よく晴れたある日のこと。
忍術学園一年は組の猪名寺乱太郎、摂津きり丸、福富しんべヱの三人は学園近くの町へと来ていた。
授業が休みの今日、きり丸がいつもの如くアルバイトをすると言うので二人もついて行っていたのだ。
アルバイトの内容は店の留守を預かるというもの。
正午を少し過ぎた頃。
骨董品の並ぶその店へ、いかにも悪者ですと言うかのような男達がズカズカと入って来た。
「いらっしゃいませー!」
「……ガキが三人か」
きり丸が営業用の笑顔を向けると、男の一人がニヤリと笑い、後ろに控えていた二人に一言二言何やら呟いた。
それを聞いた二人もニヤリと笑い頷く。
「……おい、」
「はいはーい何でしょう?」
感じが悪いとは内心思いつつ、きり丸はその男に近づく。
「この壺の値段はちょっと高過ぎやしねえか?」
「それは南蛮渡来の物ですからそれくらいの値段になるかと……」
「おいおい、これが南蛮渡来だと?
俺はそれなりに目が利くんだ、こりゃあ偽物だぜ?」
男の言葉に残り二人も頷いた時。
「その壺は本物の南蛮渡来の壺ですよ!」
声を上げたのはしんべヱだった。
「僕には堺で貿易商をやってる父がいます。
それで南蛮物をいーっぱい見てきたから分かるんです!」
「ああ?
お前、客の俺様に文句つけようって言うのか?」
「最初に文句をつけて来たのはそっちじゃないですか!」
男達に向かって、乱太郎が言った。
「第一おじさん達……ここで安く買って、他所(よそ)で高く売るつもりなんだろ?」
きり丸の放った一言で、男達の表情から笑みが消えた。
「このクソガキ!」
「図星だからそんなに怒るんだろ!?」
段々と険悪な雰囲気が漂い始め、乱太郎、きり丸、しんべヱが"マズイ"と思った時だった。
「大の大人が子供に寄ってたかって……恥ずかしいと思わないのですか?」
凛とした女性の声が店内に響き、六人は入り口へと目を向けた。
「この簪(かんざし)、戴いても良いかしら?」
「えっ?」
店頭に並んでいた簪を手に、彼女はきり丸に歩み寄った。
「はい、お代。」
「あ、ありがとうございます…」
きり丸が差し出された銭を受けとると、彼女は男達に振り返る。
先程までの喧騒を無かったかのように振る舞う彼女に、男達は呆然と彼女の視線を受け止めた。
「買い物とはこうするものではなかったですか?
教わらずとも、幼子でさえこうするのですよ」
「なっ、なんだと!?」
「テメエ……女だからって容赦しねえぞ……」
「容赦?
力ずくで事を片付けようとでも言うのですか?」
「だったらどうするんだ?
今なら謝れば許してやるぞ……」
彼女はニコリと微笑み、背後で不安気に見つめてくる子供達に片目を瞑ってみせた。
「良いでしょう、受けてたちます」
再び男達に向き直った彼女の目が細められ、その鋭い視線に男達は一瞬ゾクリと背筋を凍らせた。
「腰にあるそれは刀ですね?
私も少しですが扱えます。
ここではなんですから…町のすぐ近くに流れている川辺に移動しましょう」
「……行くぞ」
彼女の視線によるものか、男達は大人しく店から出ていき、足早に町の外へと向かって行った。
「あ、あの……!」
静かになった店内で、きり丸が彼女に声をかけた。
「俺らのせいで……すいません…」
「ん?
大丈夫大丈夫!
悪いのはあの人達でしょ?
じゃあ軽くぶちのめして来ますか!」
「へっ?お姉さん行くの?」
「当たり前じゃない、約束は守らなきゃ!」
「怪我しますよ!?
いや、怪我だけじゃ済まされないかも…」
しんべヱが首を傾げ、彼女はニコニコと答えれば乱太郎が心配そうに言った。
「そうね、手合わせは久しぶりだから……」
ポツリ、彼女が溢した言葉は三人にハッキリと聞こえなかった。
「絶対に大丈夫だから、心配しないで。」
「でも…俺達も行きます!」
「気持ちはありがたいんだけど……店番は良いの?」
「あ……」
「ふふ、じゃあ行ってきます!」
「まっ……お姉さ……ん…?
あれ……?」
外へ消えた彼女を追い、店を飛び出した三人だったが……その姿はすでに辺りにはなく、町の人々が数人歩いて行くのみだった。