「くちゅんっ」
6年長屋にひとつの小さな、かわいらしいくしゃみが響いた。
「あー風邪ひいちゃったね…。この間雨の中遊んでたんだって?」
「んー…いしゃっくんー…」
おきたての小愛は寝起きのためなのかぼーっとしているが、そのほほは赤みを帯びていた。
その異変に気がついた伊作は小愛を抱き上げ、膝の上にのせおでこに手をやった。
「…熱でてる…。」
伊作の予想した通り、彼女のおでこは熱を帯びていた。
「いさっくん…あちゅい…」
「そりゃこれだけ熱が出てたらね…。」
伊作は小愛を再び抱き上げ、まだ眠ったままの食満を起こす事にした。
「留さーん。起きてよー。」
「んだよ伊作…休日だし寝させてくれよ…」
「小愛が熱出したんだよー」
「なっなんだって!?」
食満はそれは見たこともないようなスピードで起き上がった。
「伊作!俺は何すればいい…!」
「ちょっと医務室に連れて行くから僕準備してくる。」
「お…おう!」
「留さん水飲ませてあげてくれる?」
「わかったまかせろ!」
伊作は早足で長屋を出て医務室へ向かって行った。
「ああ…。そう言えば作兵衛が雨の中遊びに出てたっていってたもんなあ…。結局熱だしちまったのか。」
留三郎は小愛を抱き上げ頭を撫でた。その額はいつもよりだいぶ温度の高いものだった。
「あつー…とめしゃあついー」
「おう。ちょっと待ってろよ…。」
留三郎は急いで水をとり、ゆっくりと飲ませた。小愛は美味しそうにこくこくと水を飲む。留三郎はそれを見て安心したような笑みを浮かべた。
「ぷはー」
「うまいか?もう少しで伊作も戻ってくるからな」
「んー」
そのとき扉を開けて伊作が戻ってきた。
「留さん。準備できたから小愛連れてくね。」
「わかった。」
「ほら。小愛おいで。」
「んーいさっくんー…」
伊作はぐったりしながらも手を伸ばす小愛を抱き上げた。
そして急いで廊下を歩いて行き医務室のとをひき、その部屋にひいてある一つの布団に小愛を寝かせた。
「小愛。薬のもうか。」
「うー…こよりくすりにがくていや…」
小愛は薬が嫌らしく、泣きそうに顔を歪めた。
それを見た伊作は少し考えて言った。
「そうだなぁ…。これが飲めたらいいものあげるよ?」
「いいもの?こよりおくすりのむー。」
小愛は伊作から薬を貰うとぽいっと口に含み水を飲み干した。
しかしやはり苦かったのか、顔を歪めた。
「にがー…うう…。」
「よしよし良く飲めたね。はい。少しあついからふーふーして飲むんだよ。」
「??…いさっくんこれなぁに?」
「これはね葛湯っていうんだよ。美味しいからのんでごらん?」
小愛はこくんと頷くとふーっふーっと息をふきかけ、こくんと飲み、そしてほわーっと笑った。
「あまー」
「良かった。それ飲んで早く寝てよくなろうね。」
「うん!」
小愛はゆっくりと葛湯を飲み干し、布団に潜りこんだ。
伊作がとんとんとしてやると薬が効いてきたのか、あっというまに小愛は夢の世界へと落ちていったのだった。
((「早くよくなってね…」))