何を言うわけでもなく
彼はそっと背中を預けてきた
僕のよりも大きく広い背中
触れた部分が温かく、涙腺に再びジワと感じた熱と共に視界が歪んだ
下唇を噛み締めると、自然と鼻が勢いよく空気を飲み込んだ
グスリ、静かな空間にやけに音が響く
「………重たいです」
しばらくして小さくそう抗議をすると、そうかと笑い声が返ってきた
少しずつ体重を乗せられ、いつの間にか前屈みのような窮屈な体勢になっていた
フッとその重みがなくなったかと思うと、部屋に射し込む夕日を背に彼は言った
「走るか、金吾」
「……はい…七松先輩」
生乾きで頬に残っていた最後の一滴を指で拭い、すでに橙の世界からこちらに手招きする彼に続くように飛び出した
七松は何も言わずに慰めてくれそう。