わぁ…!」

鏡を覗き込むと、可愛いピンク色のリボンが頭にちょこんと付いていた。

「あげる」
「いいの?」
「うん」
「似合ってる?」
「うん」

リナは鏡に向かって満面の笑みを浮かべた。そしてふと気づいたように振り返って尋ねる。

「涼ちゃん、なんでこのリボン持ってるの?」

涼一はリナの瞳を見る。

「朔ちゃん以外の誰かにもらったの?」
「………」
「それとも自分で買ったの?」
「……。ヒミツ」
「えぇー」
「ほら、ココア飲まないの?」

慌てて話題を変える涼一の顔は、ほんのり赤かった。

「…涼ちゃんのうわき者」
「ちがうよ」
「これ、大事なもの?」
「少しね」
「返したほうがいい?」
「ううん。リナにあげる。俺はもう、いらないから」
「でも」

涼一はリナの頭をそっと撫でる。

「リナに良く似合うから、リナに使って欲しいから、だからあげる」
「涼ちゃんにもきっと似合うよ」
「俺には口紅があるから」
「オバケみたいな口紅?」
「そう。オバケみたいな口紅」

涼一は笑った。
リナは鏡に映ったピンク色のリボンを見つめる。少し色褪せてパステルカラーになったリボンは、金髪になじんで優しく揺れていた。



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