(……少々時間を遡る……)
「さっきの、六年生ですよね?
あの緑の制服、懐かしいです。」
戸部の後ろを歩く名前が尋ねると、戸部は「そうだ。」と頷いた。
「皆大きくなりましたね…。
五年前とは大違い。」
昔を思い出しながら名前は笑う。
しっかりと見たわけではないが、顔付きも記憶の中の彼らとは異なっていた。
数年の間に想像以上に成長した彼らを思い、自身の弟もあのようになるのだろうかと期待のような感情が沸き上がる。
その成長を、できれば側で見守っていたいとも。
その時丁度渡り廊下に差し掛かり、そこから外へと出る。
「広さは十分だろう。」
戸部の言葉に名前は頷き、差し出された木刀を受けとる。
「では、お手柔らかに。」
誰もが美しいと思える礼をした名前が顔を上げ、スッ…と木刀を構えた。
その構えに力の入った様子は全くなく、自然体そのまま。
まるで刀と彼女自身が一体化しているかのようだった。
戸部が名前と最後に剣を交えたのは約二年前。
五、六年生と同じく名前もここ数年間で随分と成長したと戸部は感心し、木刀を握る手に力を込めた。
戸部も剣先を名前に定めた瞬間、それまでの二人の雰囲気がガラリと変わった。
そして刀越しに向かい合ったまま、ピクリとも動かなくなった。
やがて五、六年生がその場へやって来たときも二人の集中が途切れることはなかった。
動きを見せない二人だったが、しかし彼らの脳内ではすでに手合いは始まっていた。
二人の間でイメージされている刀のぶつかり合いやお互いの動きはあまりにもリアルで、いつまでも決着がつくことはない。
想像上のものではあるが、二人の戦いによる緊張感や集中力がその場に漏れだし、自然と周りの空気をも巻き込んでいた。
先ほど五、六年生が感じたものもそれに他ならならず、永遠にこのままの状態が続くかに思われた。
酷く静寂したその場は、時が止まっているかのよう。
しかし、沈黙を破り最初に動きを見せたのは名前だった。
「……参ります。」
何十手も先を考えていた名前が、聞こえるか聞こえないかというような小さな声で言った。
彼女の影が一瞬揺らめき、たった一回の瞬きの合間には戸部との距離を詰めていた。
同時に、ガチン!!という木刀同士の衝突音が辺りに高く響き渡った。