「ん……あれは……」
草むらに隠れている少年を見つけ、彼女はどうしてここに?と疑問に思いつつソッと近づいた。
見覚えのあるその子は、昨日町で出会った男の子。
頭巾から僅かに覗く髪色と、特徴的な大きな眼鏡。
「ね……何をしているの…?」
ヒソヒソと話し掛けると、乱太郎はこちらを見ずに返答する。
「今かくれんぼをしてて……」
草むらの向こう側を伺いつつそう言った乱太郎は、どうにも無意識に返答しているらしく彼女の存在には気づいていないらしい。
「へえ……じゃあ私も参加しようかしら……。」
「………え?」
ようやく乱太郎が彼女の方を向いた。
「おっ、おっ、おねえさ…」
「シー……鬼に見つかっちゃうよ?」
人差し指を唇に当ててそう言えば、乱太郎は両手で口を覆った。
そして静かに尋ねる。
「どうしてここに…?」
「探してる子がここにいてね……。
まさか君もここにいるなんて思わなかったけど…。」
「探してる子?」
「ああそうだった、多分君と同じ年頃だと思うんだけど知らないかしら?
私の弟のこと……」
「あっ、そこに誰かいるだろ!」
彼女が言い掛けた時だった。
鬼役であろう、乱太郎と同じ制服を着た少年が声を上げた。
その声に、二人共ハッとして視線を向けた。
「見ーつけたっ!
…………。」
ガサッと草を掻き分けた少年は、乱太郎と一緒にいた女性を見て静止した。
「……………。」
「……?
きん「金吾おおおおおおお!!」ご…えっ!?」
彼女の叫び声が響き渡り、乱太郎がギョッと目を見開いた。
次の瞬間には彼女は金吾の肩を掴み、前に後ろにと体を揺らしながら叫んでいた。
「あんたは一年も手紙も寄越さないで!しかも私に何も言わずに忍術学園に入って!どれだけ心配したと思ってるの!かくれんぼするくらいの余裕があるなら連絡くらいしなさい!父上も父上だわ、ずっとついていながら……って聞いてるの金吾!!」
「は、は、は、はいいー!
聞いてっ、いますっ、」
一息を入れずに言い切った彼女に、金吾は何とか返事をする。
「落ち、着いてっ……下さいっ!」
揺れる体と回る視界に酔いかけた金吾が悲鳴のような声を上げる。
「目、がっ……回り……」
ピタ……と彼女の動きが止まり、肩にあった手が金吾の背へ回った。
自分へと引き寄せる形で抱きしめ、溜め息を一つ。
「……大きくなったね…たった一年で…。」
「は、い……姉上……。」
若干目を回した金吾だったが、自分もキュッと抱きしめ返した。
が。
「あの……金吾…?
と、金吾のお姉さん…?」
「「!!!」」
乱太郎に呼び掛けられ、お互いに慌てて離れる。
「いやあのこれはその」
顔を真っ赤にした金吾が乱太郎に詰め寄る。
「金吾ってお姉さんいたんだね。」
「え?う、うん。」
「しかも仲良くて良いなあ!」
「そ、そうかな?
ありがとう……。」
ポン、と乱太郎の肩に手を乗せ、金吾は心の底から安堵の溜め息を漏らした。
「どうしたの金吾。」
「いや……ここにいたのが乱太郎で良かったなって……。」
級友によっては笑い話にされる事を理解している金吾は「頼むから今のことは内密に」と小さく言った。
「ごめんね、えーっと、乱太郎君?
いきなり取り乱しちゃって……」
「いえ、大丈夫ですよー!
じゃあ私、邪魔したくないので向こうに行ってます!」
「金吾、良い友達を持ったんだね」
走り去って行く乱太郎を見つめて言った彼女に金吾は頷いた。
「……それで、何故姉上が突然ここに?」
「話せば長くなるから……あの木陰に行きましょうか」
場所を移動した二人は木の下に座る。
「まずは一年前……あなたを旅立たせた日のことから話さなくちゃね…」
彼女はまだ高い位置にある太陽を木の葉越しに眺め、話し始めた。