「それで?なんでこうなったわけ?」

乱太郎は布団を二つ挟んだ向こう側に座る二人に笑顔を向けたが、その目は笑っていなかった。

彼らの間にある二つの布団には、今しがた乱太郎が手当てを施した怪我人が眠っている。

「ちょっとねぇ〜」

いつもと変わらぬノンビリとした声で返したのは、乱太郎の冷笑にも動じずニコニコとしているしんべヱ。

実は今回の事件、加害者は彼である。

それにも関わらず、彼は特に悪びれた様子もない。

「あのさ、乱太郎……。
今回は見逃してくれないか?」

おずおずと声を出したのは、事件現場に一緒にいたきり丸だった。

「見逃してって……。
そうも言ってられないよ、私は保健委員として治療についての経緯とか報告しなくちゃいけないんだから。」

と、乱太郎は"委員として"の立場で言ったものの、ゴホンと咳ばらいをして付け加えた。

「ってのは建前で、私も何があったか聞きたいんだけど……。
何かがあったって見え見えだよ?
二人のことは誰よりも理解してるつもりなんだから…。
私だけのけ者なんて酷いじゃないか。」

プゥと頬を膨らませる乱太郎に、きり丸としんべヱは顔を見合わせて笑った。

「ワリィワリィ。
話すよ、ちゃんと」

「良かった、もし黙ってるなら職権乱用してでも聞き出すところだったから」

「乱太郎こわーい」

「フフ、冗談だよ。
いくら私でも親友が聞かれたくない話を無理矢理聞くなんて出来ない」

いつもの和気あいあいとした雰囲気に戻り、じゃあ…ときり丸が話し始めた。








事の発端は、布団に横になっている二人の言葉だった。

「お前、きり丸だろ」

名前を呼ばれて振り返ったきり丸は、見知らぬ二人のニヤニヤ笑いにまたかと思った。

「孤児(みなしご)で有名な……」

やっぱりな……。

きり丸は鬱陶しそうに彼らを一瞥し、スタスタと歩き出した。

一々相手をしているだけ時間の無駄だ。

無駄はもったいない、やらない。

期待していた反応と違ったのか、二人は後に着いて来る。

「大変だよなあお前もさあ。
でも聞いたことあるぜ?
お前がいつもつるんでる奴、福富…だっけ?
あいつ超がつくほどの金持ちなんだろう?」

「あいつに頼んで学費ぐらい払ってもらえば良いじゃねーか。
いや、それともつるんでるのはそのためか?
なんかあった時の保険として……ぐふっ」

言い終わらないうちに、彼は空高く飛んだ。

「え?え?ぐあっ……!」

何が起こったのか分からないもう一人も、背後からの衝撃に吹っ飛び地面をゴロゴロと転がる。

その時になってドサリと宙に飛んだ者が落ちてきた。

気を失った二人に、この状況を作り上げた男がパンパンと手を叩く。

「きりちゃんはね〜、そんな風に僕のこと思ったことなんかないんだよ〜」

まあもう聞こえちゃいないんだろうけど…。

しんべヱは二人を担ぎ上げると、ボケッと突っ立っていたきり丸に声を掛ける。

「ほらあきりちゃん、乱太郎のとこ行くよ〜」








そうして保健室に運ばれた二人は乱太郎の治療を受け、今に至る。

「それは……確かに…」

怒るのも無理はないだろうと乱太郎は頷いたが、でもねとしんべヱを見た。

「分かってるよぉ。
今後はまず話し合ってから、でしょう?
でもさあ、これでも手加減したんだよお」

乱太郎はハアと溜め息を吐くと、全く恐ろしいな…と苦笑した。

「あー……今更だけどさ、しんべヱ。
ありがとな」

「何言ってるの〜。
きり丸がアルバイト頑張ってるの分かってるしね、僕達親友でしょ?
アルバイトだってね、僕には良い社会勉強になってるし。
いつかパパを継ぐかもしれないのに、何にも知らないのが跡継ぎじゃあ誰もついて来てはくれないよ。
その意味じゃあ逆に僕は感謝する側だよ。
それに、多分きり丸達に会ってなかったら僕は浮いた存在になってたと思うんだ。
きり丸達から貰った物はいくらお金を払ったとしても足りないくらいだよ。
だからね、やっぱり…ありがとう」

「へへっ、お前そんなこと考えてたのかよ?」

きり丸は照れつつしんべヱの頬を突いた。

「さて、と……君達ももう分かっただろう?」

乱太郎の声に、きり丸としんべヱはえ?と彼を見た。

乱太郎は布団の方に視線を向けており、二人もそちらに視線を向けた。

「……ああ。すまなかったな」

「起きてたのか………」

いつの間に意識を取り戻したのか、布団に横になっていた彼らは上半身だけ起こすと、きり丸に頭を下げた。

「よせやい、慣れてる」

「いや、言わせてくれ。
本当に悪かったと思ってる」

中々頭を上げようとしない二人に、きり丸はうーんと唸るとそうだと声を上げた。

「お前ら、今度俺のアルバイトに付き合ってくんねえか?そしたら許してやるよ!」

ニシシッと笑ったきり丸に、ハッと顔を上げた二人は笑顔で「おう!」と返事をした。




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