乱太郎、きり丸、しんべヱが町を出ようとした時。
「おおい乱太郎!きり丸!しんべヱ!」
聞き慣れた声に名前を呼ばれ、三人は足を止めた。
「土井先生っ!」
「ったく…遅いから心配したぞ!」
そこにいたのは忍術学園教師の土井半助だった。
三人の帰りが遅いのを心配し、町までやって来たのだと言う。
「ほら帰るぞ!」
「はーい!」
「…あれ?先生、あの人だかりは何ですか?」
前を歩き出した土井に、乱太郎が声を掛けた。
乱太郎が指差した方向は、川辺に集まった人々の群れ。
何かを囲うようにしている。
「ん?ああ、何でも……」
と、土井は先程聞いた話を始めた。
それは最近町にやって来た流れ者三人組の話だった。
所謂ゴロツキと言う奴で、町人も迷惑していた。
しかし三人共それなりに腕が立つため恐れられていたらしい。
ところが今日、その三人組が今人々が群れをなしている場所でのびていたのだと言う。
「誰がやったのかは分からないが、男達は目を覚ました後にどこかへ消えたらしい。」
「それって……」
「どうした?」
「俺達、ソイツ等をやっつけた人を知ってます!」
「すっごい優しいお姉さんなんです!
実は……」
三人は一連の出来事を話ながら忍術学園へと向かう。
「にしてもお姉さんって何者なんだろうなー。」
「うーん……かなりの実力者ってことは確かだけど……。」
「あと戸部先生みたいな人だよね〜!」
アハハ、と三人が笑って頷く。
「それはそうと……お前達はその人の名前も聞いていないのか?」
「あ。」
三人の声が綺麗に重なった。
そう、三人共今の今までその事に気づいていなかったのだ。
「しかも俺達の名前も言ってないぜ。」
「そうだねー……また会えると良いなあ。」
「僕も会いたーい!」
乱太郎、きり丸、しんべヱが学園へ帰るのと同じ頃。
話題の彼女はある老人と対面していた。
「クシュンッ!」
「おや、風邪か?」
「いえ……きっと誰かが私の噂をしているのでしょう。」
「ガッハッハ!
そうかもしれんのう……して、これからどうするつもりじゃ?」
「そうですねえ……父上とは入れ違いになってしまったみたいですし……。
ここまで来たならば弟に会いに行くのも良いかと思っております。」
「そうか、きっと喜ぶじゃろう。
なんせあの子はお前さんを随分と慕っておったからのう。」
「ふふ……本当に手の掛かる子でしたから……。」
「いや、しかし立派に成長しておるぞ。
まだまだお前さんには及ばずとも……将来は心配なかろう。」
「それでこそ……私も父もあの子を旅立たせた甲斐があります。」
彼女の表情は穏やかな笑みだったが、その瞳の奥には僅かに寂しさも秘められていた。
その翌日。
「何年ぶりかしら……」
彼女は大きな門の前に立っていた。
脇に掲げられた表札には、【忍術学園】と大きく記載されている。
「あれえ?お客さんですかぁ?」
門の隣の小さな扉が開き、箒を持った青年が尋ねてきた。
「入門の際は入門票にサインして下さいね〜!」
はい!と差し出された入門票に名前を書き、促されるままに門をくぐる。
「出門の際は出門票にサインをお願いしますね〜!」
青年……事務員の小松田秀作はいつも通りにそう言い、彼女が角を曲がったところで入門票に書かれた名前を見た。
「えーっとお……あれ?」
見覚えのある名字に首を傾げる。
「あの人もしかして……」
「小松田君!何をボーッとしているのですか!掃除は終わったんですか!?」
「ひゃああすいませーん!」
背後から主任の吉野作造に呼ばれた小松田は、入門票の事はすっかり忘れて掃除に取り掛かった。