はぁ、と何度目になるか分からない溜め息を吐いた彼女は、もうこれならばいっそ……と立ち上がった。

従者を数名呼び出し、ゆっくりと話し始める。

「少しの間、家を開けます。
父不在の今、本当に申し訳ないとは思いますが……。」

今回の事情を知っている彼らはニッコリ微笑むと頷いた。

「我々も探しに行こうかと話していたところです。
お供いたしましょう。」

「いいえ、今以上に家内を手薄にするわけには……。」

「しかし女性の一人旅など危険ではありませんか?」

「誰に向かって言っているのです?
私がそこらの山賊や盗賊などに負けるとでも?」

「それはまずあり得ませんが…」

「心配しないで下さいな。
……支度はできています、明日の朝には発てるよう、馬の準備だけお願いします。」

彼女の腕前、そして性格をよく理解していた従者達は引き下がる他なく、翌日彼らに見送られながら彼女は家を後にした。

そして、1ヶ月後。

昨日ようやく宝条の家を訪ねた彼女は、父はすでに故郷へと戻った事、さらに金吾が忍術学園へと学びに行ったことも知った。








「そうだったのですか……。
姉上が仇討ちの事を知っていたのは父上から聞いてましたが……。」

「騙してごめんね。
でもお陰で随分と金吾は逞しくなったみたい。」

一年前とは顔付きも変わったかに思える弟の頭を撫で、彼女は微笑んだ。

「剣の腕はどうかしら?」

「良き師に出会えました!」

キラキラとした金吾の表情に、彼女は意味深に頷く。

「ぜひ手合わせがしたいわ。
………久しぶりに。」

"久しぶりに"色々な意味が込められている彼女のその言葉に、金吾はさらに目を輝かせる。

「僕も姉上と手合わせがしたいです!」

「容赦しないけど大丈夫?」

「うっ………」

クスクスと笑いながら、まさかあの金吾が自分から挑んで来るなんて……と、成長を思わずにはいられなかった。

「それから姉上……」

おずおず、と言った風に金吾が小さく呼んだ。

「あの……こ、婚姻の話、は……
僕のせいですよね……」

「なーにを気にしてるの!
私は私に似合う人がいないからしないだけ!
金吾のせいじゃないよ!」

「で、でも……」

「この話はもうお終い!
ほら、あそこから覗いてるのって金吾の友達でしょ?
紹介してくれる?」

はぐらかされた、そうは分かっている金吾だったが、校舎の影から覗く十人の姿を見て溜め息を吐いた。

そちらに向かっておいでおいでと手招きをすれば、ワアッと騒がしく級友達が駆けて来る。

「「きねなきんえめのごきうくじはんの助はおけご好てきねくれえでてとありすがさとんうかござい似てまあこしんまたにちせんはね?!!!」」

「ちょ、ちょっと皆……そんなに一気に言っても……」

「うん、こんにちはー!
昨日は私こそ行き倒れかけたとこを助けてくれてありがとう。
うーん、多分私は母に似て、金吾はどっちかと言うと父に似たからあんまり似てないんじゃないかな?
ナメクジか……ちょっと苦手かも…。」

「おおー!!
金吾の姉ちゃんすげえ!!」

「土井先生並みじゃない…?」

「ナメクジ苦手なんですか……。」

ひとしきりキャイキャイと騒いだ一年は組の良い子達は、彼女の前に一列に並び、順に自己紹介を始めた。

うんうんと頷きながら聞いていた彼女は、十人全員が自己紹介を終えるとパンと手を叩き、笑顔を見せる。

「確認させてもらうね。
保健委員の猪名寺乱太郎君、
図書委員の摂津きり丸君、
用具委員の福富しんべヱ君、
学級委員の黒木庄左ヱ門君、
火薬委員の二郭伊助君、
作法委員の笹山兵太夫君、
生物委員の夢前三治郎君、
会計委員の加藤団蔵君、
生物委員の佐武虎若君、
用具委員の山村喜三太君。」

言い終えた彼女に再び感嘆の声が上がる。

姉を褒められた金吾としても悪い気はしない。

「じゃあ今度は私の自己紹介ね。
皆本名前です。
皆もすでに知っての通り、金吾の姉です。」
よろしく、そう言えば十人の声が重なる。

「「よろしくお願いします、名前さん!」」



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