…………バタバタバタバタッ!

「おばちゃん!夕飯残ってますか?」

「あらあ〜金吾君。
今日は随分と遅かったわねえ。」

慌ただしく食堂に駆け込んで来た金吾に、食堂のおばちゃんがカウンターからひょっこりと顔を出す。

「自主鍛練に夢中になっちゃって…」

今の今まで剣の修業に没頭していた金吾は苦笑しつつ言う。

ほとんどの生徒が食事を終えたこの時間に食堂には誰もおらず、時間の経過さえ気にならなかったという彼からはその集中の程が窺える。

「偉いわね〜。
ちょっと待っててね。」

そう言って奥に消えたおばちゃんの背をカウンター越しに見、やがて鼻腔をくすぐる良い香りに目を輝かせた。

「お待たせ。
お残しは許しまへんで〜!!」

「はいっ!
いただきます!」

いつもの掛け声を聞きながら盆を受け取り、近くの席に着く。

「いただきまーす」

今更ながらにお腹がペコペコだと気づいた金吾は、手を合わせるとすぐに目の前に並ぶ夕飯に箸をつけた。

まずは豆腐を一口、パクリと口に運んだ時。

「おばちゃんお豆腐ありますか!」

金吾とは違い足音もなく入ってきた漆黒の髪を持つ蒼色の制服の先輩。

伊助のとこの先輩……お豆腐好きの…。

モグモグと口を動かしながらボンヤリとその後ろ姿を見る。

グルン!!

「……!?」

突然、彼が振り返りこちらに物凄い視線を向けてきた。

睨まれているわけではない。

わけではない、が……

「(も、ものすごい威圧感……)」

目を見開き、ジッ……と見つめてくる。

耐えられずにパッと目の前に視線を戻し、何かしたっけ…?と記憶を辿るも特に思い当たることもなく。

ドキドキと心臓の音が高鳴り始め、お腹は空いているはずなのに箸が進まない。

カタン……と金吾の斜め前から音がしてそちらを見れば、彼がちょうど手を合わせたところだった。

どの席も空いてるというのにこの距離の近さ、必ず何かあると俯く。

ヒシヒシと感じる視線にグルグルと思考を巡らせ、チラリと彼を見る。

しかし彼は金吾を見ているわけではなかった。

金吾の目の前、その盆の中にある料理。

「(おとうふ………)」

よく見れば彼の盆にその白い食べ物はない。

そういえば入ってきた時豆腐がなんたらと言っていたような……。

コクリと渇いた喉を鳴らし、意を決した金吾は彼……久々知兵助に話し掛けた。

「…あのっ、久々知せ「なんだ!?」」

予想外に早い返答にビクリと肩が跳ねる。

「あ……えーっと、お豆腐が……」

その強い視線にモゴモゴと歯切れ悪くなる言葉。

若干泣きそうになりつつ一気に吐き出す。

「良かったらどうぞっ!」

「へ?」

「一口食べちゃいましたけどっ、でも本当に最初の一口だけでしてその後は口付けてな………」

「良いのか!?」

最後まで言い終わらない内に身を乗り出した久々知に、たじたじとしつつ豆腐の皿を渡す。

「は、はい……。
お好きなんですよね…」

「ありがとう皆本」

ニコニコと豆腐を受け取った久々知は早速一口。

「これを食べないと一日が終わった気がしなくて……」

幸せそうなその表情に、金吾はホッと胸を撫で下ろした。

「そうだ、これをやる。
貰ってばっかりじゃ悪いしな。」

ヒョイと盆に乗せられたのは果実の盛り合わせ。

「あ、ありがとうございます!」

幼い子供のほとんどが甘い物を好きなように、金吾とて例外ではない。

金吾の嬉しそうなその様子を見た久々知も、豆腐をまた一口するとフッと笑った。






(皆本ー!ほらっ、ボーロやるぞ!)
(えっ、あのっ、毎日悪いです…!)
(見ろよあれ、久々知がまた……)
(あー、あれだろ、この前豆腐貰ったって言ってたやつ)
(ああ……餌付けされたって話か…)
(……近からずも遠からず…)






久々知が金吾を気に入ってたら良いなあというお話です。




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