「今日はここまでにしておきましょう。」
その言葉を合図に、ナマエは読んでいた分厚い本を閉じた。
「はい、先生。
ありがとうございました。」
「明日の昼からは王国史第23章のテストをします。
よく復習しておいて下さいね。」
「分かりました。
…おやすみなさい。」
「良い夢を。」
パタンと戸が閉まり、ナマエはドッと全身に伸しかかってきた疲れに溜め息を吐いた。
「毎日勉強ばかりで部屋に閉じ籠ってて、良い夢なんて見れるわけないわ。」
ナマエはここ数週間城外へ出ていなかった。
食事や睡眠等の時間を除き、起きている間はほとんど勉強をしなければならなかったからだ。
先程までナマエにこの王国の歴史について教えていた彼女も教師の一人で、他にもたくさんいる。
彼らは監視もかねてナマエの側から離れない。
その為彼女は息の詰まるような日々を送っていた。
「はあ…外に遊びに行きたい…。」
窓辺に歩み寄り、月明かりに照らし出された大地を見つめる。
「あれは夢だったのかしら……。」
ちょうど一年前に彼と出会った果樹園が視界に入り、ナマエはそう呟いた。
窓を開け放つと風が吹き込み、ナマエの髪を揺らす。
と、その時。
ドサッ……。
背後から、物音がした。
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