あれから少しも経たない内に、一度は店内に戻った乱太郎が飛び出した。
走り向かった先は町の外の川。
三人で話し合った結果、保健委員でもあり一番足の速い乱太郎が様子を見に行くことになったのだ。
川辺を走り、四人の姿を探す。
と、乱太郎の視界に倒れた人が映った。
その数は四つ。
乱太郎はサッと顔色を変えた。
相打ち、その言葉が頭に過る。
「お姉さんっ!」
土手を駆け降り、ピクリとも動かない彼女に近づく。
うつ伏せの彼女の頭を自分の膝に乗せながら反転させると、「うう…」と僅かに声が聞こえた。
ホッと息を吐き、怪我の具合を調べるも特には見当たらない。
頭を打ったのかと考えた時、クウゥ……と音が鳴った。
「……お腹……空いた……もう動けない……」
ガクリと乱太郎は脱力し、ペチペチと彼女の頬を叩く。
「あの、お姉さん?」
「う……ん…?
ああ、君は……さっきの……」
「はい、あの……一体何が……」
「説明は後でするから……何か食べさせて……
男達の方は大丈夫、このまま寝かせといて…気絶してるだけだから……」
乱太郎が男達を見た所、頭に大きなタンコブがあるのみだったので放っておくことにした。
「歩けますか?
肩貸しますから……」
フラフラとした足取りで、二人は町へ戻って行った。
乱太郎は最初に目に入った茶店に入り、団子を注文すると彼女に渡す。
「私、きり丸達の所に一度戻りますから!」
「うん!ありがとう!」
モグモグと団子を頬張りつつ、彼女は乱太郎に手を振る。
パタパタと駆けて行く乱太郎の背を見送った彼女はフッと微笑んだ。
「同い年くらいかなあ……」
カチャン……と空になった皿に、団子の無くなった串を置くと背伸びをする。
「もう一年か……。
一体どこほっつき歩いてんのよ……」
赤々と燃える夕日を眩しそうに見つめ、ああそうだと店員を呼ぶ。
新たに団子を三人分頼み、もうすぐ来るであろう彼らを待つ。
注文した団子が来る頃、ちょうど三人が走って来た。
「お姉さんっ!」
「そんなに急がなくても……ほら、大丈夫だったでしょう?」
彼女がブイサインを作って笑うと、乱太郎が「ハッキリそうとも言えませんが……」と苦笑した。
「で、結局勝負は……」
団子を食べつつ、気になっていたことをきり丸が尋ねる。
「勝ったのは私なんだけどねー…そういえばお昼ご飯食べてなくって!」
「それで倒れちゃったんですかぁ?
でも分かりますよお姉さん!
だって僕もいつもそうだもん!」
「しんべヱ、それは威張れることじゃないぞ〜」
ツンツンと突っつかれ、しんべヱはエヘヘと笑う。
「照れることでもないぞ。
お姉さん、続きをどうぞ」
「はいはい。
私が川辺に行ったら、男達はどこから持って来たのか木刀を持ってたの。
私としても真剣は嫌だったし……それで木刀で勝負することになったんだけど」
クスクスと笑い始めた彼女に、三人は顔を見合わせた。
「ああ、ごめんなさい。
彼ら、びっくりするくらいに弱くて……すぐに勝っちゃったの」
「ええっ!?」
大人、しかも三人の男を相手に弱いと言い切る彼女に、三人は驚きを隠せない。
「町では腕が立つって多少なりとも有名だって話だったんだけど……ちょっとガッカリしちゃった」
ハア、と溜め息を吐き、彼女は立ち上がった。
「後は私が空腹で倒れちゃったってだけ。
そういう意味で君は命の恩人ね、本当にありがとう。
さあ、暗くなる前に早くお帰り。」
「あー!!
忘れてた、土井先生に日が沈む前に帰ってこいって言われてたんだった!」
きり丸が叫び、乱太郎としんべヱもハッとして立ち上がる。
「お姉さん、こちらこそ本当に本当にありがとうございました!」
「いえいえ、気をつけて」
「はい!さようならー!」
慌ただしく駆けて行く三人の影が消えた頃、彼女は「すっかり遅くなった……」と橙と濃紺が交ざり合った空を見つめた。
「さて、あの人がいらっしゃると良いのだけれど…」
呟いた彼女は町にある一軒に向かって行った。