「先生とはぜひまた手合わせしたいとは思っていましたが…こんなに早く叶うなんて。」
前を歩く戸部に名前が言うと、彼は低い声で応えた。
「私もお主とは今一度剣を合わせたくてな…。」
「でも手加減をして下さらないなんて、結果は目に見えているようなものです。」
戸部はこれには応えず、前から歩いてくる緑と青の制服に身を包んだ生徒達に目を向けた。
「こんにちは。」
彼らはそう言うと左右に分かれ、道をあけた。
「む…今日は合同実習だったか…。」
「はい。」
彼らの汚れた制服を見ながら戸部は頷き、そのまま歩いて行く。
名前は軽く会釈しながらその場を通り過ぎ、戸部の後に続いた。
「…今の、誰だ?」
蒼の制服を着た一人、久々知兵助が呟いた。
「さあ?
戸部先生の知り合いだろう…けど、女の人なんて珍しいよな。」
応えたのは尾浜勘右衛門。
「まさか戸部先生の恋人…」
「それはないと思うけど…」
鉢屋三郎に続き、不破雷蔵が言った。
「剣豪仲間の娘さん…とかが妥当だろうな。」
竹谷八左ヱ門の言葉に他四人も頷く。
「…見たことがあると思えば。」
と、名前が消えた廊下の先を見つめていた立花仙蔵が言った。
「やっぱりそうか?」
同意したのは潮江文次郎。
「今の名前だよなっ?」
七松小平太が声を上げ、
「もそもそ…」
何やら中在家長次が呟いた。
「懐かしいな。
しかし何でここに…。」
食満留三郎が隣にいた善法寺伊作を見る。
「さあ…?
まさか再入学ってわけじゃないだろうし…。」
「あ、あの…」
と、それまで黙って六年生の会話を聞いていた久々知が声を上げた。
「先輩方、さっきの人を知っているのですか?」
「ん?
ああ、お前達は名前を知らなかったな…あいつは…」
立花が五年生の顔を見回して言った。
「五年前、我々と同じくこの学園に入学したんだ。
そして、戸部先生の弟子でもある。」