カーン……と、遠くから鐘が鳴った。
「あっ、授業始まるよ!」
「早く戻らなきゃ!」
あれから名前を取り囲んで話していたは組の面々は、名残惜しそうにして教室に戻ることに。
「姉上はこれからどうするのですか?」
一度は皆と教室へ向かいかけた金吾が振り返り、そう質問した。
フム…と考える仕草をした彼女は、突然ハッとした表情になった。
「金吾…大変なことに気づいたわ…。」
「な、何ですか姉上!?」
「私……」
心配そうな顔で側に近寄って来た弟に、彼女も深刻そうな顔で言った。
「お昼ご飯…食べてないわ……。」
ずっこけた金吾に名前はアハハ…と笑う。
「でも一大事よ金吾。」
「心得ております……。」
一大事、その意味を重々理解している金吾は頷いた。
「おーい金吾ー!」
その時、校舎へと入りかけた庄左ヱ門がこちらに声を掛けてきた。
「ごめん庄左ヱ門!
先生にちょっと遅れるって伝えといて!」
「分かったー!
じゃあ名前さん、またあとでー!」
「はーい、先生にもよろしくねー!」
ヒラヒラと手を振り彼の姿が完全に見えなくなったのを確認した後、名前は金吾に向き直る。
「では…姉上が倒れられる前に食堂へ案内します。」
内心ではその必要はないと思った名前だったが、差し伸べられた小さくも逞しくなった手を見れば取らずにはいられない。
「ええ、お願いします。」
「大丈夫ですか姉上……。」
「な…んとか……。」
「ほら、あそこが食堂ですよ!」
「うん…良い匂いがするもの…。」
空腹に耐えつつ、励まされながらようやく辿り着いた食堂への入口。
「金吾、ここまでで大丈夫だからあなたは教室に戻りなさい。
先生もあんまり遅いと心配するでしょうし…。」
「えっ?
で、でも……」
「もうすぐそこだから。
ね、勉学も立派な剣豪への道の第一歩よ。」
「分かりました…。
では失礼します!」
パタパタと駆けていく金吾を見送り、名前は食堂へと足を踏み入れた。
カウンター越しに覗く割烹着姿のふくよかな女性の後ろ姿を見た名前は、自然と笑顔になる。
「おばちゃん、ランチまだありますか?」
「はいよー、まだ残って……」
名前の声に振り返った彼女……食堂のおばちゃんは目を見開いた。
「お久しぶりです、おばちゃん。」
「あなた…名前ちゃん…?
まあ…大きくなって……!」
カウンター横から飛び出してきた彼女は名前の手を取り目を輝かせた。
しかし、
「ごめんなさいおばちゃん…私…お腹がもう限界で……。」
えへへ…と舌を出し照れ笑いをする彼女に、「変わらないわねぇ」と笑ったおばちゃんは素早く調理場に戻ると手際良く準備を始めた。
今日のランチはハンバーグ定食らしく、先ほどからその匂いが鼻腔をくすぐる。
久しぶりの、おばちゃんのご飯。
何年ぶりだろうか…そう思いつつ懐かしい記憶に思いを馳せる。
きっと昔から変わらない、否、上達したであろう彼女の腕前に期待しつつ、名前は運ばれて来た料理を前に「いただきます」と手を合わせた。